組織学習はどのようにして進むのか:連載「組織学習の見取図」第3回
組織学習はどのようにして進むのか:連載「組織学習の見取図」第3回

組織学習はどのようにして進むのか:連載「組織学習の見取図」第3回

2020.10.08/5

連載「組織学習の見取図」3回目の記事となる今回は、あらためて組織学習のプロセスに着目し、その特徴を整理しておきましょう。

これまでの記事で、「組織学習(organizational learning)」とは、「組織のルーティンの変化」であると説明しました。組織が保有する知識が増えたり、行動が変化したり、ものの見方が変わったりすることも立派な学習ですが、再現性のある習慣としての「ルーティン」が変化してこそ「組織は学んだ」と考えるのです。

イノベーションが「大きな変革」だとするならば、その前提には日々のルーティンを揺さぶる「小さな変化」の蓄積が必要です。組織のイノベーションは、日々の学習から生まれるのです。

しかしながら、いきなり「組織」は学びません。どのようなサイズの組織であっても、その構成員は「個人」です。個人の経験学習を起点としながらも、それを増幅させて、組織レベルの変化へと昇華させること。それが「個人の学習」が「組織の学習」へとつながるためのポイントでした。


組織学習のサブプロセス

それでは組織学習は、具体的にどのようなプロセスで進むのでしょうか。これについては、さまざまな先行研究があります。入山章栄氏は、書籍『世界標準の経営理論』において、アルゴーティの研究を改変しながら組織学習の循環を「①サーチ」「②知の獲得」「③記憶」の3つのサブプロセスのサイクルでまとめています。

Agrote(2011)をもとに入山(2019)が作成したモデル

ここでいう「サーチ」とは、この記事でも紹介したマーチとサイモンの企業行動の原理における「探索行動(Search)」にあたります。何か行動をすることによって、組織は認知を広げ、新たな経験をするのです。そして経験から獲得された知を、組織の記憶として保存し、いつでも引き出せる状態にしておくこと。このサイクルが、組織学習のプロセスなのです。入山氏の論の特徴は「サーチ」のプロセスに「両利きの経営」の理論を位置付け、組織にとっての「知の探索」と「知の深化」を、サブプロセス①に内包している点です。

他方で、安藤史江さんの著書『コア・テキスト 組織学習』では、フーバーの1990年の研究を基盤にしながら、「①知識の獲得」「②知識の移転」「③情報の解釈」「④組織の記憶」の4つのサブプロセスのサイクルとして組織学習のプロセスを規定しています。

Huber(1990)をもとに安藤(2019)が作成したモデル

「知識の獲得」とは、組織が必要な知識を内外から新たに獲得することであり、これを組織学習の起点としています。獲得された知識は、しかるべきタイミングで組織内の別の場所に分配されます。これが「知識の移転」です。移転された知識は、何らかのきっかけで、組織にとって「ふさわしいかどうか」「役に立つかどうか」「意味があるかどうか」のジャッジ、すなわち「情報の解釈」がなされます。そうして組織としての正統性が認定された知識が「組織の記憶」として保存されるのです。組織の正当性が獲得された記憶が実行される過程で、組織のルーテインが蓄積していく。これが、安藤モデル(フーバーモデル)の組織学習の基本サイクルです。

組織学習は複数の理論を包含するメタ理論です。余談ですが、たとえば野中郁次郎氏の『知識創造企業』のSECIモデルのコンセプトなどは、入山モデルでは「知の獲得」に位置付けられ、安藤モデルでは「組織の記憶」に位置付けられており、その解釈の微妙な違いなどが、興味深くもあります。

組織学習の2つのモード

また、一巡する軌道として組織学習を捉えるのではなく、異なる2つのモードでその性質を種別する考え方も主流です。いろいろな考え方がありますが、たとえば、組織学習という研究領域の先駆者であるクリス・アージリスドナルド・ショーンは、組織学習をその性質から「シングル・ループ学習」「ダブル・ループ学習」に分類しています。

「シングル・ループ学習」とは、ある「結果」に対して、もしそれが期待に叶わなかった場合、「行動」を変化させる学習のことです。他方で「ダブル・ループ学習」とは、結果に対して行動を見直すだけでなく、その前提となっている「価値観」をも見直す学習のことです。結果として「ダブル・ループ学習」は、組織の既存の枠組みを問い直し乗り越えていく、創造的な学習につながります。

シングル・ループ学習とダブル・ループ学習

「両利きの経営」における既存業務の改善を繰り返す「知の深化」は「シングル・ループ学習」的だと言えるでしょう。他方で、実験によって既存の選択肢を拡張させる「知の探索」は「ダブル・ループ学習」的だと言えるでしょう。

この2つには、優劣はありません。前者だけでは組織は「成功の罠」に陥り衰退していくでしょうし、後者だけでは、経営を安定させて利益を稼ぐことはできません。漸進的な改良のレベルの学習(知の深化)急進的な革新のレベルの学習(知の探索)2つのモードが組織には必要なのです。

組織学習のプロセスの特徴

以上を踏まえると、組織学習のプロセスには、いくつかの特徴があると言えそうです。

  • いくつかのサブプロセスの循環として記述することができる
  • 個人の学習に組織の正当性が認定され「知の保存」がされることが重要
  • 「知の深化」と「知の探索」の異なる2つのモードの両立が重要

筆者(安斎)は、これらの考え方を参照しながら、組織学習のプロセスを2つの異なるモードの循環的なプロセスで記述することができないか、模索しています。このモデルの解説は、もう少し連載が進んでから、改めて精緻に解説したいと思います。

筆者が作成した両利きの組織学習のサイクルモデル

次回からは、このうち「知の深化」に関連する学習理論を紹介していきたいと思います。

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