前回の記事では、職場におけるレジリエンスの重要性について「マネジャーが不確実性の高い世の中において仕事に適応的に対処できるようになること」、「部下がレジリエントに働ける環境をつくれるようになること」という2つの観点から紹介しました。連載の第2回目では、自身のレジリエンスを高めるために大切な視点についてご紹介します。
レジリエンスは高められるか?
レジリエンスの定義や要素については数々の議論があるものの、近年の研究では、レジリエンスの要素として「高めやすい要素」と「高めにくい要素」が存在することが指摘されています。
例えば、平野(2010)の研究では、レジリエンスを遺伝による影響が強い「資質的レジリエンス」と、後天的に獲得しやすい「獲得的レジリエンス」に分類しています。資質的レジリエンスとしては、楽観性、統制力、社交性、行動力が挙げられており、獲得的レジリエンスには、問題解決志向、自己理解、他者心理の理解が挙げられてます。
つまり、レジリエンスの中でも、前向きに未来を明るく考える力や、我慢強さ、人と交流する上での積極性などは、なかなか高めることが難しい一方で、問題状況に対処する力や、自己や他者を理解する力は、高めやすいと考えられています。
レジリエンスを高める2つの方法
平野 (2017)は、レジリエンスを高める方法を、「発掘」と「増幅」に分類しています。
平野 (2017)によると「発掘」とは、自分の持った潜在的なレジリエンスを発見することを示し、「増幅」とは、新たな知識やスキルを得ることにより、レジリエンスを獲得していくことを示します。遺伝の影響が強い資質的レジリエンスを高める上では、特に「発掘」が強く用いられ、獲得がしやすい獲得的レジリエンスを高める上では、特に「増幅」のアプローチが用いられます。
一見、「『発掘』だけでは、レジリエンスが本当に高まったと言い切れないのではないか?」とも思われるかもしれません。しかし、困難な状況に対処する力をつける上で「発掘」も大事なアプローチです。例えば、自分が持っている強みに気がつくことで、職場でネガティブな出来事が生じた時に、その強みを活かし、状況をよくすることが可能です。
加えて先行研究では、ネガティブなことが生じた時に、それにうまく対処する上では、「レジリエンス」に含まれる様々な要素が必要だと考えられています。具体的にネガティブな状況から立ち直る場面を想定してみましょう。まずは、資質的レジリエンスの「楽観性」をいかし、この辛い状況も乗り越えられると楽観的に考える。次に、獲得的レジリエンスの「問題解決志向」を生かし、この状況をいかに乗り越えるか検討する。最後に資質的レジリエンスの「統制力」を生かし、やるべきことをコツコツやっていく。こうしたプロセスも想定されます。
また、レジリエンスのどの要素が、ネガティブな状況への対処に効くかは、どのような困難に直面しているかどうかや、本人がどのようなタイプなのかによっても異なると言われています(平野2010)。
こういったことからも分かるように、レジリエンスを高める上では、自分の潜在的な力に気づく「発掘」のアプローチも、スキルを身に着ける「増幅」のアプローチも、どちらも重要です。以下では、レジリエンスを「発掘」する方法と、「増幅」させる方法について簡単にご紹介します。
方法①レジリエンスを発掘する
レジリエンスを発掘する方法としては、自分の過去のキャリアを振り返るというやり方があります(平野 2017)。例えば、Borgen et al. (2004)は、自分のキャリアを振り返るポートフォリオを作ることが、レジリエンス の向上につながることを示唆しています。
ここで、過去のキャリアを振り返る簡単なエクササイズをやってみましょう。まず、働く中で大変だったことや、修羅場体験を思い出してみてください。次に、そのような状況をどのように乗り越えるたか思い出してみましょう。一人で思い出すのが難しい、一人だとなんだか暗い気持ちになってしまうという方は、一緒にその状況を乗り越えた仕事仲間や、自分のことをよく知っている人にどのようにその状況を乗り越えたか聞いてみてもいいかもしれません。
例えば、エクササイズをやってみた結果、新サービスを考える場面で、企画書がなかなか通らなかったっという場面を思い出したとしましょう。その際に上司にたくさん却下されても何度も企画書を出し続けたAさんは、粘り強さがあるかもしれません。あるいは、多くの経験者に話を聞きに行き、企画書をブラッシュアップさせたBさんは、行動力で、逆境を乗り切っていたかもしれません。この場合Aさんはレジリエンスの構成要素 の中の忍耐力が高いと考えられます。また、Bさんは、行動力や、問題解決志向が高いかもしれません。
いかがですか?このように過去に逆境を乗り越えた経験を振り返ることで、自分が逆境に立たされた時の強さを知ることができるのではないでしょうか?
ここまでは、自分の持ったレジリエンスに気が付く「発掘」のアプローチについて紹介しましたが、次は、スキルを増やす「増幅」のアプローチを紹介します。
方法②レジリエンスを増幅させる
レジリエンスを増幅させる方法としては、新たな知識やスキルを獲得することや、日々の中で問題を解決し、成功体験を積むことが挙げられています(平野2017)。
例えば、上司や先輩に、修羅場のような体験をどのように乗り越えてきたか聞くことは、仕事における困難状況を乗り越える知識やスキルを獲得することや、「この状況はきついけれど、〇〇さんも乗り越えてきたことだから、きっと乗り越えられる」といった効力感を育むことに繋がるかもしれません。
また、コーチングがレジリエンスの向上に効果的であるという結果を示す研究(Grant et al. 2009)もあります。日々働く中では、個人が目標に向かって自己調整的に行動しています。そのサイクルの中には、もちろん乗り越えなければならない障壁や課題があると考えられます。レジリエンスは、こうした障壁や課題をうまく乗り越えることで向上していくと言われる一方、コーチングは、こうした課題を乗り越えるのに集中させたり、乗り越える勇気を与えるため、レジリエンスの向上に寄与すると考えられます。
本記事では、自身のレジリエンスを高める方法についてご紹介しました。次回は、部下がレジリエントに働ける環境をつくるためにマネージャーが発揮すべきリーダーシップについてご紹介します。
参考
Borgen, W. A., Amundson, N. E. and Reuter, J. (2004) Using portfolios to enhance career resilience. Journal of Employment Counseling, 41 (2) : 50-59
平野真理(2010)レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み:二次元レジリ エンス要因尺度(BRS)の作成.パーソナリティ研究,19(2):94-106
平野真理(2017)資質を涵養する:パーソナリティ心理学.臨床心理学,17(5):669- 672
Grant, A. M., Curtayne, L., & Burton, G. (2009). Executive coaching enhances goal attainment, resilience, and workplace well-being: A randomized controlled study. Journal of Positive Psychology, 4, 396–407. doi:10.1080/17439760902992456
ライター:池田めぐみ
東京大学 社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター 助教。2020年 東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。主な論文に『大学生の準正課活動への取り組みがキャリアレジリエンスに与える影響:他者からの支援や学生の関与を手掛かりに』(日本教育工学会論文誌)など。