遊びが組織にもたらす創造的エネルギー:連載「遊びのデザイン」第5回

遊びが組織にもたらす創造的エネルギー:連載「遊びのデザイン」第5回

安斎 勇樹

2021.04.09/ 6min read

仕事や生活に「遊び心」を取り入れることで、創造性を高める「遊びのデザイン」。これまでの連載では、ワークショップにおいて参加者の内発的動機をくすぐる仕掛けや、ゲームデザインの手法の可能性などについて考察してきました。

遊びのデザイン:組織変革のプレイフル・アプローチ | CULTIBASE | 組織ファシリテーションの知を耕す。

CULTIBASEでは、「イノベーション」「経営・マネジメント」「デザイン」「学習・人材育成」「ファシリテーション」を切り口として、「組織のポテンシャル」を引き出し、クリエイティビティ溢れる組織づくりやイノベーティブな事業の創出に役立つ様々な考え方やノウハウを紹介していきます。

今回の記事では、組織に「遊びのデザイン」を持ち込むことによって生み出すことができる創造的なエネルギーについて、整理していきたいと思います。


現代の組織をむしばむ3つの病い

拙著『問いのデザイン』で指摘した通り、現代の組織には、暗黙の前提が凝り固まる「認識の固定化の病い」、そしてチームメンバーがわかりあえない「関係性の固定化の病い」が蔓延し、組織学習やイノベーションの阻害要因となっています。

本記事では、これらの現代病が副次的に引き起こす、ひとりひとりの内発的動機が抑制される「衝動の枯渇の病い」も加えておきましょう。

認識の固定化:当事者に暗黙のうちに形成された認識(前提となっているものの見方・固定観念)によって、物事の深い理解や、創造的な発想が阻害されている状態
関係性の固定化:当事者同士の認識に断絶があるまま関係性が形成されてしまい、相互理解や、創造的なコミュニケーションが阻害されている状態
衝動の枯渇:当事者ひとりひとりの内面から湧き上がる「衝動」が抑圧され、ものづくりやコミュニケーションのモチベーションが失われている状態

イノベーションを生み出したい。目まぐるしい環境変化を乗り越えたい。新規事業を生み出し、チャレンジしたい。経営層がそのように考えていても、組織が上記の病いを患ってしまうと、「新しいことを始められない」「これまでのやり方を変えられない」「芽生えたアイデアを続けられない」「お互いの考えていることをわかりあえない」といった悪循環に陥り、次第に現場レベルからエネルギーを失っていくのです。

遊びがもたらす4つの創造的エネルギー

「創造性」の代表的な研究者の1人、チクセントミハイが指摘する通り、創造性を発揮するためには、十分な「心理的エネルギー」を目の前の課題に集中的に投下することが必要です。組織に「遊び」を導入する意義は、まさにこの創造的なエネルギーを充填することに、他なりません。具体的には、遊びのデザインは、以下の4つのエネルギーの源になるでしょう。

(1) 始めるエネルギー
(2) 変わるエネルギー
(3) 続けるエネルギー
(4) 繋がるエネルギー

1. 始めるエネルギー

第一に、遊びのデザインは、新しいことを始めるきっかけを生み出します。

創造的なエネルギーを失った組織が新しいことを始める理由の大半は「このままではまずいから」「始めなければ、潰れてしまうから」といった、ネガティブなものでしょう。しかし不安や恐怖を起点とした変革は、持続性がありません。病気になって体調を崩したときには「これからは規則正しい生活を心がけよう」「元気になったら、定期的にジムに通おう」などと考えますが、いざ病気が治ると、元の生活に戻ってしまいがちです。

新しいことを始めるためには、ネガティブな感情だけでなく、内発的な面白さや楽しさが内在していることが重要です。組織に遊びのエッセンスを導入することは、新規なルーティン(習慣)を導入するきっかけとなるのです。

2.変わるエネルギー

第二に、遊びのデザインは、これまでのルーティンを変えるきっかけを生みだします。

現代病を患った組織の多くは、なかなか従来のルーティンを変えることができません。

事業がうまくいっているときは、いわゆる「サクセストラップ(成功の罠)」のメカニズムによって、これまでのルーティンをなるべく改善しながら繰り返します。それでは、うまくいかない場合はどうかといえば、不確実性が高い状態に直面した組織は、むしろ従来のルーティンに慣性が働き、強化されてしまうという研究結果があるそうです(参考『オンライン採用』p.33)。事業の好不調にかかわらず、染み付いたルーティンを変えることは、容易ではないのです。

他方で「遊び」の本質とは、「飽きること」にあるといっても過言ではありません。誰しもが子どもの頃に、かくれんぼや鬼ごっこに飽きてしまい、ルールに改変を加えたことがあるでしょう。変える必然性はないけれど、「もっと面白くするために、やり方を変えてみる」ということは、遊びが持っている大きなエネルギーなのです。

3.続けるエネルギー

第三に、遊びのデザインは、組織内に生まれたアイデアやアクションの芽を、持続させる力を持っています。

思い立って新しいルーティンを導入したものの、当初感じていたワクワク感が消失し、気づけば定着せぬまま風化してしまった。他方で、何気なく手に取った漫画やゲームにのめり込んでしまい、やめられなくなってしまった。そんな経験をしたことがある人は、少なくないはずです。

前回の記事でも解説した通り、遊び、特にゲームのデザインは、特定の行動を動機付け、継続させる効果を持っています。せっかく芽生えた活動を持続して定着させたいときにも、遊びのデザインは有効なのです。

4.繋がるエネルギー

最後に、遊びのデザインは、人と人の繋がりを生み出すきっかけとなります。

基本的に、他者とのコミュニケーションやコラボレーションには「コスト」がかかります。チームの多様性を尊重し、異なる意見や専門性を有したメンバーと対話しながらコラボレーションすることが、イノベーションにつながる。…これを頭では理解しながらも、日々の業務やプロジェクトで実践することは、必ず「大変さ」「面倒臭さ」がつきまといます。

コラボレーションに関する研究では、基本的にこの「コスト」を上回るための「他者と関わる必然性」が必要だとされています。たとえば「一人では解決できない課題がある」「課題解決に必要な職能を、他者が有している」といった、他者との依存構造が必要とされています。

しかし例外的に、必然性がなくても人と人がつながる場面があります。それが「遊び」の場面です。何か面白そうだから、一緒にやってみる。”この指止まれ”という掛け声に、周囲の人が偶発的に巻き込まれていく。チームに新たなつながりを取り戻すことも、遊びのデザインの効用です。

以上、遊びのデザインが組織にもたらす4つの創造的エネルギーについて整理してきました。これは組織だけでなく、個人の生活にも適応できるでしょう。何か新しいことを始めたいとき。今までのやり方を変えたいとき。新しい習慣を継続させたいとき。誰かと新たにつながりたいとき。人や組織がエネルギーを失い「変われない」状態になってしまったときこそ、「遊びのデザイン」を導入していく好機といえるでしょう。

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