本音から生まれる「笑い」こそが“いい仕事”の源泉──おもちゃクリエーターと考える、「衝動」の活かしかた

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約12分

本音から生まれる「笑い」こそが“いい仕事”の源泉──おもちゃクリエーターと考える、「衝動」の活かしかた

働くことに、もっと「遊び」の感覚を取り入れることはできないか──。そんな課題意識から発足したのが、CULTIBASE Lab会員向けオンラインプログラム「遊びのデザインゼミ」。経営や組織開発から、新規事業開発やコミュニティ形成にいたるまで、「遊び」という軸を通して、これまでにないアプローチを探ります。

今回のゲストは、株式会社ウサギ代表のおもちゃクリエーター・高橋晋平さん。2007年に発売され、国内外累計335万個を売り上げた大ヒットおもちゃ「∞(むげん)プチプチ」の開発者としても知られています。

高橋さんは自らを「笑いにとりつかれた男。『笑わせたい』『笑われたい』『笑ってくれ』を最大にして唯一の欲望、生命力の根源として生きています」と称しますが、なぜそこまで「笑い」にこだわるのでしょうか。

ものづくりだけでなく、経営や組織イノベーション、リーダーシップにも通じる「笑い」の哲学について、CULTIBASE 編集長の安斎勇樹や立教大学経営学部准教授の舘野泰一とともに語り合いました。

プロフィール高橋晋平
1979年秋田県北秋田市生まれ。2004年に株式会社バンダイに入社し、大ヒット商品となった玩具「∞プチプチ」など、バラエティ玩具の企画開発・マーケティングに約10年間携わる。2013年には、TEDxTokyoに登壇し、アイデア発想に関するスピーチがTED. comを通して世界中に発信された。2014年より現職。様々な企業の企画ブレーンや、チームを育成しつつ新商品を立ち上げる「企画チームビルディング」に従事するなど、いろいろな形でモノコトづくりに携わっている。

心から笑えないと、いい仕事はできない

一般的に「笑い」は、ポジティブなものと見なされます。一方で、仕事や教育といった“真面目”な領域では、必ずしもそうではありません。しかし、高橋さんは「笑えていない状態では、いい仕事もできないし、教育にもよくない」と語ります。

高橋「仕事においては『笑ったら不謹慎』『真面目なほうがかっこいい』といった暗黙の了解がありますよね。でも、僕は『それっておかしくない?』と思っていて。会社員時代、プレゼンが通るのは、決まってみんなが笑っているときでした。

僕は本当に自分のアイデアがおもしろいと思っているから、話していて嬉しさが止まらず、プレゼン中もニヤニヤしてしまう。それにつられて、周りのみんなにも笑いがうつっていく。いいプレゼンができているときは、そんなシチュエーションになることが少なくありませんでした。

心から笑いながら取り組めるようじゃないと、いい仕事にならないし、長くも続きません。だから『仕事では笑うな』と言う人には、『何を言っているんだろう?』と思いますね。なにかを学ぶときだって、笑ったり感情が動いたりしているときのほうが、吸収効率はいい。笑っているほうがいいに決まっているじゃんと」

一口に「笑い」と言っても、「本気の笑い」と「嘘の笑い」があると高橋さんは考えているといいます。

高橋「僕は大学で落語研究部に入部したのですが、最初の2年間は、ひたすらスベり続けるだけでした。なぜかというと、べつに明るい性格でもないのに、無理をして芸人さんのマネをしていただけだったから。でも、3年目のあるときから、自分に起きた不運な出来事を、普段どおりにボソボソと、包み隠さず話すことにしたんです。そうしたら普通にウケた。2年間、人を笑わせることに憧れていたので、少しでも笑ってもらえて、涙が出るほど感動しました。

こうした経験から、『スベる笑いは嘘をついている』ということを学びましたね。プレゼンに関しても、本気で『売れる!』と信じているから、話していて笑顔が自然とこみあげてくるわけです。『やらなきゃいけないから……』と思って出したアウトプットは、どんな裏付けがあってもバレるし、結局はスベります。自分が本気でおもしろいと思っていれば、周りの人も笑ってくれるんです」

自身の内側から生まれるいいアイデアは「ニヤニヤ」する

安斎は高橋さんのお話を受けて、「ニヤニヤ」という表現に着目。そして「高橋さんの発想やプレゼンを聴いていると、思わずニヤニヤしちゃいます。笑いのなかにもいろいろな種類があると思いますが、『ニヤニヤする』とはどういうことなのか、深めていきたい」と問いを投げかけました。

高橋「ニヤニヤというのは、本音がだだ漏れてしまっている状態。僕のなかでは、漫画・テレビドラマ『孤独のグルメ』の主人公で、一人でご飯を食べに行くことが大好きな井之頭五郎が、『ニヤニヤ』の代表格。彼は飯を目の前にすると、心の中がダダ漏れる。本音が隠しきれないんですね。

とはいえ、会社員時代も常に仕事でニヤニヤできていたわけではありません。責任が少なかった若い頃は、『プレゼンでこんなことを提案してみよう』と想像するだけで、楽しくて仕方なかったですね。でも、次第にそれができなくなってしまった感覚もあって。『これを通さなければならない』『後輩の前だからちゃんとやろう』『上司に評価してほしい』……立場や評価を気にし始めると、ニヤニヤできなくなってしまうんです」

自分にとっての「笑い」や「おもしろさ」を追求するうえでは、自分の内側としっかり向き合うことが求められると言えそうです。「内側」に注目する視点は、昨今のイノベーション研究の文脈とも共鳴すると安斎は指摘します。

安斎「昨今はイノベーションの方法論においても、観察にもとづくユーザー中心のアプローチに対するカウンターとして、自分の内側から商品をつくっていく、つくり手にスポットライトを当てていくアプローチが研究トレンドとなっています。そうした文脈と照らし合わせても、『つくる側がニヤニヤしちゃうものをつくろう』という議論は示唆的ですね。

ストレートに『自分の内側からつくろう』と言われると、『ビジョンや問題意識なんてないし……』と構えてしまう人も少なくないと思います。だからこそ、『考えていてニヤニヤしちゃうアイデアでやろうぜ』という働きかけは、ひとつのいい切り口だなと」

おもちゃづくりとワークショップの設計の類似点

いい仕事をするためには、自分が「ニヤニヤ」できる状態であることが大切です。一方で高橋さんは、自分や仕事の同僚だけでなく、おもちゃを通して多くの人をニヤニヤさせています。他者を笑顔にするプロダクトは、どのように生み出されているのでしょうか。

高橋「落語研究会では、2年間で一回も笑われなかったこともあり、相手をコントロールし、無理やり笑わせようとばかりしていました。おもちゃ会社に入社したのも、笑わせるものをつくりたいと思ったから。最初は、変な踊りや喋りをさせることで『おもちゃが人を笑わせる』企画ばかり出していました。

でも、その発想は間違いだったんです。人を笑わせるおもちゃは、そのおもちゃを挟んで、人が人を笑わせる会話が生まれるもの。ですから、自然と笑いが生まれるように設計するのが大事だと気がつきました。それ以降は、そのおもちゃを持っている人が、何と言って他の人に見せるのか、受け取った人がどんなリアクションをするのか、想像するようになったんです。

たとえば『∞プチプチ』も、出されたときは『えっ』と驚きますが、押してプチっと鳴ったら『なにこれ(笑)』と会話が生まれていくのが想像できますよね。僕にとって商品開発とは、いわば会話の設計なんです」

舘野「ワークショップの設計にも通じる話だと思います、『こんな話をしてほしい』と思って、直接それについて『話して』と働きかけても、なかなかうまくいきません。だからこそ、『こんな会話になったらおもしろいよなあ』と考えながら、会話を誘発させるためのオブジェクトをつくっていますね」

「プレイフル」に必要なのは「正直さ」である

おもちゃづくりとワークショップ、両者ともに重要な「自然な笑いの発生」。「自然さ」というポイントは、リーダーシップにおいても大事だと高橋さんは言います。

高橋「笑っている人に怒るのは難しいし、嬉しくて笑っている人には協力したくなる。必ずしも、常に笑っていたり、ポジティブであったりする必要はありません。

自分は『正直者が最強だ』と思っていて。ほら、リーダーはつらいこともあるじゃないですか。『ピンチも楽しめばいい』と思われるかもしれないけれど、ピンチが楽しいわけがないです。そういうときは正直に『助けて〜〜』って泣く(笑)。『こいつ正直だな』と思えるような姿を見ると、みんな笑ってくれるので、正直者でいるようにしています。人知れず苦しんでいるリーダーよりは、つらくて泣いちゃうリーダーのほうが、助けたくなるんじゃないかと」

舘野「たしかに、『プレイフル』が『ポジティブ』とイコールなのかというと、違和感がありますよね。つらい状況なのに『これは楽しい』と思い込もうとしても、結局それは嘘なのでバレてしまう。プレイフルであることのカギは、『正直であること』なのかもしれません。勉強になりました」

安斎「このゼミでも『プレイフルってなんだろう?』という問いについて探ってきましたが、ファシリテーションのあり方を考えるうえでも、ヒントの多い論点だと思います。『ファシリテーターは黒子に徹して中立にならなければならない』という固定観念がある気がするのですが、自分の気持ちや考えを抑えたままだと、いいファシリテーションにはならない」

舘野「リーダーシップ論も一緒です。『良いリーダーシップ』についての研究では、キャラクターに合ったスタイルを採るのが、最も効果的と言われています。口達者ではない人がスティーブ・ジョブズみたいに話しても、メンバーに『ついていきたい』と思ってもらうのは難しい。人を巻き込むときのマネジメントスタイルも、自分に合っていないものを変にやろうとしてもダメ。自分のあり方を正直に出すと、『あの人には協力しよう』と思ってもらえます」

「好きなこと」をベースに、「衝動」を解放せよ

ただし、自分の立場を気にしてしまい、正直に行動できないときもあります。正直でいることを妨げるものとは、どのように向き合っていけばいいのでしょうか。

高橋「試してみてほしいのは、好きなものについて話すこと。好きなことについて話しているときは、正直ですよね。たとえば漫画が好きな人だったら、好きな漫画についての話の延長上なら、他のことも喋りやすくなるはずです。さらに、それをいきなり全員に対してやるのではなく、まずは仲間の一人に対してできたらいいのではないかと」

安斎「CULTIBASEでも、『衝動』という言葉を大事にしています。アメリカの哲学者ジョン・デューイは『衝動にフタをしてはならない』と言いました。高橋さんも、自分の衝動を発揮しやすいようにセルフブランディングしたり、フタをされないディフェンスをしたりしている印象を受けます」

高橋「自分にとっては、落語研究会の最初の2年間でスベりつづけた経験が大きかったです。皆さんも少しずつやっていけばいいと思います。2年あればいけますよ。必ずしも、スベり倒さなくていいとは思いますけど(笑)」

舘野「明日からそう急に変われるわけじゃない。だから、すぐに変われないことに、ネガティブな考えを持たなくていい。そもそも自分の衝動や好きなものが、なかなかわからないこともあります。だから大事なのは、まず気づくこと。そしてその後は、好きなことを話しやすい、衝動を発揮しやすい環境を耕していく。気づくだけでは不十分で、自分の衝動や好きなことをわかってもらう環境も必要ですね」

聞いている側も思わずニヤニヤしてしまう、あっという間の1時間でした。次回の「遊びのデザインゼミ」では、任天堂の据え置き型ゲーム機『Wii』のプランナーとして有名な、わかる事務所代表の玉樹真一郎さんにお越しいただきます。お楽しみに!

本イベントのフルでのアーカイブ動画は、CULTIBASE Lab限定で配信しています。

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執筆:石渡翔
編集:小池真幸

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