組織のイノベーションは「プロセス」から生まれる

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組織のイノベーションは「プロセス」から生まれる

事業の成功の裏側には、必ず「組織開発(Organization Development)」がセットで必要です。しかし「組織開発」のスコープは非常に曖昧で、その定義は立場によって様々です。そもそも「組織開発」とは何を指すのか。その定義について考察した以下の記事では、その理論アイデンティティが「プロセス」に対する働きかけにあることを指摘しました。

改めて“組織開発”の定義を探る:連載「組織開発の理論と効果」第1回

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本記事では、改めてイノベーションの源泉としての組織の「プロセス」の重要性について、掘り下げていきたいと思います。

目次
組織における「プロセス」と「コンテント」
トップダウン型の改革で蔑ろにされる「プロセス」
事業開発では途端に軽視される「プロセス」の価値
創造性の土壌としての「プロセス」を耕す

組織における「プロセス」と「コンテント」

組織開発における「プロセス」とは、組織開発の源流の一人であり、グループ・ダイナミクスの専門家であるクルト・レヴィンが提唱した言葉です。

組織開発のニュアンスを誤解せず理解する上で気をつけなければならないのは、ここでいう「プロセス」とは単なる仕事の過程や手順などを指しているのではない、という点です。それよりももう少し広い意味合いで使われているのですが、その定義は、組織における「コンテント」という考え方とセットで捉えることで、その実態が見えてきます。

これらの概念はよく「氷山モデル」で説明されます。まず「コンテント」とは、組織において水面に顔を出している部分で、実際に話されている内容や、飛び交っている情報、取り組まれている課題や業務の内容です。いわゆる”What”を指している、という説明もよくなされます。

他方で「プロセス」とは、表面には可視化されていない集団の関係性の質や、人間の内面的なものを指しています。個人がどんな感情で、どんなモチベーションで、どのような関係性のなかで、どのように影響を与え合い、どんな風土のなかで、どのようなコミュニケーションが背後で進められているのか。いわゆる“How”の要素にあたります。ヒューマンプロセス、もしくはグループプロセスなどと表現されることもあります。

トップダウン型の改革で蔑ろにされる「プロセス」

組織における実際の業務フローや価値創造そのものを表しているのは「コンテント」ですから、合理的に考えれば、トップダウン型で事業戦略や経営資源を変化させたり、業務構造や組織の仕組みそのものを構造改革したほうが、組織変革の方法としては「手っ取り早い」という考え方もあるかもしれません。しかしそうしたトップダウン型の改革では、戦略や業務を支えている現場の集団の関係性や風土、またその構成員である一人ひとりの内面的な「プロセス」は蔑ろにされがちです。

組織の問題は病気や怪我のように客観的に測定可能な事実で、外側からシステムを切り裂いて”手術”をすれば治療できるものではなく、あくまで内部に所属している人間の認識の問題であり、人と人の関係性やコミュニケーションの中で構成されるものです。

したがって、組織開発ではあくまで「プロセス」に目を向け、集団の対話を通して「プロセス」に関する気づきを生み出すことで、組織を機能させていく。それが、組織開発の中心にあるパースペクティブであり、暗黙の前提なのです。

プロセスを重視することで、組織の「関係の質」が良くなり、気づきが生まれ「思考の質」が変わり、それによって主体的に「行動の質」が変化し、従って「結果の質」が高まり企業の成果につながる、という因果関係は、ダニエル・キムの「組織の成功循環モデル」としてよく説明されますが、このようにプロセスから生産性につながっていくことを「プロセス・ゲイン」といいます。余談ですが、筆者(安斎)の博士論文も、実はこの視点から、いかに集団の創発的なコラボレーションプロセスを喚起することができるかをずっと研究してきました。

事業開発では途端に軽視される「プロセス」の価値

上記の知識は「組織開発」を少し勉強した人からすれば、ごく当たり前の常識でしょう。ところが、事業開発のためのイノベーションの手法論に軸足を移した途端に、この「プロセス」の重要性は、暗黙の前提どころか、あまり語られなくなります。新奇なアイデアを発想するためのメソッドばかりにスポットライトが当てられ、それを生み出す作り手の「プロセス」の問題に、関心が向かないのです。

筆者がこれまで担当してきた様々なプロジェクトの経験を振り返ってみても、事業開発がうまくいかない要因は、アイデアの質(コンテント)にあるわけでは決してないということです。

質の高いアイデアを出すこと自体は、それほど難しいことではありません。技術資源や優位性を活かしながら、ときに生活者リサーチの手法を活用して市場の現状や手がかりを掴み、場合によっては企業や作り手のビジョンを明確にしながら、新規性のある意味と仕様に落とし込んでいく。これ自体は、プロジェクトのプロセスデザインを間違えなければ、ファシリテーションの難易度はそう高くはありません。極端な話、成果物としてのアイデアが欲しいだけなのであれば、創造性の高い外部のクリエイターや代理店、デザインコンサルタントから、アイデアを外注すればいいわけです。

ところが実際に課題となっているのは、そもそもの作り手であるはずのチームの関係性の質が低かったり、コラボレーションをする土壌ができていなかったり、そもそも一人ひとりの創造的な衝動が枯渇していることや、組織の風土としてリスクのあるチャレンジが奨励されていないことなど、まさに、組織の「プロセス」の部分にあるために、持続的にアイデアが生まれ続ける状態が維持できないことなのではないかと思うのです。

創造性の土壌としての「プロセス」を耕す

事業開発を成功させる第一歩は、まず組織やチームの「プロセス」を創造的な状態にすることです。CULTIBASEが基盤とする“Creative Cultivation Model(CCM)”は、創造的な組織の状態を、コンテントを生茂る樹木、プロセスを目に見えない土壌に喩えて、モデル化したものです。

Creative Cultivation Model(CCM)

革新的な組織と事業(コンテント)の根っこには、必ず従業員の一人ひとりの「創造的衝動」があります。個人の衝動が枯渇した状態では、どんなに栄養を与えても、よい作物は生まれません。組織ファシリテーターの役割とは、メンバーの衝動を解放し、チームの「創造的な対話」を促進することで、次々に新たな意味が生まれる「プロセス」の創造性を保つこと。それが、組織のイノベーションを支える「創造性の土壌」を耕すということなのです。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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