イノベーションのための3つの学習戦略を描く:連載「組織学習の見取図」第1回

安斎 勇樹

2020.08.15/ 9min read

イノベーションを起こすために、何が必要か?

このシンプルだけれど、歯応えのある問いは、これまでビジネス現場において、多くの実務家と研究者を魅了し、また同時に頭を悩ませ続けてきました。

この巨大な問いにうまく答えようとするためには「切り口」が肝心です。ある人は、その手がかりを「デザイン」に求め、別のある人は「アート」に求める。他にも「アイデア発想法」「技術のマネジメント」「組織文化」「人事戦略」など、さまざまなキーワードからイノベーションを紐解いた示唆に溢れる良書たちが、いまや書店の本棚を埋め尽くしています。しかしながら、具体的な切り口を定めれば定めるほど、どこか全体感を見失い、議論を矮小化してしまう側面があるのも事実です。もう少し広い目で、イノベーションという営みの全体性をとらえる必要がありそうです。

筆者は、その手がかりが「学習」というキーワードにあるのではないかと考えています。学習の本質とは、試行錯誤を通して、既存の知識や行動、考え方を「変化」させることです。組織において従業員が日々学びを積み重ねることは、大きな変革としてのイノベーションの必要条件になるからです。

ところが人間の学習の様相は、想像以上に複雑です。精緻な解像度でそれを捉え、戦略的に推進していくためには、一定の専門知が必要です。本連載「組織学習の見取図」では、文字通り、イノベーションの本質を解明するキーワードを「組織の学習」に置き、その理論的な見取図を描くことを目的としています。

第1回目となる本記事では、イノベーションと学習の関係性を紐解き、いま組織に求められる学習の戦略について概観していきましょう。

目次
イノベーションの阻害要因の3階層
組織の「ルーティン」が変化を妨げる
イノベーションのための3つの学習戦略


イノベーションの阻害要因の3階層

イノベーションという言葉は、かつては「技術革新」と訳されることもありましたが、現在では、経済学者ヨーゼフ・シュンペーターが提唱した「新結合」という考え方がよく引用されます。一見関係ないように見える既存の知識と知識を結びつけることによって、新たな知識を生み出すことが、イノベーションの本質であることを指し示しています。

ここでいう「新結合」とは、「組織にとっての新結合」と「社会にとっての新結合」という2つの側面があります。前者は、組織にとって、それまで試したことのなかった新しい知識の組み合わせを試すという意味です。しかしながら、「組織にとっての新結合」が、世の中にとっても新奇な価値があるとは限りません。イノベーションは、組織にとって新しい試みであるだけでなく、社会に対して革新的な意味の変化をもたらし、大袈裟ですが”人類の進化”に貢献するものであるべきだと筆者は考えています。すなわちイノベーションとは、人間の本質に迫りながら、既存の方法をアップデートし続ける、探究そのものなのです。

小さな子どもを観察していると、「組織にとっての新結合」は、さほど難しくないことのように思えます。あるおもちゃの使い方の知識(A)と、別のおもちゃの使い方の知識(B)を組み合わせて、自分なりの新しい遊び(C)を発明する。子どもにとっては、毎日が「新結合」とも言えるでしょう。

ところが、なぜ成熟した大人が寄り集まった企業組織になると、「組織にとっての新結合」すら、とたんに難しくなってしまうのでしょうか。企業において、何がイノベーションの阻害要因となっているのでしょうか。この問いの背後にある要因は、実はとても複雑です。先行研究を概観すると、大きく3つのレイヤーの考え方があるように思います。

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