よい事業を生み出していくには、その土台となる組織が健全な状態であることが欠かせません。
そんな健全な組織を作り出すために、組織開発はここ数年で実務的にも数多く取り入れられ、その用語も頻繁に用いられるようになりました。
しかし、その広まりとともに、組織開発が誤って理解されてしまったり、組織開発が安直に取り入れられてしまったりすることもあります。
本連載「組織開発の理論と効果」では、そんな状況をふまえ、改めて組織開発を学び直し、現場で組織開発が効果的に取り入れられるために、組織開発の理論や効果などについて深めていくことを目的としています。
第1回目は、組織開発の定義についてです。
言説の多さ故に「結局、組織開発って何なのか」と混乱してしまう人も多いかと思います。筆者自身、組織開発について研究しはじめた当初は、「組織に対する介入はすべて組織開発なのか?経営的な取り組み全般を指すことになってしまうのではないか?」と混乱したことがありました。
本記事では、混乱の原因を紐解きながら、改めて「組織開発とは何か」を整理します。
組織開発の定義
組織開発の定義としてよく引用されるものには、以下のような言い回しがあります。
計画的で,組織全体を対象にした、トップによって管理された、組織の効果性と健全さの向上のための努力であり、行動科学の知識を用いて組織プロセスに計画的に介入することで実現される(Beckhard 1969)
組織の健全性(health)、効果性(effectiveness)、自己革新力(self-renewing capabilities)を高めるために、組織を理解し、発展させ、変革していく、計画的で協働的な過程(Warrick 2005)
こういった諸説ある定義を噛み砕いて、中原・中村(2018)では組織開発を「組織をworkさせるための意図的な働きかけ」と定義しています。
では、「意図的」であれば、どのような「働きかけ」でも当てはまるのでしょうか。
組織開発で働きかけるもの
組織開発の代表的な働きかけについては、組織開発の研究者であるカミングスとウォーリーによって整理され、中村(2015)による加筆で以下のように整理されています。
この図をみると「組織開発が働きかけることは(組織を経営/運営する上での)全てではないか?」とも思われるのではないでしょうか。
これに対しては組織開発の研究者によっても立場が様々で、大別すると
・組織開発を「広義」に捉えるスタンス
・組織開発を「狭義」に捉えるスタンス
の2つのスタンスがあります。
「広義」のスタンスとは、組織に対するあらゆる介入を組織開発とみなす考え方です。一方、組織開発を「狭義」に捉えるスタンスでは組織開発が働きかける部分を「ヒューマンプロセスの働きかけ」の部分に限定して捉えます。(ヒューマンプロセスは「プロセス」とも言われます)
特に、このヒューマンプロセスの問題はなかなか目に見えない問題として扱われるので、組織開発ではよく「氷山モデル」と呼ばれる、組織の状態を氷山に見立てたモデルが用いられ、組織開発が働きかける部分は氷山の目に見えない、海の下にある部分だとも言われます。
組織開発において重要な「ヒューマンプロセス」
実務においては「ここまでは組織開発だけどここからは組織開発の範疇を超えるので対応しません」というわけにもいきません。組織開発がヒューマンプロセスを超えて、「技術・構造」や「人材マネジメント」に働きかけることもあります。ただ、組織開発を広義に捉えるにせよ、狭義に捉えるにせよ、「組織開発はヒューマンプロセスに働きかけることが重要である」という点は共通しています。つまり、目に見えない人間の心理や関係性を蔑ろにしたまま、組織の構造だけ変革しようとする介入は、組織開発とは呼べないのです。
以上を踏まえて組織開発の定義を整理すると「“ヒューマンプロセスへの働きかけ”を重視した組織をworkさせるための介入方法」と結論づけられるのではないでしょうか。
■参考文献
Beckhard, R. (1969)Organization development: strategies and models
中原淳・中村和彦(2018)『組織開発の探究』
中村和彦(2015)『入門 組織開発ー活き活きと働ける職場をつくる』
Warrick(2005)Organization development from the view of the experts