全員がリーダーシップを発揮するために、どのように教育を行うか?:連載「リーダーシップ教育の最前線」第2回

全員がリーダーシップを発揮するために、どのように教育を行うか?:連載「リーダーシップ教育の最前線」第2回

舘野 泰一

2021.07.20/ 10min read

こんにちは、舘野泰一です。私は立教大学経営学部の准教授として、若年層を対象にしたリーダーシップ教育に関する研究・実践をしています。

本連載では「リーダーシップ教育の最前線」として、リーダーシップ教育の背景となる理論や、実践の手法について紹介します。

第1回では、リーダーシップ教育の前提となる「新しいリーダーシップの考え方」について、考え方のポイントをお伝えしました。第2回目の記事では、リーダーシップ教育の実践について概観していきたいと思います。

目次
全員がリーダーシップを発揮できるとしたら、教育はだれに、いつ実施する?
早期にリーダーシップを学ぶのはなぜ重要か?
新しい分野であるリーダーシップ教育の研究と実践
リーダーシップ教育における「自己理解」の重要性
「リーダーシップのふるまい」に焦点を当てたフィードバックの重要性

全員がリーダーシップを発揮できるとしたら、教育はだれに、いつ実施する?

最初に前回の連載で書いた「新しいリーダーシップの考え方」に関する3つのポイントを簡単に復習しておきましょう。

1.リーダーシップは全員が発揮する(できる)ものである
2.リーダーシップは陰から支える行動も当てはまる
3.リーダーシップは学習可能である

リーダーシップは必ずしも「リーダーだけ」が発揮するものではありません。「リーダー」と「リーダーシップ」は別物というのがポイントです。

リーダーシップは全員が発揮することができ、才能やセンスで決まるのではなく、学習可能です。では、リーダーシップの教育・育成はどのように実施できるのでしょうか。今回は、そこに焦点を当てて、実践・研究の状況を概観していきたいと思います。

リーダーシップの考え方が変化するということは、リーダーシップ教育をだれに、いつ実施するかも変化します。

リーダーシップは「全員が発揮したほうがよい」のであれば、リーダーシップ教育の対象は「管理職」だけにとどまりません。新人の時点でリーダーシップについて学ぶ機会があってもよいでしょう。

しかし、現在は「管理職になった途端に、急にリーダーシップ研修を受けさせられる」ということも多いのではないでしょうか。

もちろん、これは「どのようにリーダーを選ぶのか」というリーダーの選抜の問題も含んでいますが、リーダーシップを短期的に、スキルベースで学ぶのは限界があります。なるべく早期に、時間をかけて多くの人たちにリーダーシップを学ぶことが大切になります。

早期にリーダーシップを学ぶのはなぜ重要か?

こうしたリーダーシップ教育の対象の拡大・早期化は一つのキーワードになると考えます。ここでリーダーシップを早期に学ぶ重要性について、リーダーシップ発達に関する研究知見をもとに説明します。

リーダーシップの発達には、幼少期や青年期の経験も大きな影響を与えます。個々人のリーダーシップは、会社に入ってから急に発達するものではなく、長期の経験によって育まれるものです。

あなた自身も経験があると思いますが、現在発揮しているリーダーシップスタイルの原型は、中学・高校時代の部活や生徒会活動の経験が影響をしていないでしょうか?こうした早期のリーダーシップの経験が、リーダーシップの発達には重要な役割を果たすことは研究でも明らかになっています。

また、単純な話ではありますが、若いときの方がリーダーシップについて学ぶスピードが早いことも指摘されています。大人になってからも学べますが、早くから学べるのであれば、時間をかけて学ぶことが大切と言えます。

つまり、会社に入社して新人になって学ぶのは早すぎることはなく、入社前に学んでいてもよいくらいなのです。

私はこうした問題意識から、若年層を対象にしたリーダーシップ教育の実践・研究に力をいれているので、ここでその実践の一部を紹介します。

例えば、私の所属する立教大学経営学部ではBLP(Business Leadership Program)というプログラムがあり、1年生から、約400名の学生全員がリーダーシップについて学びます。企業と連携してビジネスプランを提案するといった実践的な経験と、学生間の相互フィードバックを通して、多くの学生が最低でも1年半の期間をかけて学びます。

私はこのプログラムの主査として、プログラム全体のデザインやマネジメントをおこなっていますが、学生たちの成長スピードは驚くほどです。大学でのリーダーシップ・プログラムは、立教大学に限らず、近年では複数の大学で導入が広がりつつあります。

また、最近では中学・高校でも、リーダーシップ教育を取り入れている事例が少しずつ見られるようになってきました。立教池袋中学校・高等学校でも今年から高校3年生向けの「リーダーシップ概論」の授業がスタートしました。もちろん、これは立教大学の関係校だけでなく、都立高校や他の私立高校でも実践事例が報告されていきています。

実際に、私自身が高校生に向けてリーダーシップ教育に関するワークショップを実施することもあります。

高校生が対象の場合は、ビジネスプランづくり等はおこないませんが、リーダーシップを発揮する経験を行い、その後に学生同士が相互フィードバックをして、振り返りをするという構造は、大学生や企業の方を対象にしたワークショップと同じです。その意味で、けしてレベルを中高生に向けに落としているわけではありませんが、まったく遜色なくワークをおこなってくれます。

お互いのリーダーシップ行動について、率直なフィードバックをしている姿をみると、色々と忖度してフィードバックしがちな我々大人のあり方を少し見直さねばと思うこともあります。

リーダーシップ教育をどの科目でおこなうか等の問題はあるかもしれませんが、少なくとも内容のレベルという意味で、中学生・高校生では早すぎるということはないようです。

繰り返しになりますが、いまや教育機関でも広がりつつあるリーダーシップ教育の現状を考えると、新入社員の頃からリーダーシップ教育をおこなうというのは、けして早すぎることはありません。

また、今後はこうしたリーダーシップ教育を受けた人たちが新入社員として入社してくることになります。こうしたメンバーが社内でリーダーシップを発揮しやすくするためにも、企業のリーダーシップ教育のあり方が問われています。

新しい分野であるリーダーシップ教育の研究と実践

次に、リーダーシップ教育に関する研究について概観します。リーダーシップに関する研究は、大きく2つにわかれます。

1.リーダーシップという現象を明らかにしようとする研究(有効なリーダーシップのスタイルや個人や組織に対する影響を明らかにするもの)
2.リーダーシップを開発・教育しようとする研究(リーダーシップ開発・教育の手法や、開発のための要因を探ろうとするもの)

1に比べ、2のリーダーシップ教育に関する研究は比較的歴史が浅く、新しい分野です。理由は、当初リーダーシップ研究は「特性論」が中心であったことや、リーダーシップ教育の効果を測定することが難しかったことなどが挙げられます。

そのため、今後さまざまな研究蓄積が必要な分野ともいうことができます。関連する研究のレビューの詳細はこれらの書籍にゆずり、今回の記事では、リーダーシップ教育の枠組みについてより詳しく説明していきます。

リーダーシップ教育とは「効果的なリーダーシップを発揮するために、個人の能力・資質・行動の向上を目指すこと」です(舘野 2018)。

では、具体的にどのような個人の能力・資質・行動のことを指すのでしょうか?これは必ずしも1つに決められるものではなく、各現場に合わせて、既存の理論やモデルを組み合わせて設定することが大切だと言われています。

しかし、それではイメージが湧かないと思いますので、私が提案しているリーダーシップ教育の概念モデルを紹介します。

このモデルは、

・リーダーシップの基礎理解:リーダーシップの新しい考え方について知る
・自己理解:自分の強み・弱みを知る
・倫理性・市民性:不満を提案に変える
・専門知識・スキル:自分の専門領域に関する知識・スキルを高める

の4つを高めることが、効果的なリーダーシップ行動につながり、影響力を発揮することを想定しています。

このモデルは、書籍『リーダーシップ教育のフロンティア【研究編】: 高校生・大学生・社会人を成長させる「全員発揮のリーダーシップ」』の中で提案しています。

リーダーシップ教育における「自己理解」の重要性

4つの要素の中でも近年、研究的にも注目が集まり、私がリーダーシップ教育を実践をしていても特に重要だと感じるのは、「自己理解」です。「セルフアウェアネス」などのキーワードでも、いくつかの書籍が出版されているかと思います。

なぜ、リーダーシップの発揮に自己理解が大切なのでしょうか?

それは自分の他者に対する影響力を知ることが大切だからです。リーダーシップの定義は「職場やチームの目標を達成するために他のメンバーに及ぼす影響力」(石川 2018)でしたね。

例えば、同じ内容の一言を話すとしても、人によって他者に対する影響力は変わるでしょう。全員が突然スティーブ・ジョブズのように雄弁にビジョンを語り始めても、それがフィットする人もいれば、フィットしない人もいるはずです。あなたらしいスタイルでリーダーシップを発揮することが大切なのです。

そして、この自己理解は「自分ひとりでは完結しない」というのもポイントです。

例えば、ターシャ・ユーリックによると、「自己認識が高い人ほど効果的にリーダーシップを発揮できる」と述べています。ここで自己認識とは以下の2つに分かれます。

内面的自己認識:自分で自分自身をどのくらい把握しているか
外面的自己認識:他者からの認識をどのくらい理解しているか

大切なのは、この2つの両方が高いことです。「自分で自分を知るだけでなく、他者からどのように思われているかを知ること」も大切であるということです。

もう一つ、自己理解を捉えるために「ジョハリの窓」から、自己理解について考えてみましょう。ジョハリの窓とは「自分が知っている・知らない」「他者が知っている・知らない」で整理したものです。

リーダーシップの発揮において大切なのは「盲点の窓」(自分は知らないけれど、他者は知っていること)の領域を小さくすることです。「自分は気づいていなかったけれど、周りがネガティブに感じていること」もあれば、「意識していないけれど、みんなが助かっていたこと」の両方があります。これらを知っていくことで、効果的な影響力を発揮できるというわけです。

そのため、リーダーシップ教育の中では、フィードバックの手法が重宝されます。

「リーダーシップのふるまい」に焦点を当てたフィードバックの重要性

前回の記事で紹介した「経験学習型リーダーシップ教育」(リーダーシップをリアルな現場で発揮し、その行動を他者からのフィードバックをもとに振り返る手法)においても、フィードバックが重視されるのは上述したような理由がもとです。

むしろ極端な話をいえば、「リーダーシップに関するフィードバックをもらうために、経験をしている」といっても過言ではありません。

実際に、リーダーシップ教育のやり方として、企業内での新規事業の提案プロジェクトや、地域との連携プロジェクトなどをおこなわなくても、日常の仕事の中のリーダーシップ経験の「フィードバックと振り返り」をおこなうだけでも、最初の一歩としては非常に効果的です。

例えば、あなたが自分自身の長所・短所だと思うことと、あなたの周りの人たちが考えているあなたの長所と短所はどのくらい一致するでしょうか?もしかしたら、あなたが思う自分と、周りの人たちがあなたに対して考えていることは全く違うかもしれません。

こうしたズレを修正できるようなコミュニケーションの場を設けることがリーダーシップ教育の第一歩につながります。1on1ミーティングなどでも、こうしたコミュニケーションを気軽にとることができれば、双方にとってリーダーシップを高める機会にも活用できるというわけです。

要は「仕事の内容や成果」だけでなく「リーダーシップのふるまい」に焦点を当てたフィードバックや振り返りをおこなうことができれば、それはリーダーシップ教育の機会になるということです。

リーダーシップ教育の手法として、大規模なプロジェクト型のものや、事業内容の提案などのプログラムがフォーカスされることが多いですが、実際は小さな一歩から導入することができます。普段の活動にちょっとだけ「リーダーシップ」の視点をとりいれてみませんか?

今回はリーダーシップ教育の実践・研究の全体像に概観しました。次回はより実際の研修・授業を設計するときのテクニックなどの具体的な手法について説明したいと思います。

今回の内容をより深く知りたい場合には以下の2冊がおすすめです。

これからのリーダーシップ 基本・最新理論から実践事例まで
リーダーシップ教育のフロンティア【研究編】【実践編】: 高校生・大学生・社会人を成長させる「全員発揮のリーダーシップ」


本連載の第3回目の記事はこちら

学習者にとってちょうど良い「課題」を設計するための勘所:連載「リーダーシップ教育の最前線」 第3回
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