深さを測る:連載「問いのデザインの思考法」第5回

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深さを測る:連載「問いのデザインの思考法」第5回

人と組織の創造性を高めるファシリテーター、マネージャーにとって「問いのデザイン」のスキルは必要不可欠です。連載「問いのデザインの思考法」では、日々の業務において良い問いを立てるための手がかりや、問いのデザイン力を総合的に鍛えるためのトレーニングの方法について解説していきます。

今回のテーマは「深さを測る」です。

舌が鈍ければ美味しい料理が作れないのと同様に、鋭い問いを立てるためには、立てた問いについて評価する力が不可欠です。

本記事では、問いを評価するための重要な観点として、「問いの深さ」という考え方を紹介します。これはワークショップや会議などの問いを考える際に、ひとつの問いにどれくらいの時間をかけるべきか、プロセスの時間配分を決めるときにも役立つ観点です。

問いには「深さ」がある

問いに「深さ」があることを確認する上で、以下のような問いの例を考えるとわかりやすいかもしれません。以下は、筆者が”良い問い”の事例を収集していたときに見つけた、具体的な「問い」の事例です。

問いの例(1)
「1日に2回あるのに、1年に1回しかないものとは何か?」

この問いは、なんということはない、いわゆる「なぞなぞ」です。正解は「ち」だそうです。「い」と「いねん」と、ひらがなで表記すると、わかりやすいですね。この問いは、答える側に特定の知識を必要とせず、大人でも子どもでも答えることができます。すぐには正解がわからないかもしれませんが、ある程度頭をひねれば、誰でも答えに到達することができる。そういう意味で、なぞなぞの問いとしては、好例なのだそうです。つまり、これもひとつの「良い問い」とされている。

それでは、以下の問いはどうでしょうか。

問いの例(2)
「光の速度に追いつくことは出来るだろうか?」

ご存知の通り、これはアインシュタインが立てた問いで、学術的な貢献を考えるとこれも明らかに「良い問い」であることは間違いありませんが、この問いを解決し、相対性理論を導くまでに、アインシュタインは相当な歳月をこの問いに捧げています。

上記の例(1)のように、ほんの少し頭をひねったくらいでは、解ける問いではありません。逆にいえば、解けたからこの問いは「良い問いだった」と判定できているわけで、問いが提示された未解決の段階では、周囲には問いのポテンシャルが理解されなかった可能性もあります。

問いの「深さ」を決める3つの変数

いずれにしても、問いによって、答えに到達するまでに必要な視点や時間は異なります。これが「問いの深さ」の違いです。具体的には、以下のような変数によって、「問いの深さ」は変わってきます。

・問うためにどれだけの視点や視座が関わるか
・人によって出す答えがどれだけ多様になるか
・仮の答えを出すためにどれだけ時間が必要か

たとえば、自己紹介でよく活用される「今日の朝ごはんは?」という問いは、過去の経験を探索の対象とした問いで、問われた側は、自分のその日の朝の経験を探索すれば、数秒間で解にたどり着くことができるでしょう。問いの深さとしては比較的「浅い」タイプの問いと言えるでしょう。

それに対して「健康に良い朝食の条件とは?」と問われたら、健康の定義や要件、朝食の影響などを幅広く検討しながらも、話し合うメンバーのそれぞれの価値観のすり合わせなどもしながら答えを出さなければいけないので、上記の問いよりかは、少し深さが増します。4〜5人で話し合うとしたら、少なくとも10分くらいはかかるでしょう。きちんと話し合うとしたら、30分くらいかけてもよさそうです。

さらに「持続的な社会・生態系のための食の在り方とは?」などといったテーマを設定したとしたら、いかがでしょう。さらに複数の視座と時間が必要となり、価値観も人によって多様になり、歯ごたえのある問いになってきました。この問いに30分やそこらで納得のいく答えを出すのは困難です。

このように、同じ「食」をテーマにするとしても、問いの設定の仕方によって、「深さ」は変わります。そして大事なことは、問いは深ければよいというものではない、ということです。たとえば自己紹介やアイスブレイクの段階からあまりに「深い問い」と放ってしまうと、答えに窮してしまい、時間がかかりすぎてしまいます。

深さを見誤らないためのシミュレーション

意外にワークショップや対話の場をファシリテートする際には、問いの「深さ」を見誤ったがゆえの失敗例が、結構あります。考えられるのは以下のようなパターンです。

・導入や自己紹介の問いが重すぎて答えに窮してしまう
・1時間で設定したメインワークに15分で答えが出てしまう
・逆に、メインワークの冒頭で気軽な意見が全然出てこない
・全グループが似たような意見、結論に終始してしまう

このような「読み誤り」を避けるためには、問いを参加者に投げかけた瞬間に、どのような思考や感情が喚起され、どのような対話や議論のプロセスが起こりそうか、事前にシミュレーションをしておくことが重要です。水面に小石を投げこんだときに、どんな波紋が生まれ、どんな軌道を描いて、どこまで沈んでいくのか、と想像するような感覚です。

もちろん実際に問いを投げかけ、チームメンバーで対話を深めていく場合には、どんな話し合いのプロセスになるか、事前に予測しておくことは不可能です。むしろ、問いを立てたファシリテーターが予期していなかった対話が展開されたほうが、創造的な場であったともいえます。

けれども、どのような「可能性」がありうるのか?本当に対話が深まるポテンシャルが十分にある問いなのか?言葉の耳障りはよいが、思いのほか、思考が浅いところで停滞してしまうリスクがあるのではないか?などと批判的に検討しておくことは、初心者のうちは特に重要です。

拙著『問いのデザイン』では、いくつかのケーススタディを通して問いの深さを目算するシミュレーション方法を解説していますので、そちらも是非参照してみてください。

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人と組織の創造性を高めるファシリテーター、マネージャーにとって「問いのデザイン」のスキルは必要不可欠です。特集「問いのデザインの思考法」では、日々の業務において良い問いを立てるための手がかりや、問いのデザイン力を総合的に鍛えるためのトレーニングの方法について解説していきます。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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