研究と実務の観点から見るUXデザインの全体像とは?

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約13分

研究と実務の観点から見るUXデザインの全体像とは?

UXの重要性は周知の通りで、その有用性は経営にまで広がってきています。どんなコンテンツ、プロダクト、サービス(WHAT)を作るのかだけに視点を狭めず、企業が描くビジョンと社会の関係性を考えた上で全体のプロジェクトをマネジメントしていくことが重要です。しかし、実際の現場では、「UIをこうすればコンバージョンが上がる」といった視点に閉じてしまい、WHYが曖昧なままWHATの設計がなされていることも少なくありません。

「意味のイノベーション 」や「デザイン思考」といったデザインプロセスの研究と、数々の事業開発プロジェクトを手掛ける小田裕和と、Yahoo! JAPANでUXデザインやサービスデザインを10年以上経験し、ミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)でExperience Designerとして活躍する瀧知惠美がCULTIBASE Labで主催する「デザインゼミ」では、毎回テーマを決めてデザインに関わる幅広い知見を扱います。10月のテーマは、「UXデザインの基礎と全体像」と題し、UXデザインの定義を改めてなぞった上で、小田と瀧が「UXデザインの全体観」を各々に一枚絵で表現し、全体像と本質を理解するための議論を行いました。

目次
ペルソナを丁寧に構造化した上で、「経験のジャーニー」を設計する
「前提のペルソナ」と「未来のペルソナ」を描く
「変化を生み出す経験」を構造化する
HOWまで含めたUXデザインのフレームワークを提唱
前提となるUX5階層モデル。UXからUIへの接続がうまくいかないと失敗する
一人称視点でユーザーを深く理解することが重要
HOWまで含め、UXデザインのフレームワークを考える
UXデザインの実践のポイント:ペルソナの「合意」の重要性

ペルソナを丁寧に構造化し、「経験のジャーニー」を設計する

小田が示したUXデザインの全体像はVISION / WHYのレイヤーとWHAT(経験)のレイヤーの2つに大きく分けられます。

「前提のペルソナ」と「未来のペルソナ」を描く

小田裕和が描いたUXデザインの全体像

まずVISION / WHYのレイヤーについて。小田は「このレイヤーからUXを考え、整理していくことが大事」と強調しました。

小田「ターゲットやペルソナを形にしていくためには、ユーザーモデリングの三階層などをベースにエスノグラフィなどのユーザーリサーチを行っていく必要があります。これらを用いて、実際にどんな人たちがどんな状況に置かれているのかを分析し、前提となるペルソナを作った上で、彼らがどう変化し、何が生まれていくのか未来のペルソナのストーリーまで描くことが大事です」

参照:UXデザインの理論・プロセス・手法の体系とポイント
スライドの23枚目で「ユーザーモデリングの三階層」について解説

「ユーザーモデリングの三階層」は、属性層、行為層、価値層から構成されます。一番下の「属性層」はユーザーの属性的側面、「行動層」では実際にユーザーが行う行動的側面、一番上の「価値層」は行為に対するユーザーの価値観を表します。このモデリングで、誰が、どんな体験をして、どういう価値を得ているかを可視化します。

「変化を生み出す経験」を構造化する

小田「WHATの一連のプロセスでは『変化を生み出す経験』を整理していきます。これは、『こんな経験を踏んでもらいたい』という枠組みです。『WHY(経験のジャーニー)』は実際にプロダクトやサービスを作る上での前提になります」

瀧「『経験』が一番重要な部分というのが、この図において理解できます。そのなかで『経験の粒度』とは、具体的にどういう意味なのでしょうか?」

小田「粒度とは、経験の切り取り方です。1年スパンで描くこともできますし、10年スパンで描くこともできます。ディスカッションする際に粒度がズレていることもあるので、ここを整えておく必要があります。」

小田「『経験のジャーニー』のなかには『期待するもの』、実際に『体験するもの』、その上で『蓄積されるもの』が構造としてあります。なお、明確な定義があるわけではありませんが、『経験』の方が『体験』よりも大きい枠組みなので、あえて言葉を分けました。

ここでは、期待と満足の関係がとても重要です。人間は期待したことに対して、実際にどれくらいの満足を得られたかで、蓄積されるものが決まります。そのため、期待値を調整したり、体験をリフレクションして言語化する機会の設計を行うことが大切です。」

小田「次に、一連の経験の中でのUXをそれぞれのフェーズごとに切り分けたUXタイムスパンや、それをベースに作られるカスタマージャーニーマップの中では、実際に何が起きているのかを考えていきます。

ブランドイメージやブランド資産(ブランドエクイティ)、一連のプロセスをさらえるような情報設計(インフォメーションアーキテクチャー)、ユーザビリティの設計、実際に駆動するためのマイクロインタラクションの設計も重要で、これらを形に落とし込んだ『具体的な手段としてのプロダクトやサービスの中身(CONTENT)』の設計が行われていきます。

これらの要素全てを統合的に捉えるのがUXであり、ステップバイステップで考えるのではなく、全体感を掴んでデザインのプロセスを形作る必要があります。ただこのようにいくつかの目的に分かれた要素をそれぞれ可視化し、互いの関係性を理解していないと、UXが何を指しているのかは理解しにくいのではないかと思い、分けて整理してみたものだと理解してもらえればと思います。」

プロジェクトの進め方も視野にいれたUXデザイン

小田の学術的な観点を踏まえたUXデザインの全体像を受けて、瀧が実務の観点も踏まえて、UXデザインの全体像をまとめた内容をシェアしました。

瀧「UX5階層モデルを前提に、改めてUXデザインの全体像をまとめてみました。下記の図は、主にWebサイトのデザインにおけるUXデザインの要素をマッピングしたUX5階層モデルと言われるものです。実務的には『戦略』から『要件』に繋ぐ部分がややブラックボックスになっていて難しさがあります。これはUXからUIへの落とし込みとも言えるのですが、ここがうまくつながらないと失敗しやすいと感じています」

瀧「UXの全体像に関しては、小田さんがシェアした内容とも共通することが多いですね。まず、左上の『ユーザー』。一人称視点でユーザーを深く理解することが必要になってきます。対して、右側の『市場(社会)』ではプロダクトやサービスを提供する市場や社会を三人称視点で客観的に理解する必要があります」

瀧「ユーザー視点とビジネス視点の行き来の必要性を前提に、VISIONを描いていきます。ユーザーにとっての理想と、ビジネス面での理想、それぞれの世界観を考えつつ、一つのVISIONに落とすのが重要と捉えています。

そして、具体的にどんな製品やサービスを作っていくのかにあたるのがWHATです。製品やサービスを形作るための『活動』はWHATまでの部分で、さらにプロジェクトの進め方としてHOWがあると捉えています。

HOWはさらに、HOW for WHATHOW for PROJECTの二つに分類できます。HOW for WHATは、技術や人材、チーム構成といった製品やサービスを実現するための手段として必要なものごとです。HOW for WHATまでの黒枠がUXデザインのプロジェクト全体像で、プロジェクトを推進するためのHOWとして必要なものごとがHOW for PROJECT。これはいわゆるプロダクトマネジメントやプロジェクトマネジメントの要素が含まれます」

小田「HOW for PROJECTを書いたことには、瀧さんの中でどういう背景があるんですか?」

瀧「既存のUXのフレームワークで語られているのはWHATまでが多く、HOWも含めてフレームワークとして体系化されているものは、あまり見かけません。それはもちろん、この図でいうWHYとWHATの部分がUXデザインの本質ですし、HOWは体系化がすごく難しい部分でもあるのですが、実際にプロジェクトとしてUXデザインを進めていくときには必ず考慮しなければいけません

なぜなら、UXデザインは一方通行の線形プロセスではないからです。図でVISION(WHY)とWHATを行き来する矢印を入れているように、目指したい理想の世界観としてのVISIONと、「どんな製品やサービスを提供していくか」にあたる中身としてのWHATを行き来することで、それぞれの解像度が上がっていきます。この行き来しながら徐々に解像度を上げていくプロセスを前提として、HOW for PROJECTを捉えることが、UXデザインを推進する上で大事なポイントになります。

小田「UXデザインというと、『どういう体験をするか』『UIをこういうふうにすればコンバージョンが上がります』と、WHATのなかだけで考えて話を進めてしまうことも少なくありません。ユーザーと社会、ビジョンとの関係性を描いた上で、UXを設計することがすごく大事であり、さらに全体のプロジェクトに問題がないか外側から客観的に見て、きちんとマネジメントしていくことが重要です。でも、意外と目が向けられていない。本質的な部分を疎かにして、曖昧なままWHATの設計ばかりしていることも多いのではないでしょうか」

瀧「そうですよね、実際にはWHATの部分があらかじめ決まって始まるプロジェクトが多かったりするので、そうなりがちなのかもしれません。一度WHYに立ち返ってWHATを考え直していくWHYとWHATを行き来することが大事だと思いますね」

チームでペルソナの「合意」をする重要性

ここまで、小田・瀧が考えるUXデザインの全体像について見てきました。共通している部分が多かったですが、小田の一枚絵ではビジョンの中身と経験のジャーニーが詳細に描かれ、実務目線で見たときに瀧の一枚絵ではhowの捉え方を二段階にしてプロジェクト全体を俯瞰するなどの違いがありました。

これらを踏まえた上で、最後に「UXデザインを実践していく上でのポイント」について議論しました。

小田「瀧さんが言う『一人称視点でのユーザー理解』は、非常に重要です。ユーザーリサーチをすると、この人はこう思っているだろうとか、こういうふうに考えるだろうと客観的に分析・解釈しがちですが、本質は『その人の眼差し』を獲得することです」

この点に関しては、参加者の方から「ペルソナを作った時に、1人に焦点を当てて良いのか戸惑いました」との声が上がりました。

瀧「実際にペルソナを作る時は、複数のユーザーの話を聞いてそこから共通点をまとめ、1人の人物像としてまとめていきますが、おっしゃる通り『ペルソナは1人でいいのか』と、最初は戸惑うかもしれません。

しかし、1人の視点に立たないと見えない部分があります。細かいユーザーの考え方や価値観を想像し、チームで1人の人物に対して向き合わないと目線合わせがしづらいのではないでしょうか。チームの中で描いているユーザー像が異なってしまうと、何を目指して何を作っているのか合わせにくくなります」

小田「それは大きなポイントかもしれないですね。100人の眼差しを獲得するのは無理なので、1人に焦点を当ててやっていく。じゃあ、その1人の絞り込みはどうすればいいのでしょう。迷う人も多いのではないでしょうか」

瀧「基本的にはユーザーリサーチの段階で、ターゲットの方向性は絞られていないといけません。何の想定もなくペルソナを作るのは難易度が高い。実際は狙う市場にどんなユーザーいて、どんな課題持っているかなど、ある程度仮説を立てた上でペルソナを作っていきます。

そこからの絞り方は、リサーチ結果から共通点をまとめたり、こういう人に向けてサービス提供したいなど、作り手の意思もある程度含めていきます」

小田「ロジカルに整理した上で、チームの中でペルソナの合意ができるかどうかが大事ってことですよね。

ペルソナ作りのワークショップでは、ターゲットのレイヤーは事前にある程度揃っています。そこから先は、対話的なプロセスがとても大事です。ターゲットユーザーはロジカルに作るけど、ペルソナは対話的に作って合意を形成していく。UXデザインの最初の部分ではすごく大事なことです」

瀧「最近、ペルソナは本当に必要なのか?という議論もありますが、改めて認識をすり合わせて、整理するのは大事ですよね」

小田「ペルソナが必要ないという人たちは、企業内での対話がきちんとできているところところだったりします。ペルソナを対話のハブに出来ているかもUXデザインをしていく上ではポイントになっていくのではないでしょうか」

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■参照URL
UXデザイン概論 2019
ユーザーの本質的ニーズに辿り着くために必要な3つの視点とは?
HCDのプロセスと手法
執筆:佐藤まり子
編集:モリジュンヤ

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