問いを起点としたイノベーションの具体的な手順:連載「リサーチ・ドリブン・イノベーション」第3回

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問いを起点としたイノベーションの具体的な手順:連載「リサーチ・ドリブン・イノベーション」第3回
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連載「リサーチ・ドリブン・イノベーション」の前回の記事では、組織における「リサーチ(Research)」とは、単なる「調べ物」「答え合わせ」の作業ではなく、これまで気がついていなかった「新たな選択肢」を獲得し、組織の可能性を拡げるための探究的活動であることを論じました。

組織論から「リサーチ」の意味を再考する:連載「リサーチ・ドリブン・イノベーション」第2回

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その起点は、最新の技術でもなければ、ユーザーの声でもありません。人間と社会の本質に迫る「リサーチ・クエスチョン(探究の問い)」を起点としながら、イノベーションプロジェクトを組み立てていくのです。これが、「リサーチ・ドリブン・イノベーション」の基本的な考え方でした。

今回の記事では、「リサーチ・ドリブン・イノベーション」の具体的なプロセスについて解説していきましょう。

目次
STEP(1)問いを立てる
STEP(2)手がかりを集める
STEP(3)意味を解釈する
STEP(4)納得解を出す

STEP(1)問いを立てる

まず、リサーチによって何を明らかにしたいのか。探究のための「問い」を設定するところからリサーチは始まります。アカデミックな研究の場合、これはリサーチ・クエスチョンといい、研究活動の起点となります。リサーチ・クエスチョンの内容によって、答えを出すまでに必要な資源や時間は変わります。

たとえばアインシュタインが立てたリサーチ・クエスチョン「光の速度に追いつくことは出来るだろうか?」は、解である相対性理論を導くまでに相当な労力と時間が捧げられています。他方で、大学院の修士課程に進学し、2年間で修士論文を書き上げようとしたら、2年で答えが出せるサイズのリサーチ・クエスチョンを設定しなければなりません。

イノベーションプロジェクトにおいては、そう簡単には答えは出せない、考え続けなければいけないテーマだが、数ヶ月から1年間程度のプロジェクト期間で暫定解が出せるレベルの問いを設定します。

STEP(2)手がかりを集める

問いを立てた段階で、問いに対する仮説を考えておく場合もありますが、答えをすぐに導くことはできません。問いに納得する答えを出すためには十分なデータが必要だからです。

データには、数値や統計の結果のような「定量的なデータ」もあれば、インタビューで話されたことや観察から見えてきたことなど「定性的なデータ」も活用されます。また、最近では「1人称研究」と呼ばれる研究方法も注目を集めています。外部からデータを取得するのではなく、研究者自身が「私」の視点から感じたことや考えたことそのものを、リサーチデータにする研究の潮流です。これらのデータは、納得のいく答えを出すために、必要な手がかりになります。

STEP(3)意味を解釈する

データを集めれば、即座に問いに答えを出せるかと言えば、そうとは限りません。データはそれ単体では、あくまで情報に過ぎません。データから問いに対する答えを出すためにはデータを解釈し「意味付け」をする必要があるからです。

例えば、ある企業で「新卒で入社した社員の半数が、3年以内に辞職している」というデータがあったとしましょう。これに対して「この企業は若手が優遇されていない」と解釈することもできるかもしれませんし、「この企業は早いうちにスキルを獲得し、独立する人が多い」と解釈することもできるかもしれません。また、半数と言う数字が多いのかどうか、3年という期間が短いのかどうかも、人によって解釈が異なるかもしれません。

複数のデータと組み合わせながらも、問いとデータを往復し、リサーチャー自身が自分の頭で主体的に解釈を重ねながら、納得のいく答えを導き出そうとするプロセスが重要です。

STEP(4)納得解を出す

以上のプロセスから、最初に立てた問いに対して、納得のいく答えを出すことによってリサーチ活動は、いったんは完結します。ここで言う”納得”とは、答えを提示された周囲の人々が納得するものであるかどうかと言う視点も重要ですが、リサーチャー自身にとって納得のいく答えになっているか、と言う視点も重要です。

上記で”いったんは”と言う書き方をしたのは、多くの場合問いに対して答えを出すと、新しい「別の問い」が生まれるからです。多くの大学の研究者が、博士論文を書き終えたあとも研究を続けている理由は、1つの問いに答える過程で、また新たな問いが生まれ、それらに答えようとすると、またさらに新しい問いが生まれるため、研究には「終わり」がないからです。

もしかすると、答えを出す以前に、データを集め、解釈する過程において、最初に立てた問いに対する興味が失われ、すでに別の新たな問いが生成されているかもしれません。これはリサーチにおいて悪いことではありません。問いを常にアップデートし続けながら、納得のいく答えを生み出し続ける。これがリサーチと言う創造的な活動の本質だからです。

リサーチ・ドリブン・イノベーションのプロセス

以上の4つのSTEPに基づいてプロジェクトを設計することが、「リサーチ・ドリブン・イノベーション」の基本的な方法です。そして同時に、既存のイノベーション論における「外から内(アウトサイド・イン)」アプローチと「内から外(インサイド・アウト)」を両立させるためのポイントでもあります。次回以降の記事では、「リサーチ・ドリブン・イノベーション」の具体的な事例をご紹介しながらも、各STEPの詳細な方法について解説していきます。

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リサーチ・ドリブン・イノベーション

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昨今のイノベーションの手法論は、デザイン思考をはじめとする「内から外へ(インサイド・アウト)」アプローチと、アート思考や意味のイノベーションをはじめとする「外から内へ(アウトサイド・イン)」アプローチのあいだで揺れています。本連載では、その二項対立を超えて、両者を共存させるための手がかりを「リサーチ」という考え方に置き、問いを起点とした「探究」によるイノベーションのプロセスを編み直していきます。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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