発想を跳ばすアナロジカル・モディフィケーション:連載「アナロジー思考の秘訣」第3回

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発想を跳ばすアナロジカル・モディフィケーション:連載「アナロジー思考の秘訣」第3回

短期連載「アナロジー思考の秘訣」では、論理的思考では辿り着けない、飛躍した発想を得るための思考法「アナロジー思考(analogical thinking)」について、その特徴や手順について解説します。

「アナロジー思考(analogical thinking)」とは、考えたいアイデア(ターゲット)があったときに、似ている性質や構造を持った別の領域(ソース)から要素を借りてくることで、アイデアを発展させる思考法です。

前回の記事では、ソースを探すときに「意味の類似性」と「仕様の類似性」のそれぞれの発見の仕方があることを解説しました。

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今回の記事では、意味の類似性を起点に、アイデアをアップデートするアナロジー思考の方法を紹介します。

目次
まず、アイデアの方向性を定める
似た意味を持った、ソースを探索する
類似性の遠いソースほど、発想が跳びやすい

まず、アイデアの方向性を定める

アナロジー思考のオーソドックスなやり方は、アイデアの方向性(実現したい意味)が定まり、具体的なアイデアを生成する段階において、「似ている意味」を持ったソースを探してくることです。

たとえば「新しい母の日のギフトを考える」という例題で考えてみましょう。注意点として、いきなりターゲット領域である「母の日」に似ているものを検討し、「父の日」や「バレンタインデー」などを挙げていくことは、あまり有効な策ではありません。

まずは「母の日のギフト」において、どのような意味を実現したいのか、方向性を探ります。(ちなみに方向性を見つけ出すプロセスにアナロジーを活用することもできるのですが、手法が複雑化するので今回は割愛します)

たとえば、あなたが母の日のギフトに対して、毎年同じものを贈っていることから、ややマンネリを感じているとしましょう。どうせ感謝の気持ちを贈るならば、母にとって驚きのあるギフトにできないか。どうせ毎年贈るのであれな、思い出が蓄積していくようなものにできないか。そのような「実現したい意味」をぼんやり描いているとします。

似た意味を持った、ソースを探索する

ここで、アナロジー思考の出番です。方向性として掲げた「驚きがある」「毎年の蓄積が記録される」といった「実験したい意味」と、「似ている意味を持ったソース」を、母の日以外の領域から探してくるのです。

必ずしもプロダクトやサービスでなくても構いません。たとえば「テレビ番組のドッキリ企画」などはどうでしょうか。文字通り「驚き」があり、番組ですから当然記録され、ウケた企画であれば「名場面」として繰り返し放映されますから、意味としてはある程度似ています。

ソースを発見したら、次に、そのソースがどのような仕様で意味を実験しているのかを分析します。この場合であれば、相手を驚かせる瞬間を「隠しカメラ」で記録し、その記録をみんなで楽しむ仕様が、意味の実現を支えています。

ソースの仕様を参考に、ターゲットアイデアを考える

そこでたとえば、母の日のギフトのアイデアとして、カーネーションや花束にミニカメラを仕込んでおき、喜びの瞬間を映像として記録することも含めてギフトにしてしまうのはどうだろうか?などと、新しい「母の日のギフト」のアイデアが浮かびます。…これは、ちょっと喜ばれないかもしれませんが(笑)。

類似性の遠いソースほど、発想が跳びやすい

ソースを発見するときに「母の日のギフト」からやや縁遠いソースを見つけておくと、アイデアの跳躍が起こりやすくなります。たとえば「驚きがあって、蓄積/連続するもの」と言う意味で、「マトリョーシカ人形」というソースでアナロジーは起こせるかどうか、トライしてみましょう。

マトリョーシカ人形

マトリョーシカ人形の仕様は、ご存知の通り「入れ子構造」になっている点が特徴です。これをなんとか、母の日のギフトの仕様に参照できないでしょうか。

ちょっと難しそうに思えますが、たとえば毎年、母の日は家族で超高解像度カメラで「記念写真」を撮影することにしておき、そして撮影する際は、「昨年の記念写真」を手に持って、撮影するルーティンを継続する、というアイデアはいかがでしょうか?

2020年の家族写真をみると、母の手には2019年の家族写真が持たれている。その写真を拡大すると、その手には、2018年の家族写真が持たれている。この儀式を繰り返せば、常に最新の記念写真に、過去の思い出が入れ子構造に蓄積したマトリョーシカ人形的な家族写真ができあがります。

実はこれは、筆者が以前行ったワークショップで実際に参加者が発案してくれたアイデアです。アナロジー思考を使って思いも寄らないソースを引っ張ってくることで、意味と仕様の結びつき方がダイナミックに変容し、今までにないアイデアの姿が出現すること。改めて思い知らされた事例でした。
このようにソースの意味と仕様の構造を参考にしながら、ターゲットの構造を再構築することを「アナロジカル・モディフィケーション」と言います。アイデアの方向性が定まったが、良い仕様のアイデアが思いつかない際は、是非活用してみてください。

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アナロジー思考の秘訣

アナロジー思考の秘訣

商品やサービス、クリエイティブのコンセプトを考えるときなど、創造的な仕事において「アイデア」を生み出す力は不可欠です。ビジネスパーソンには「論理的思考(logical thinking)」が求められますが、論理的思考に囚われていればいるほど、突飛なアイデアが生み出せなくなる側面があることもまた事実。本特集では、論理的思考では辿り着けない、飛躍した発想を得るための思考法「アナロジー思考(analogical thinking)」について、その特徴や手順を解説します。

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著者

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。私立武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学 特任助教授。

企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の可能性を活かした新しい経営・マネジメント論を探究している。主な著書に『問いのデザイン』、『問いかけの作法』、『パラドックス思考』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』『チームレジリエンス』などがある。

X(Twitter)noteVoicyhttp://yukianzai.com/

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