個人の創造性を育む「進化思考」とは何か?:「適応」と「変異」による創造のパターン

個人の創造性を育む「進化思考」とは何か?:「適応」と「変異」による創造のパターン

CULTIBASE編集部

2021.06.02/ 11min read

既存の技術や方法論では解決の難しい問題に対処するために、「創造性」をテーマとした研究や実践活動に注目が集まっています。しかしながら、アイデア発想のフレームワークはいくつも生み出されるものの、「人間の根本的な創造力を高めるために何ができるのか?」に関しては、未だ多くの点が解明されていません。

2021年4月に上梓された書籍『進化思考: 生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』は、創造性の仕組みを生物の「進化」の観点から探究し、新たな角度から個人の創造性に光を当てた一冊として好評を博しています。今回CULTIBASEの有料会員向けサービス「CULTIBASE Lab」では、この『進化思考』の著者である太刀川英輔さん(NOSIGNER代表)にお話を伺い、「進化思考」の基本的な理論や背景に込めた思いについて解説していただきました。

目次
「進化」の観点から捉える、「創造性」の仕組み
「進化」を引き起こす2つの活動:「適応」と「変異」
「適応」を生み出す4つののパターン
「変異」を生み出す9つのパターン


「進化」の観点から捉える、「創造」の仕組み

太刀川 僕はずっと個人的なテーマとして、「どうやって創造的な人を増やすか?」を追い続けてきました。

今、世の中を見渡すと、膨大な数の課題が溢れています。けれども、人間が一生で解決できる課題には限りがありますよね。それに、ほとんどの人が目の前にある課題の解き方には強い関心をもっているけれど、自分の少し先にある課題について理解を深めていこうとする人は多くはないように感じています。

そうした状況の中でデザイナーとして活動するうちに、いつからか、「目先の課題の解決方法を探究する人よりも、課題を再発見する創造的な人を増やすほうがはるかに社会的なインパクトが与えられるのではないか」と考えるようになりました。そこで、10年以上前から、いろんなところで創造性教育を教えるようになったんです。『進化思考』は、もとから本を作ろうと思って書いたものではなく、既にたくさんの企業や大学で実践されていた僕の教育プログラムが本になったものなんですよね。

太刀川 改めて考えてみると、「創造性」ってすごく不思議な現象なんです。たとえば、僕ら人間とチンパンジーは98%DNAが同じだと言われています。でも、チンパンジーはUSBメモリやZoomとか作らないですよね。ホモサピエンスが誕生したのが20万年ほど前で、石器時代を脱したのが約5万年前と言われています。石の道具しか作れなかった人がいきなり無数の道具を作り始めるなんて、そこで明らかに何らかの跳躍が起こっているように感じますよね。創造性の急速な発達というある種の不自然な出来事が、自然発生している。こうした超常的な現象をどう捉えたら良いのか。

自然が生み出す創造の不思議はそれだけではありません。デザイナーとして素朴に思っていることの一つに、自然による創造の質の高さが挙げられます。たとえば、昆虫の足の動きをロボティクスで再現しようと思っても、容易ではありません。どうして自然はこれほど良質な創造を生み出すことができたのでしょうか。そもそもこれを人間の創造と同じものと考えても良いのでしょうか。

太刀川 こうした自然による創造は、生物学上「進化」と呼ばれています。そしてこうした進化にまつわる問いと向き合い続けるうちに、「(人間による)創造がもし進化の模倣だとしたら」と考え始めるようになりました。そして、「人間の創造性の仕組みをさらに解き明かすためには、『進化』をもっと探究しなくてはいけないのではないか」という思いを抱くようになっていったんです。

現代でも”テクノロジーの進化”と言ったりしますが、僕らは無意識に創造性を進化的な現象だと捉えていると思うんですよね。けれどもその割に創造性を進化的現象として捉える研究は、あまり盛んではありません。まったくないわけではありませんが、誤認・誤用されてしまったり、途中で当初のテーマを大きく逸脱してしまっていたり、最終的な結論はなぜか曖昧なままなんです。そうした中で、「創造性を進化的な現象として捉え直せば、僕らは2・3歩先まで創造性の理解を進められるのではないか」といった問いに強く関心を持つようになりました。なぜその問いが僕にとって重要と感じたかというと、やはり創造的な人を増やしたかったからなんですよね。

太刀川 現代において創造性は、「絵が上手い/下手だと言われた」とか、才能のある/ないなど、コンプレックスの種になりやすい話題でもあります。けれども、たとえばフルートを、それが楽器だということすら知らない人に突然渡したとして、まず吹けませんよね。何に使うのかもわからないと思います。

今の創造性も、その”突然渡されたフルート”と同じようなものなのかもしれません。たまたま音が鳴った人が才能があって、鳴らなかった人が才能がないというレベルの乱暴さで切り捨てられてしまっていると思っています。現実のフルートのように、理論があり、コードがあり、練習の方法が確立されていたら、僕らは創造性を諦めずにもっと伸ばしていけるのではないでしょうか。

実際、これまでもたくさんの研究者がこうした創造性を高める方法を探究してきたわけですが、これらを改めて「進化」の観点から捉え直すと、ある種の構造が見えてきます。また、そうした構造について大学院時代から研究を続けるうちに「いいアイデアには共通の性質があり、創造性にはパターンが存在する」と考えるようになりました。どんな構造やパターンがあるのかはこれから説明しますが、ともあれ、未来が不透明な時代に生きていて、本質的な課題に向かって創造性を発揮する人たちの力になるような創造性教育を、生物の進化の観点から作れないかとチャレンジした思想が、『進化思考』ということになります。

「進化」を引き起こす2つの活動:「適応」と「変異」

太刀川 生物学において進化は、「変異による試み」「適応による選択」が交互に行われることで起こるものだと考えられています。「変異」はDNAのコピーエラーによって生み出されると言われています。そのように生み出しされた違いを持つ個体が、偶然食べられたり、そもそも卵から孵化できなかったりと「自然選択」されていく。これらの連綿とした往復によって進化は発生します。

「これと同じことが僕ら頭の中でも起こっているのではないか」というのが、『進化思考』の大きなテーマとなっています。つまり、「変異」となるような馬鹿げた発想がたくさん生み出されたのち、それらのアイデアが賢く合理的に選択され、「適応」していく。それらの葛藤的な往復が創造性を高めていくのだとしたら、創造性は進化と同様の自然現象として考えられることになります。現に、人間の脳においては別々のことを考える部位が独立して並列に存在し、葛藤状態にあることが確かめられているそうです。

進化思考の仮説が正しいとしたら僕らは、どうやったら馬鹿になれるか(変異)を覚えなければいけませんし、どうやってアイデアを本質的な軸で選び取る力を磨く(適応)のか、考える必要があります。それが明らかになれば、創造性を高めるための”階段の登り方”がわかるようになる。『進化思考』では、次のような図を用いて、何かアイデアを出す時に、普通の人がわずかな回数しかサイクルを回していない中で、創造的と言われる人はすでに2周目・3周目と何周ものサイクルを回しているのではないのではないかと述べています。

「適応」を生み出す4のパターン

太刀川 それでは人間の創造性の向上を促す「適応」と「変異」は、それぞれどのようなパターンで行われるものなのでしょうか。まず「適応」状態を科学的に観察する方法に関しては、「解剖」「生態」「系統」「予測」という4つの観点が存在します。

解剖
内部の構造を観るための観点。形態学・解剖生理学・発生学的な観点で、内部に秘められた機能や作られ方を理解することで、モノがすでに備えている可能性を発見する。

系統
過去からの影響や文脈を観るための観点。そのものがどんな経緯をたどって、どう進化を遂げてきたか。その進化図を描き、過去から私たちがどう影響を受けたかを探る。

生態
外部との関係を想像する観点。動物行動学で生態系を俯瞰する方法によって、周囲の人やモノの関係性を探り、マクロなシステムとしての構造を発見する。

予測
未来を明確かつ希望のあるものとして想像するための観点。データから導き出すフォアキャストと、未来にゴールを設定するバックキャストによって、未来を現実に近づける。

参考:『進化思考』図12-2 時空観マップ

太刀川 この四軸を進化思考では「時空観学習」と提唱しています。やや乱暴な言い方ですが、既存の科学的な探究の方法はこの4つのどれかに必ず含まれるのではないかと考えています。これは経営学などでも同じです。例えばリバースエンジニアリングなどは「解剖」にあたりますし、歴史から学ぶことが好きな経営者は、「系統」的な理解を得意としているのかもしれません。創造的な判断において、この4つの方法を駆使しているのではないかと考えると、シンプルに適応の方法を整理できます。

「変異」を生み出す9つのパターン

太刀川 他方で、「変異」には、これまで「欠失」「融合」「交換」「擬態」「増殖」などの9つの発生パターンが見つかっています。

太刀川 先ほども述べたように、生物学において「変異」は、DNAのコピーエラーによって生じます。そして、このDNAとほぼ同じ構造を持つものとして、「言語」が挙げられます。人類の進化上もっとも大きな変異だと考えられる「道具の使用」が行われた5万年は、言語を生み出した時期とほぼ一致するのですが、私はこのDNAと同じ構造を持つ言語が欠けてしまったり、何かと融合したりすることによって、人間の頭の中で変異的なアイデアが生み出されているのではないかと仮説を立てています。

どういうふうに言語のエラーを認識しうるかが「変異」であり、その結果生み出された様々なアイデアを自然科学的に読み取き、「適応」していく。その往復によって、時代に生き残るような強力なコンセプトにたどり着きやすくなる道筋を案内しているのが、『進化思考』なんですよね。


太刀川さんによる話題提供のアーカイブ動画は、会員制オンラインプログラム「CULTIBASE Lab」限定で配信しています。ご興味のある方は、CULTIBASE Labに登録の上、合わせてご覧ください。

『進化思考』を読み解く「問いのデザイン」

プロフィール
太刀川 英輔
NOSIGNER代表、進化思考家、デザインストラテジスト、慶應義塾大学特別招聘准教授
創造性の仕組みを生物の進化から学ぶ「進化思考」を提唱し、様々なセクターの中に美しい未来をつくる変革者を育て、創造教育の更新を目指すデザイナー。 デザインで美しい未来をつくること(実践:社会設計)、自然から学ぶ創造教育で変革者を育てること(理念:進化思考)。この二つを軸に活動を続けている。 プロダクト、グラフィック、建築、空間、発明の領域を越境し、次世代エネルギー、地域活性、伝統産業、科学コミュニケーション、SDGs等の数々のプロジェクトの総合的な戦略を描き、成功に導く。 グッドデザイン賞金賞(日本)、アジアデザイン賞大賞(香港)他100以上の国際賞を受賞。グッドデザイン賞、DIA(中国Design Intelligence Award)、DFAA(Design for Asia Awards)、WAF(World Architecture Festival)等の国際デザイン賞の審査委員を歴任。 主なプロジェクトに、進化思考、OLIVE、東京防災(東京都)、PANDAID、山本山、横浜DeNAベイスターズ、YOXO(横浜市)、ミズベリング、MOZILLA FACTORY、秋川牧園、PLOTTER、2025大阪・関西万博日本館基本構想など。 著書に『進化思考』(海士の風、2021年)『デザインと革新』(パイ インターナショナル、2016年)がある。

執筆:水波洸

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