企業を営むにあたり、「事業」が重要であることは言うまでもありません。事業は組織にとって収益を生み出すための手段であると同時に、複数事業を展開する場合、それらの事業のシナジーによって、他の企業ではなし得ない新たな価値を社会に届けることが可能となります。
しかしながら、複数の事業を展開する「多角化経営」は、新たな価値創出の可能性を拓く一方で、うまくやらなければ価値の減退(コングロマリット・ディスカウント)を招く「諸刃の剣」でもあります。
自分たちの組織にしか出せない社会的価値を探究するためには、事業づくりの考え方・ものの見方が必要なのでしょうか。
本講座では、株式会社MIMIGURIが提唱する組織づくりを推進するための羅針盤「Creative Cultivation Model(通称:CCM)」の内容をもとに、現代組織に必要な事業デザインの理論をお届けします。
▼CCMの簡単な解説は下記の動画をご視聴ください
【3分解説】Creative Cultivation Model(CCM)とは何か?
▼詳しく知りたい方はこちらのアーカイブ動画をご視聴ください
ヒトと組織に強い経営人材になるための『新時代の組織づくり』
シリーズ「CCM総合実践講座」では、このCCMを組織づくりに活用するための理論や、実践上のポイントの専門的な解説をお届けします。今回のテーマは「組織デザインの理論と実践」。前後編にわたって配信します。今回は後編として、前編の理論を踏まえながら、実際に事業をつくるうえで押さえておくべき実践的な観点について、語り合います。
CCM総合実践講座のバックナンバーはこちら
「事業デザインの理論と実践[後編]|CCM総合実践講座」のチャプター
00:11 事業の軸となるコアケイパビリティをいかにして定めるか?
05:41 「ブランド」を軸に事業づくりを行う際のリスクと対処法
10:41 「両利きの経営」を実践するには?:サブケイパビリティにも投資を行うためのポイント
15:13 ボトムアップの新規事業はなぜうまくいかないのか?
29:27 現代組織に求められるブランディングのあり方とは?
「事業デザインの理論と実践[後編]|CCM総合実践講座」のポイント
■事業の軸となるコアケイパビリティをいかにして定めるか?
- 前編に引き続き、「事業デザイン」について探究する。最初のトピックは、「(事業の)軸となるケイパビリティをいかにして定めるか?」。原はまず最初に考えるべきポイントは、顧客や社会に提供する価値であり、そこから自社が持つケイパビリティと照らし合わせながら事業づくりを推進することが効果的だと述べる。
- ただし、長年積み重ねてきた組織の文化などと乖離したケイパビリティを活かそうとしても、持続しないケースが多いという。また、ミナベは事業ケイパビリティを自分たちだけで客観的に捉えることは容易ではなく、顧客をはじめとした他者からの目線も取り入れながら、見定めていくことが大切だと語る。
■「ブランド」を軸に事業づくりを行う際のリスクと対処法
- ブランドを軸とした事業デザインは、ラグジュアリー製品などを中心に多く見られるケースのひとつである。しかしながら、注意すべき点として、それらのブランドはあくまで組織の構造や文化、風土から”にじみ出ている”ものであることが望ましいと原は語る。こうした組織の内面との整合性が取れていない場合、ブランドが独り歩きしてコントロールできなくなってしまうことがあるという。
- また、ブランド形成はユーザーに複数回認知してもらうことが必要となることから、源泉である事業ケイパビリティとの結びつきを欠いてしまうと、持続可能性のないものになってしまう。すなわち、ブランドに相応する機能・能力を、その商品やサービスが有していることが大切となる。
■「両利きの経営」を実践するには?:サブケイパビリティにも投資を行うためのポイント
- また、中長期目線では、メインケイパビリティだけを伸ばすのではなく、組織に新たな可能性をもたらす「サブケイパビリティ」にも投資を行う必要がある。こうした、いわゆる「両利きの経営」を行う際には、まだ成果が出ていない新事業に対して、その事業に対する「意味づけ」を経営チーム内で揃えるためのコミュニケーションが重要である。
- また原は5年先・10年先を見据えたサブケイパビリティの探究を行う中で、どうしても推進する意義を見失ってしまう場面が訪れるという。その際にも、やはり密なコミュニケーションを取りながら、サブケイパビリティの拡張に対する強い意志を組織として持てるかどうかが鍵になると語る。
■ボトムアップの新規事業はなぜうまくいかないか?
- 新規事業開発のよくあるケースのひとつが、経営が強い意志を持って推進させていくトップダウン的なやり方である。他方で、現場起点で事業を提案するボトムアップ的なやり方も、多く試みられている。しかし、これらの試みはうまくいかないことが多く、安斎はその理由として、そのボトムアップ的な事業開発を評価する軸が組織内でブレてしまうことを挙げる。
- ボトムアップ型の事業開発は、直接それが社会的価値の提供のために行われるというよりも、その手前にある事業ケイパビリティや組織アイデンティティの拡張に寄与するものが多く、その事業がどんな目的で推進されているのか、組織内でも認識を共通させることが難しく、また、ミナベはボトムアップ型の事業開発は、その目的を実現するための方法論も確立されているとはいい難いという。
- また原は、5年先・10年先のビジョンを考えたときに、事業として成功を得ることももちろん重要だが、たとえ思うような成果が得られなかったとしても、その過程で生じた学習が共有され、組織の未来につながっているような仕組みが組織に備わっていることが大切だと述べる。
■現代組織に求められるブランディングのあり方とは?
- 前提として、ブランドというものも社会の流れに応じて変化するものである。こうした社会の流れもキャッチしながら、自身のありのままを表現するのではなく、それをベースとしながら、”やや背伸びをした”ブランドビジョンを掲げ、組織をそこに適合させていくような流れで、組織の成長を促していくことが重要ではないか、と原は語る。
- CCMの本質が「探究」であるとしたときに、「すでにできること」だけに目を向けるのではなく、「これからできるようになりたいこと」に対するまなざしも組織内で共通させることも大切である。理想と現実の間のギャップをある程度許容しつつ、とはいえ完全な誇大広告にならないようにも注意しながら、ブランドをつくり上げていく意識が肝要である。