組織に変化はつきものです。組織の中から変化が求められることはもちろん、組織が成熟していたとしても、技術の発展や社会環境の変化に伴い組織を変革しなくてはならないこともあります。
組織変革については、長年にわたって学術研究が行われています。しかし、研究と実践の蓄積があるにもかかわらず、現実の組織変革の成功率は決して高くありません。
本記事では、組織変革に関する定義から先行研究、事例まで骨太に扱った書籍『組織変革のレバレッジ:困難が跳躍に変わるメカニズム』(安藤 史江ほか著)の中から、組織変革理論「コングルエンスモデル(整合性モデル)」を取り上げて、理論による組織改革の実践・活用と、その限界について、議論を深めていきます。
※本記事内で出てくるスライド画像は、CULTIBASE Lab動画「組織変革のレバレッジ:変革の見取り図としての「整合性モデル」」より引用しています。
「このままの状態が最良である」と言えない時、どんな課題があるのか?
突然ですが、みなさんにとって、今所属している組織の状態は「最良」と言えるでしょうか。
「この組織を変えていきたい/変えなければならない」と思う場面はさまざまあると思いますが、ここではよくある組織の悩みとして、3つの具体事例を挙げてみます。
①これまではトップの強い求心力で現場が動いていたが、組織が大きくなってきて同じやり方では限界がみえてきた。組織のマネジメントスタイルを切り替えなければ…
②主力事業が伸び悩みを見せている。今後、市場は縮小傾向となる見込み。今のうちから次の一手を打たなければ会社の未来がないのではないか…
③この会社の人事制度は年功序列制。成果と評価の繋がりが見えづらいから、優秀な若手からどんどん転職している。このままでいいのか...
多かれ少なかれ、似たような課題を抱えている方が多いのではないでしょうか。
今回は上記3つのような「組織あるある」な事例を用いながら、
- そもそも、「組織が変わる」とはどういうことか?
- どうすれば「組織が変わる」のか?
- 組織を変えていく上での指針や見取り図はあるのか?
について紐解いていきます。
「組織を変えていきたい」とは、どういうことなのか?
まずは「組織が変わる」とはどういうことか?を考える上で、組織変革の定義を改めて確認します。先行研究をもとに組織変革の定義を一つの文章で表すと次のようになります。
組織の既存資源や要素を最大限に活かしつつ、その結合の仕方を変えることによって新たな価値を生み出すべく、Aという状態からBという状態へ不連続的な変化を遂げること、そのうえで、その変化を定着させること。
この定義におけるポイントは、「結合の仕方を変えることによって」とあるように、変革の前後で、用いる資源・要素は変わらないこと、つまり変革のために新たに人を採用するなど、資源・要素の変更は想定していないことです。
心理学者のクルト・レヴィンは、このように構成要素を変えず、変革を起こす様子を「組織変革の3段階モデル」として提唱し、「氷」をメタファーとして説明しています。
このモデルは、解凍(Unfreeze) →変化(Change)→再凍結(Refreeze)という三段階で説明されます。例えば「四角い氷」があったときに、それが解けて水になって、再び凍結し「丸い氷」になったとします。このとき形は変わっていますが、水という要素は変わりません。組織変革にも、同じようなことが言えるのです。
組織変革の定義におけるもう一つのポイントは、「その変化を定着させること」という部分です。つまり、組織に変化が起こったとしても「一時的な変化」だけでは組織変革できたとは言えないということが挙げられます。
例えば、肩が凝るからマッサージにいくとして、マッサージで一時的に凝りが解消されたとしても、それをきっかけに日々姿勢をよくするなどといった継続的な行動変化がないと、本質的に凝りは解消されません。
組織変革には、現在の延長線上ではない姿、かつ不連続で不可逆な変化が必要なのです。
それでは、具体的にどのような場面で組織変革が必要になるのでしょうか。最初にご紹介した3つの事例について、課題を整理します。
①これまではトップの強い求心力で現場が動いていたが、組織が大きくなってきて同じやり方では限界がみえてきた。組織のマネジメントスタイルを切り替えなければ…
①の事例では、これまで有効だったやり方が通用しなくなってきており、「内部統合プロセス」の観点で課題が生じていると言えます。「内部統合プロセス」とは、いわば組織の共通目的を実現する上で、活動内容が噛み合わなくなってる状態です。
②うちの主力事業が伸び悩みを見せている。今後、市場は縮小傾向となる見込み。今のうちから次の一手を打たなければ会社の未来がないのではないか…
②の事例では、組織内は統合されているが上手くいかない「外的整合性確保」の観点で課題が生じています。つまり、外部環境に変化が起きているため、組織と外部環境の間に不整合が起きている状態です。
③この会社の人事制度は年功序列制。成果と評価の繋がりが見えづらいから、優秀な若手からどんどん転職している。このままでいいのか...
最後に③の事例では、「内部統合プロセス」の観点・「外的整合性確保」の観点両方の相互作用で課題が生じています。これまで有効だったやり方が機能しなくなっており、さらには外部との整合性も取れなくなっている状態です。
この整理に基づくと、組織変革は、「組織内外の新たな整合性を確保することを目的とする活動」と言えます。内部や外部、またはその両方の整合性が崩れた時に、組織変革の必要性が知覚されるのです。
組織変革が必要とされるときのための理論「コングルエンスモデル(整合性モデル)」
組織における整合性を保つ、という視点から注目されているのが、組織変革理論「コングルエンスモデル(整合性モデル)」です。
このモデルは、経営思想家マイケル・L・タッシュマンと組織変革の研究者デービッド・A・ナドラーが1970年代に考案したもので、組織研究の文脈で、現在まで脈々と受け継がれる重要なモデルの一つとなっています。
このモデルの画期的な点は、組織が直面する問題を1枚のフレームワークで分析することができる点です。最初にこのモデルが発表されて以降、様々な研究者・実践者によりモデルのアップデートが試みられ、今やいくつものパターンのコングルエンスモデルが存在します。
その中でもタッシュマンとナドラー自身がモデルをアップデートし、1989年に発表した図について、それぞれの要素を日本語に翻訳すると以下のようになります。
このモデルからは、
①組織とは、環境からインプットし、それをある形に変えてアウトプットを算出するシステムである
②変換器にあたる組織には4つの構成要素(人・業務・公式組織・非公式組織)があり、これらの整合性を図ることが組織変革実現の成否を分ける
ということがわかります。
コングルエンスモデルについてのより詳しい解説は、ぜひ以下の動画をご覧ください。
組織変革のレバレッジ:変革の見取り図としての「整合性モデル」
ここで、コングルエンスモデルを使った組織変革の具体的な例として、『組織変革のレバレッジ:困難が跳躍に変わるメカニズム』で紹介されている、マリエカリヨン名古屋の事例について解説します。マリエカリヨン名古屋とは、ブライダルと葬祭を2大事業とする出雲殿グループの1施設。グループの施設の中でもシンボル的な存在と認識されているそうです。
マリエカリヨン名古屋では、もともと内部の整合はとれていましたが、大規模挙式の縮小や少子高齢化など、ブライダルをめぐる外部環境の変化により、不整合が生じはじめました。組織内には閉塞感が漂うものの、これまで専制的なトップの指導の元で経営されていたことから、受け身な働き方をする社員も多く、外部環境の変化に対して組織内を変えることができていなかったのです。
コングルエンスモデルで当初の状況と課題を描写した図しかし、そこからこの企業の強みであった「本物の体験と最高のサービスの提供」を軸に、組織や人、業務を少しずつ調整することで、内的整合性と外的整合性がとれる状態が作られ、組織変革が実現したといいます。
コングルエンスモデルで組織変革後の状態を描写した図このように、コングルエンスモデルを用いて組織の構成要素を整理することで、各要素間の整合を確認し、組織全体の見取り図にすることができます。
「組織は生命的なシステム」。現代におけるコングルエンスモデルの限界とアップデートのための鍵
コングルエンスモデルは、組織変革のモデルの中でも、数十年に渡り活用され、アップデートされてきた有望なモデルの一つです。しかし活用の上では課題もあります。
一つは、整合性をとるために、どこからはじめるべきか、切り口の設定が難しい、という点です。マリエカリヨン名古屋の事例のように、完了した組織変革事例をあとから読み解く際には有効ですが、現在進行形の組織変革・これから組織変革していきたい人にとっては少し使いづらいと思われるかもしれません。この点については、書籍『組織変革のレバレッジ:困難が跳躍に変わるメカニズム』でも触れられていますので、ぜひ読んでみてください。
もう一つは、整合性がとれているかどうかについて、誰がどういう基準で判断するのかがわからない、という点です。整合しているかは曖昧で、客観的なサーベイではない、というところに注意が必要です。
また、この図では全ての要素が相互干渉する形で表現されているため、直感的に状況を捉えづらいという課題もあります。もちろん、全ての要素が相互干渉しているという点は、このモデルの優れている点でもあります。これにより、各要素が他の要素と繋がりながら整合性を取っていく様子を表現できます。
しかしながら、このような無機質なパズルのような描写が、有機的な組織を扱うのに最適なのか、という点にも疑問が残ります。
コングルエンスモデルでは、経営者が組織を変更することは想定されていますが、そこにいる人々の自発的な変革を信用していないようにも見えます。
こうした課題を踏まえ、最後に、コングルエンスモデルをアップデートする鍵について触れていきます。鍵となるのは「組織アイデンティティ」です。
CULTIBASEでは、組織を無機質な「工場」ではなく、「有機的なシステム」だと考えています。つまり、ある組織に何かをインプットすればベルトコンベアに乗って、加工されたものがアウトプットされる、という見方ではなく、組織にいる人々が相互に影響しあい、意志を持って社会的な価値を生み出していくような存在だとみなしています。
そうした観点から考えると、組織の変革において、組織にいる人々が、「私たちは何者か」という “組織アイデンティティ” を構築する動きは無視することができません。マリエカリヨン名古屋の事例で言えば「本物の体験と最高のサービスの提供」は、ある種の組織アイデンティティです。「私たちは、本物の体験と最高のサービスを提供する存在なのだ」という認識が強固になったことで、そこで働く人々の心に火が灯り、「本物の体験と最高のサービスを提供するためにはどうあるべきか/何を変えるべきか」と考え、急速な組織変革が進んだといえます。
つまり、組織アイデンティティが、組織行動の基盤になり、組織としての見方や解釈に強い影響を及ぼすのではないでしょうか。
組織は探究し続けている生き物ーー。ぜひ、こうした前提に立った上で、関係者間で組織の現状の認識をすり合わせたり、組織の状態を見立てていただきたいと思っています。また、その手段の一つとして、「コングルエンスモデル」を活用することもできるかもしれません。
CULTIBASEを運営する株式会社MIMIGURIでは、コングルエンスモデルの課題を乗り越えるモデルとして、新時代の整合性モデル「Creative Cultivation Model(CCM)」の開発を進めています。
個人や社会の価値観が急速に変化する中で、組織の価値観にも変化が求められる現代。CCMは、事業を通して社会的価値を探究しつつも、社員一人ひとりの自己実現を諦めない、冒険的組織をつくるための羅針盤です。以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。
CCMとは何か? 新時代の整合性モデル “Creative Cultivation Model”は、冒険的組織づくりの羅針盤
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本記事は、CULTIBASE Lab動画「組織変革のレバレッジ:変革の見取り図としての「『整合性モデル』」の一部を記事化したものです。動画では、コングルエンスモデルについてのより詳しい解説や、このモデルをアップデートする鍵「組織アイデンティティ」について安斎 勇樹(株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO)と東南 裕美(株式会社MIMIGURI リサーチャー / ファシリテーター)のディスカッションなどがご視聴いただけます。