一人ひとりのメンバーの個性を活かす「ワークショップ型組織」において、互いの「こだわり」をわかりあう対話的なコミュニケーションは必要不可欠です。
対話の本質とは、相互理解の「深さ」であり、普段は見えない相手の思考や価値観に想像力を働かせることです。
氷山に喩えるならば、相手が実際に発する言葉や行動はその人の本質のほんのごく一部であり、背後にある前提は目に見えません。
そうした日常では露見しない深部に「問いかけ」によって光を当て、相手の奥底に眠っている「こだわり」を深掘りし、チームのズレを解消しながら共通のこだわりを育む技術について、新刊『問いかけの作法』では体系的に整理しています。
編集の技に学ぶ 他者の魅力を引き出す“フカボリ“の技術
仕事を依頼するときこそ「こだわり」を伝える
他方で、問いかけによって「相手のこだわり」を理解しようとするだけでなく、「自分のこだわり」を伝える努力をすることも同じくらい重要です。
特にチームメンバーに仕事を依頼するときには、こだわりの齟齬が生じないように注意が必要です。
日々の業務において上司が部下にちょっとした仕事をお願いする場面を例に考えてみましょう。たとえば、リリースしたばかりの新サービスのシステムに不備があり、登録ユーザーからクレームが殺到している場面を思い浮かべてみてください。
発生したトラブルに対応すべく、上司は慌てた様子で、部下に「クレームに対応しつつも、クレーム内容を分析し、リスクの観点で優先順位をつけて対応策を整理してもらえませんか?」とお願いしています。
部下は「わかりました」と了承し、資料の作成に着手しはじめました。
前職で営業経験のある部下は、手慣れた様子でクレームの問い合わせ内容にざっと目を通して、その文面のニュアンスから、
・不備に激怒していて解約を希望しているユーザー
・明確な不満を感じているが解約リスクはそこまで高くないユーザー
・前向きに不備を指摘してくれているポジティブなユーザー
に分類して、解約リスク別の顧客対応方針を手際良く資料にまとめました。
2時間ほどで作業を終えて、いざ資料を提出すると、上司は「おい、なんだこの資料は!?指示を聞いていたのか?」と、困惑している様子です。
いったい何が起きたのでしょうか?
バックグラウンドの違いから「こだわり」の齟齬は生まれる
実は、上司は元々エンジニア出身で、「システムの不備をいかに早く改修するか」を第一に考えており、今回起きている不備が実装の問題なのか、サーバー側の問題なのか、復旧にどれくらい時間とコストがかかるのか、開発リスクの観点から対応策を精査したかったのです。
これは氷山モデルで整理すると、根底にある価値観、つまり仕事における「こだわり」のすれ違いに他なりません。
上司はエンジニアの視点から「システム開発」にこだわり、部下は営業の視点から「ユーザーの解約防止」にこだわった。どちらが正解ではなく、これはコミュニケーションの問題です。
やるべき仕事として「クレーム内容の分析が重要だ」というHOWレベルの認識自体は噛み合っていたものの、その前提(なぜそれが重要なのか)を上司はまったく説明しませんでした。
また、部下も前提を確認せずに、自分のこだわりに基づいて、勝手な解釈をして仕事を進めてしまいました。
表面的に意見が一致しているからといって、前提が合致しているとは限らない、典型的なケースといえるでしょう。
こういう日常的なミクロな業務場面こそ、この氷山モデルを思い出して、自分の「こだわり」を伝え、相手の「こだわり」を理解する対話的なコミュニケーションを心がけるようにしましょう。
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