12月23日にCULTIBASE編集長の安斎勇樹の新刊『問いかけの作法:チームの魅力と才能を引き出す技術』が出版されます。予約受付を開始しておりますので、ぜひ発売前にご予約ください。本記事では『問いかけの作法』の序文を一部抜粋し、紹介します。
誰も意見を述べない「お通夜ミーティング 」
「さあ、この企画に何か意見はありませんか?」
「どんどんアイデアを提案してください!」
「今日は自由に話し合いましょう!」
どこか集中力のない表情のプロジェクトメンバーたちは、あなたから目を逸らし、互いに発言権を譲り合うように、一向に口を開きません。
「遠慮なく意見していただいて構いませんよ」
「どなたか、いかがでしょうか?」
あなたの呼びかけは虚しく、期待していた「画期的な提案」はおろか、誰も「自分の意見」さえ述べない、お通夜のような状況です。
もっと自分の頭で考えて欲しい。
主体的に話し合いに参加して、自分の意見を述べて欲しい。
自分の役割を考え、チームに貢献してほしい。
多くのリーダーがチームに対して抱くこのような「期待」は、多くの場合、思うようにはいきません。
そこであなたは仕方がなく、この期待を口に出し、チームメンバーに指示を出したり、直接お願いしたりすることによって、直接的な「要求」をしてみることにします。
「もう社会人なのだから、主体的に自分の意見を発言してくださいよ」
「良いアイデアじゃなくてもよいので、最低ひとつはアイデアを出せませんか?」
しかしながら、あなたは肩を落とすことになるでしょう。それでも他人は、あなたの要求通りには動いてくれません。
「意見と言われても…。特にありません。賛成です」
「すみません、次までに考えておきます」
打っても響かない相手に業を煮やしたあなたは、部下を呼び出し、その受動的な態度に不満を表明し、叱責したくなるかもしれません。どうしてやらないのか。なぜできないのか。やる気があるのか。
あるいは相手が同僚や上司なのであれば、友人や家族に愚痴をこぼすことで、その直接ぶつけられない感情を発散したくなるかもしれません。
そうしているうちに、とうとうあなたは変わらない現状を受け入れ、「周囲に頼るよりも、自分でやったほうが早い」という結論に、辿りついてしまうでしょう。当初のチームへの「期待」は、いつしか「失望」へと変わっていくのです。
孤軍奮闘の悪循環
これは、多くのチームで発生している「孤軍奮闘の悪循環」と呼ばれる展開です。お互いに誰も期待していないチームから、良いパフォーマンスが生まれるはずがありませんから、一度このサイクルに陥ると、チームの主体性と創造性はどんどん下がっていきます。皮肉なことに、優秀でモチベーションの高い人ほど、このサイクルによってチームのポテンシャルを抑制し、そしてチームから孤立していくのです。
本書を手にとったあなたが思い描く理想は、孤立無援に「自分が頑張る」世界ではなく、仲間と力を合わせて「チームで成果を出す」世界であるはずです。あなたがチームの仲間に期待するものは、あなたに対する「同調」でも「謝罪」でもなく、その人らしさ、すなわちチームメンバーの個性あふれる才能の発揮であるはずです。
では、あなたがこの悪循環に陥らずに、チームと職場を魅力的な場に変えるためには、どうすればよいのでしょうか。
その答えはただひとつ。
周囲に投げかける「問いかけ」の質を変えることなのです。
魅力と才能を引き出す「問いかけ」の技術
場面を冒頭の「お通夜ミーティング」に戻しましょう。もしあなたの呼びかけが、以下のような「問いかけ」であったならば、いかがでしょうか。
「この企画案、どこかひとつだけ変えるとしたら、どこでしょうか?」
「もし自分がお客さんだったとしたら、この案に100点満点で何点をつけますか?」
「いきなり良いアイデアを考えるのは難しいですよね。まずはいま頭の中にパッと浮かんだことがあれば、なんでもよいので教えてくれませんか?」
これらは実際に、私が「お通夜のようなミーティング」の司会進行をするときに、頻繁に活用しているテクニックです。具体的には、本書で詳しく解説する「問いかけ」の技術のうち、「仮定法」「パラフレイズ」「足場かけ」と呼ばれるテクニックです。このように、ちょっとした「問いかけ」の工夫を加えるだけで、話し合いの空気は、ガラリと変わります。
特に意見はないと口を閉ざしていたはずのメンバーたちが、次第に「企画の中身はよいと思うのですが、キャッチコピーの表現が気になります」「もし自分がお客さんだったら、85点です。こういう要素が加わったら、+5点になるかもしれません」など、「自分の意見」を表明してくれるようになるのです。
このような、工夫された「良い問いかけ」を繰り返していると、ミーティングを重ねるごとに、チームメンバーは自分の個性、すなわち「こだわり」を発揮することに、喜びを感じるようになっていきます。あなた自身も、「なるほど、そういう意見もあるのか」「この視点は参考になるな」と、メンバーの発言から気づきがもらえるでしょう。眠っていたチームのポテンシャル(潜在能力)が発揮され、「自分の仲間たちにはこんな才能があったのか」と、驚かされる場面を何度も経験するはずです。
チームワークの好循環
そのような強固に信頼しあったチームから、良い成果が生まれないはずがありません。このような成功体験を繰り返すことで、あなたのチームに対する期待はさらに高まり、信頼感へと変わるでしょう。このようにして、よりよいチームワークを発揮する好循環が生まれるのです。
あらゆる場面で必要な「問いかけ」の効用
問いかけが必要な場面は、なにもミーティングの進行や、部下とのコミュニケーション場面だけとは限りません。
同僚や後輩、あなたの上司、また家族や友人とのコミュニケーションの場面においても有効です。あなたが共にする「他者」の思考と感情は、あなたが日々発する問いかけの質に、少なからず影響を受けているからです。
また、これまで説得や交渉の相手だと思っていた取引先の相手とも、問いかけをうまく使えば、同じゴールを目指す「仲間」として、協力関係を築くことも可能です。
これからの時代、仕事は「自力」ではなく、「他力」を引き出せなくては、うまくいきません。問いかけの技術を駆使することによって、周囲の人々の魅力と才能を引き出し、一人では生み出せないパフォーマンスを生み出すこと。これが、現代の最も必要なスキルの一つなのです。
周囲の才能を引き出してばかりでは、他の人が評価され、自分の評価は埋もれてしまうのでは? そう心配に思う人もいるかもしれません。
しかし、それは「逆」です。むしろ、自分だけのスキルと業績にしか関心がない人よりも、問いかけをうまく使って他者の力を引き出せるほうが、これからは高く評価されるようになっていきます。
世間に目を向けてみても、アイドルのプロデューサー、スポーツチームの監督、バラエティ番組の司会、ビジネスコーチや編集者など、「自分が答えを出す」のではなく、うまく他者に問いかけることによって、「他人の才能を引き出す」ことができる人が、ますます表舞台で注目されるようになってきています。
あなたひとりの実績を磨くよりも、「問いかけ」によるチームの力を高めていったほうが、結果として「あの人と一緒に働くと、気持ちよく仕事ができる」「あの人のチームだと、良い成果が出せる」「あの人のもとでは、次々に良い人材が育っている」といった「あなた自身の評価」へとつながり、活躍の場も広がっていくのです。
何より、一人で孤独に努力を重ねるよりも、他者の才能を活かしながら働くほうが、圧倒的に仕事が楽しくなるはずです。
本書の構成
本書『問いかけの作法』は、私のこれまでの研究と実践の成果を、チームのミーティングにおける「問いかけ」に落とし込んだ実践書です。ミーティングには、集団で話し合うチームミーティングだけでなく、1対1の面談形式で行われる1on1ミーティングも含みます。
問いかけが重要なのはわかったけど、「質問を考えるのが苦手だ」という人も、少なくないでしょう。しかしながら、問いかけは人間力やセンスではなく、一定のルールとメカニズムによって説明できる、誰にでも習得可能なスキルです。問いかけに必要な要素と工程を分解し、誰にでも実践可能なプロセスに落とし込んだ理論が、本書で提案する「問いかけの作法」のモデルです。
もちろん、本書を「ただ読む」だけでは、チームの魅力と才能を引き出せるようにはなりません。本書の理論は、現場で実践を繰り返すことで、より理解が深まる内容になっています。
急いで読み終えようとせずに、1章ずつ、あるいは1項ずつ読み進めながら「本書を読み進める」「実際のミーティングで実践してみる」「手応えを振り返る」という試行錯誤を何度も繰り返すことで、本書の知があなたの身体にじわじわと染み込み、技術が磨かれていく実感が得られるはずです。
<基本編>
第1章 チームの問題はなぜ起きるのか
第2章 問いかけのメカニズムとルール
<実践編>
第3章 問いかけの作法①見立てる
第4章 問いかけの作法②組み立てる
第5章 問いかけの作法③投げかける
新刊『問いかけの作法:チームの魅力と才能を引き出す技術』が好評発売中です。チームの眠っているポテンシャルを最大限に発揮させるための「問いかけ」の実用書としてノウハウをまとめています。関心のある方は是非下記よりお買い求めください。
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