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【序文公開】冒険する組織のつくりかた:「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法

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約17分

【序文公開】冒険する組織のつくりかた:「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法

2025年1月24日に安斎 勇樹(株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO / 東京大学大学院 情報学環 客員研究員)の新著『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』が発売されました。この記事では、本書の序文を公開します。

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冒険する組織のつくりかた


はじめに

「“会社にいる自分に違和感がある──”」

いま、そんな人が増えています。

会社に対する“ちぐはぐ感”を放置したまま働き続けた結果、いわゆる「バーンアウト(燃え尽き症候群)」の状態に陥った人の話もよく耳にするようになりました。

組織が求める「役」をうまく演じようとすればするほど、「組織人」になりきれない自分が耐えられなくなるのかもしれません。

あるいは、世の中の環境が変化し、自分のキャリアを見つめ直したり、別の生き方を模索し たりする機会・時間が生まれたことも一因でしょう。

とくに、成長意欲の高い主体的な人ほど、そういう“ズレ”に敏感です。

少しでもモヤモヤが続けば、いまの職場にサッと見切りをつけ、活躍の場を求めて別の会社 に転職したり、独立の道を選んだりします。

組織の水面下で膨らむ「巨大なモヤモヤ」

こうした動きは、氷山の一角にすぎません。

「会社にいる自分」への違和感は、あらゆる人に広がっています。

仕事そのものが面白いか、満足な成果を上げられているか、組織内で高く評価されているか は、あまり関係ありません。

むしろ、仕事のパフォーマンスが高くて、順調に昇進しているような人ほど、「なぜこの組織でがんばり続けないといけないのか?」がよくわからなくなる──。

そんな厄介な現象が起こっているのです。

いま、「氷山」の下には、人と組織をめぐる“巨大なモヤモヤ”が渦巻いています。

この違和感は、ものすごい勢いで、しかし、とても静かに広がっています。

そのため、みんなおかしいと感じているのに、だれもそれを表立っては口にしません。

冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法

会社に対する「ちぐはぐ感」は、人々から意欲を奪い、職場全体になんとも言えない停滞感 を生み出します。

この状況が続けば、事業の成長は鈍化 し、組織は内側からダメになっていくでしょう。

いったいなにが起きているのか──?
どうすれば、このモヤモヤを解消できるのか──?

「組織人なんかになりたくない!」

私・安斎勇樹は、企業の「組織づくり」を得意領域とする経営コンサルティングファーム「MIMIGURI」の経営者をしています。

MIMIGURIは、文部科学省の認定を受けた研究機関でもあり、アカデミックな知見を 下敷きにしながら、これまで350社以上の会社を支援してきました。

資生堂、シチズン、京セラ、三菱電機、キッコーマン、竹中工務店、東急などの大企業から、マネーフォワード、SmartHR、ANYCOLOR などのベンチャー企業に至るまで、さまざまな会社の「組織づくり」に伴走してきた実績があります。

しかし、いきなりちゃぶ台をひっくり返すようですが、私自身はもともと「組織」というものに対して、あまりいいイメージを持っていませんでした

とくに若いころは、学校や会社といった世の中の組織のなかにある種の「ウソっぽさ」を感じ、嫌悪感すら抱いていたと思います。

「組織なんかに縛られず、一人で自由に働きたい!」

そんな思いを持っていた私は、一般企業には就職せず大学に残りました。

そして、東京大学大学院で博士号を取得し、そのまま東大でフルタイムの研究者として働きはじめたのです。

研究テーマだった「ワークショップデザイン」や「人と組織の創造性を高める方法論」の面白さにのめり込んだ私は、当初そのままアカデミズムの世界に留まるつもりでした。

しかし、大学院生のころから興味の赴くままに、さまざまな企業のワークショップを支援するうち、MIMIGURIの前身となる会社を起業することになったのです。

気づけば組織や事業はどんどん大きくなり、自分のなかに「研究者」と「経営者」という2つの顔が出来上がっていました。

そんな私にとって、冒頭で描いた「組織への違和感」は、長年にわたる関心事でした。

MIMIGURIの経営者としても、「メンバーの創造性を潰さない会社をつくること」には、ずっと心を砕いてきたつもりです。

「自分がずっと嫌悪してきたような組織だけは、絶対につくりたくない!」という思いがあったからです。

ビジネスは「戦争」であり、会社は「軍隊」だった──根底にある「軍事的な世界観」

組織に苦手意識があるのは自分だけ──てっきり私はそう思っていました。

しかし、どうやらそんなこともなさそうです。

いまや、クライアント企業からの相談に向き合っていても、ほぼ100%と言ってもいいくらい「人と組織をめぐる“巨大なモヤモヤ”」の問題に行き着きます。

働く個人と会社とのあいだで、なにか決定的なすれ違いが起こっているのです。

結論から言うなら、ここにあるのは「世界観のズレ」です。

世界観などと言うとちょっと大げさに感じられるかもしれませんが、ここではひとまず「ものの見方」「考え方」「価値観」といった意味でとらえてもらえれば大丈夫です。

「働く個人が持っている世界観」「組織に蔓まん延えんしている世界観」とのあいだのミスマッチが広がった結果、「“組織に所属する自分”がどうにもしっくりこない......」という人が増えているわけです。

そう言われても、あまりピンとこない人もいるでしょう。

「働く個人の世界観」はまだしも、とくに「組織の世界観」のほうは、なかなかイメージしづらいですよね。

そこで手がかりとなるのは「言葉」です。

人・組織がどんな世界観を持っているかは、ふだんなにげなく使っている言い回しや口ぐせに表れるからです。

これはわりとよく指摘されることですが、実際のところ、ビジネス用語のなかには軍事関連の由来を持つ言葉がたくさんあります。

最も使用頻度が高いのは、「戦略」でしょう。

そのほか、古典的なところだと戦術兵站(戦地に物資・兵員を送るロジスティクス活動)がありますし、わりと近年に注目されたアジャイルOODAループVUCAなどの用語も、もともとのルーツは米軍にあると言われています。

また、孫子の兵法ランチェスターの法則のように、現実の戦争のために開発された軍略ツールが、ビジネスの世界に転用されているケースもあります。

それ以外にも、「軍事的な発想」が見え隠れする言い回しは、かなりたくさんあります。

平和主義者を自認するやさしい人でも、ビジネスの場面ではわりと無邪気に〝軍事的色彩〟 の強いフレーズを多用していたりしますよね。

冷静に振り返ってみると、ちょっと異様なことに思えてきませんか?

冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法

もちろん、これらは単なるメタファー(比喩)です。

こんな言い回しをしているからといって、その人が軍国主義的な思想を持っているわけではないと思います。

また、誤解しないでいただきたいのですが、私は「こういう言葉遣いをやめるべきだ!」などと呼びかけるつもりは1ミリもありません。

しかしながら今日に至るまで、組織で働くたくさんの人たちが、まるで“軍隊”にいるかのような景色のなかで、あたかも“戦争”をするかのように仕事をしてきたというのは、一面の真理ではないでしょうか?

私はこのような暗黙の見方を「軍事的世界観」と呼んでいます。

これまでのビジネス・会社経営は、あまりにも「軍事的なものの見方」に傾倒しすぎていたのではないか?──これが、本書の根底にある問題意識です。

会社は“人生の一部”にすぎない──「会社中心のキャリア観」から「人生中心のキャリア観」へ

軍事的世界観は、現代の会社組織の「無意識」の領域にまでベッタリと染み込んでいます。

会社で働く個人たちもまた、この世界観を“当たり前のもの”として受け止めてきました。

そのため、ふつうに仕事をしているときには、私たちはそれに気づくことすらありません。

かつて、会社で働く人たちは「企業戦士」などと呼ばれ、彼らも自分たちを「上からの命令を忠実に実行する兵隊」だと信じて疑いませんでした。

会社から異動を言い渡されれば、そのとおりの部署で割り当てられた業務をやる──。

転勤の辞令が下れば、会社から命じられた地域に移り住む──。

組織のミッションのために自分を押し殺す「会社中心のキャリア観」が一般的だっ た時代には、ほとんどの人がこういう状況を受け入れてきたのです。

しかしいま、“天動説と地動説”に匹敵するほどの大転換が、キャリアの中心軸にも起こりつつあります。

とくに若い世代にとっては、会社はもはや「人生の1つの構成要素」にすぎません。

彼ら彼女らの主要命題はあくまでも「幸せな人生を送るためにどんなキャリアを歩むべきか?」であって、「会社のためになにをすべきか?」ではないのです。

こちらは「人生中心のキャリア観」とでも呼ぶべきでしょう。

このキャリア観は、コロナ禍などをきっかけとして、若手以外の世代にも広がってきています。

そして、軍事的世界観と相性のよかった「会社中心のキャリア観」が捨て去られた結果、「急に目が覚めたような感覚」に襲われて戸惑いを覚える人が、あちこちに増えることになりました。

冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法

「なぜ“人生の一要素”にすぎない会社に、振り回されないといけないのだろう?」

「組織に忠誠を誓って“戦争ごっこ”をすることに、どんな意味があるのだろう?」

こうした問いに対する「わからなさ」こそが、「会社に所属している自分」に対する違和感の正体なのです。

「冒険的な世界観」へのアップデートが求められている

このキャリア観のシフトは、不可逆なものです。

いまから会社の側がどれだけがんばったところで、人々を「会社中心のキャリア観」に引き 戻すことはまず無理でしょう。

ですから、いつまでも軍事的な世界観を引きずっている組織からは、今後、人がどんどん逃げ出していきます。

すでにたくさんの“脱走兵”が出てしまった会社もあるかもしれません。

ここで組織にできることは、たった1つ──「世界観のパラダイムシフト」です。

組織に染みついた「軍事的なものの見方」を変化させることでしか、人と組織の矛盾は解きほぐせません。

逆に、これがうまくいけば、組織がぶつかる問題の大半は、かなりラクに解消できます。

これは私自身、日々のコンサルティングの場面でも、大いに痛感しているところです。

いま、軍事的世界観から次のパラダイムに移行しようと努力している企業には、その動きに 共感した魅力的な人たちが次々と集まっています。

また、組織が持っている「ものの見方」を根底から変えられれば、どんなに規模が大きくて 歴史の古い企業であっても、新しく生まれ変わることができるのです。

他方で、時流に乗った小手先のアプローチばかりに飛びついている組織からは、いつまで経っても「水面下の巨大なモヤモヤ」が消えません。

表面的な施策にどれだけ力を注いだところで、軍事的組織に対する人々の違和感は、もはや ごまかせないところまできているからです。

では、これからの組織は、いったいどんな世界観を目指すべきなのか──?

それに対する答えが、本書のキーワード「冒険」です。

これまで多くの組織は、限られた市場のなかで「敵国」からシェアを奪い取るため、「兵力」を増強して「戦略」を展開する世界観のなかで戦ってきました。

ここに共通しているのは、働く人やお客さんなどの “人間”を「目標達成のための“道具”」と見なす考え方です。

しかしこれからの組織では、不確実な世界のなかで各人 が自分なりの目的を探索しながら、時には仲間たちと協力して新たな価値を生み出していく──まさに冒険者たちが 持っているような世界観が求められます。

私はこれを「冒険的世界観」と呼んでいます。

現代の人・組織には、「軍事的な世界観」から「冒険的な世界観」へのアップデートが求められているのです。

冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法

リーダーを“演じる”のは、もうやめにしよう

本書『冒険する組織のつくりかた』は、そのための全メソッドを凝縮した一冊です。

研究者としてアカデミックな知見も参照しながら、クライアント企業の変革事例や自社での 実践にも裏打ちされた具体的なメソッドを、惜しむことなく詰め込みました。

この本を通じて、冒険的な組織づくりの見取り図を手に入れれば、経営者ミドルマネジャー人事関係者のみなさんは、水面下に渦巻くモヤモヤを解消し、メンバーがいきいきと創造性を発揮する組織・チームをつくることができるはずです。


また、冒険する組織のなによりもの核心は、「全員が自己実現をあきらめない」ということにあります。

現場で働くメンバーはもちろんのこと、ともすると「自己犠牲的な調整役」に自分を押し込めがちなマネジャーたち自身も、“偽りのペルソナ”を身につける必要がなくなります。

冒険する組織とは、マネジャーが「自然体」でいられる会社でもあるからです。

さらに、本書で語る組織づくりは、経営リーダーや管理職だけのものではありません。

軍隊のような会社であれば、変革を主導するのは、どこまでもトップリーダーでしょう。

しかし、冒険する組織においては、一人ひとりが組織づくりの主人公です。

各個人の探究が「半径5メートルの職場」をまず揺さぶり、やがては組織全体を変えるうねりを生み出すことも珍しくありません。

ですから本書は、現場でモヤモヤしている個人にこそ役立つ「羅針盤」でもあるのです。

そんなわけで本書は、これまで私が続けてきた「探究=冒険」の集大成とも言うべき一冊に 仕上がったという手応えを感じています。

しかし、組織づくりの要点や各企業・チームが抱えている問題は、きわめて多岐にわたっているため、ずいぶんとボリュームがある本になりました。

「ちゃんと読み通せるだろうか......」と心配になっている人もいるかもしれませんが、どうかご安心ください。

ここに書かれていることは、どれも著者としてお伝えしたいことばかりではありますが、最初から通読にこだわらなくても大丈夫です。

たとえば、[序論]と[第I部 理論編](第1〜3章)でエッセンスをつかんだあと、[第II
部 実践編](第4〜8章)の気になる項目だけに目を通す、といった読み方もおすすめです。

組織に対する問題意識は、その時々で変化していきます。

なにか困ったことにぶつかるたびごとに、本書をいわば「組織づくりの百科事典」
としてご活用いただければ、著者としてもうれしいかぎりです(もちろん、冒頭から全体を読み通していただくのも大歓迎です!)。

それでは、いよいよ「冒険する組織」への探究をはじめていきましょう。

新時代の組織づくりに必要な「冒険的世界観」とは、そもそもどんなものなのか──?

“はじまりの地”となる[序論]では、まずその内実に踏み込んでみたいと思います。

※続きは書籍『冒険する組織のつくりかた 』でお楽しみください。


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