本連載「ワークショップ・ファシリテーションのヒント」では、「明日の実践ですぐ使える」ことをコンセプトに、実践に役立つちょっとしたファシリテーションのヒントを紹介します。
日常に学びを活かすリフレクションのコツ:連載「ワークショップ・ファシリテーションのヒント」第6回
第7回となる今回は、ワークショップの成果を充分に引き出すための「タイムマネジメントのコツ」について、役立つ知見をお届けしていきます。
ワークショップの本質的なポイントの一つに、「プロセスから学びを得る活動である」という点が挙げられます。何かしらの作品やアウトプットを協同的に制作し、その途中で行なったコミュニケーションを通じて他者のまなざしや価値観に触れ、そこから学びや気づき、創発を生み出していく。そのプロセスがどれほど充実しているかによって、ワークショップの質は決定づけられるといっても過言ではありません。そして、参加者が良質なプロセスを歩めるようにプログラムを設計し、ファシリテーションを行なうことが、ワークショップ実践者の役割でもあります。
そのようにプロセスを重要視するファシリテーションだからこそ、タイムマネジメントは常に気を配るべき重要なポイントの一つです。協同的な活動こそワークショップの醍醐味であるにも関わらず、最初のイントロダクションやアイスブレイクで時間を使いすぎ、肝心のメインワークで充分な時間が取れずに不完全燃焼で終わってしまったのでは、元も子もありません。
とはいえ、ワークショップのタイムマネジメントは言うほど簡単ではありません。なぜなら、先ほども述べた通り、ワークショップは他者とのコミュニケーションを通じて行なわれるものであり、ある種の偶然性や即興性の中で学びを生み出していく活動であるからです。例えば、プログラムを設計するにあたって、ワークの時間設定がどれほどならば適切なのか頭を悩ませたり、ファシリテーションを行なう際にも、グループ内のディスカッションが盛り上がっている中で、ファシリテーターとしては次のワークに進みたいけれども、この豊かな時間に水を差したくない…と葛藤したりといった経験に覚えのある方も多いのではないでしょうか。
また、ワークショップでは、当日の状況や参加者の様子から、その場でプログラムや振る舞い方を変化させることも珍しくありません。そうした中でもプロフェッショナルとして時間内に納め、充分な成果を引き出すためには、一定の経験に基づく確かな時間感覚が必要とされます。しかしながら、こうしたスキルは一朝一夕で身につくものではありません。
そこで、ワークショップを実践し始めた人には、「事前にタイムマネジメントをしやすいプログラムをデザインしておく」や「道具を有効に使う」など、テクニックの面でカバーすることをまず学んでおくことも大切だと考えています。今回の記事では、そうしたワークショップのタイムマネジメントに役立つヒントを5つお届けします。
■今回紹介する5つのヒント
「ワークの時間は短めに設定し、バッファで調整する」
「自己紹介のタイムキープを参加者に任せる」
「プログラムは途中で修正されることを念頭に置きデザインする」
「収束を促したいタイミングでワークシートを配る」
「後半に時間的余裕を持たせて設計する」
「ワークの時間は短めに設定し、バッファで調整する」
【状況】
ワークショップのタイムテーブルを設計する際に、それぞれのワークにどれくらいの時間を配分するかは、熟練者であっても頭を悩ませるポイントの一つです。特に問いや課題が複雑な場合は、参加者の事前知識やグループの相性によってもかかる時間が変わってくるため、30分程度でも済むのか、60分ないと足りないのか、あるいはそれ以上なのか、正確な時間の見積もりは困難です。
【行動】
それぞれのワークにかける適切な時間は、実際には当日の様子をみなければ判断することはできません。そこで、基本的には「やや短め」で時間を設定しておくとよいでしょう。人は与えられた締め切りに従って活動のペースを決めるため、ゆとりを設けすぎるよりかは、「少し足りない」くらいの設定にしておいたほうが、生産的なワークが期待できます。ただし、あまり忙しない進行になってしまっては学習と創発を阻害してしまうため、短ければ短いほどよいというわけではありません。各ワークを短めに設定する代わりに、プログラム全体のバッファ(予備時間)を後ろに残しておくとよいでしょう。参加者のワークの様子を観察しながら、時間が足りないと判断した場合には「5分延長します」などとアナウンスして、バッファを活用しながら調整すると、時間切れを起こしてしまうリスクを減らすことが可能となります。
「自己紹介のタイムキープを参加者に任せる」
【状況】
ワークショップの自己紹介はタイムキープが難しく、たとえば「1人1分程度でお願いします」と目安を決めていたとしても、饒舌な参加者はそれを守ってくれるとは限りません。問題意識や興味関心が強い参加者ほど自己紹介が雄弁になり、グループ全体の持ち時間がたった1人の自己紹介で終わってしまう、なんていうことも珍しいケースではありません。この段階で時間管理に対する認識を希薄にしてしまうと、その後のワークでもドミノ式に時間が延びていき、終了時刻にも影響が生じます。
【行動】
自己紹介のタイムキープは厳密に行いたいことを参加者に伝え、タイムキープと自己紹介の進行そのものを参加者に委ねるとよいでしょう。全体で輪になって行う自己紹介であれば、たとえば「1人30秒厳守」と制限時間を決めて、隣の参加者にきちんと時間を計ってもらいます。もし制限時間が過ぎれば、しゃべりすぎであることを肩を叩いて知らせ、自己紹介はそこで終了とします。もちろん、規律的な厳しい雰囲気ではなく、時間切れが笑いにつながるような和やかな雰囲気で進行することが重要です。グループメンバー同士の自己紹介であれば、グループ内にタイムキーパーを設定し、責任を持って進行をしてもらうように指示をするとよいでしょう。一例として、自己紹介の前にまずグループメンバーの顔を見合わせてもらい、「最も時間管理がしっかりしていそうな顔の人」を、選出してもらう方法が有効です。多くの場合、「初対面の人を相手に、見た目で人を選ぶ」という行為は、照れくささや面白さを誘発し、自然と笑いが起こります。和やかな空気を作りながらも、選ばれたタイムキーパーが責任を持って時間を管理してくれるようになるため、アイスブレイクの方法の効果も期待できます。
「プログラムは途中で修正されることを念頭に置きデザインする」
【状況】
ワークショップを実践するファシリテーターは、基本的に当日のコンテンツやタイムラインを事前に組んだ上で場に臨みます。しかし実際当日の場を迎えると、参加者の知識レベルや求めているもの、議論の様子、各ワークの進捗状況などによって、予定していたプログラムが適切ではないことが判明する場合があります。その際、事前に用意していたプログラムに固執し、無理矢理に実行してしまうと、意図していた目的の達成から大きくズレた結果を招いてしまう危険性があります。
【行動】
ファシリテーターの基本姿勢として、プログラムは事前にある程度デザインしておくが、参加者や当日の議論によってコンテンツやタイムラインを柔軟に変更できるように、あえて余白を持たせた設計を心掛けることが重要です。特に事前設計段階でファシリテーターが不安に感じている部分に関しては、複数の当日シナリオを用意しておき、その場の反応によって対応を変えられるよう準備しておく必要があります。
「収束を促したいタイミングでワークシートを配る」
【状況】
新しいアイデアや深い思考を生成するために、多くのファシリテーターはまず、付箋紙を用いてアイデアをブレストさせたのち、グループで一つのワークシートに落とし込ませるなど、発散と収束の活動を段階的に組み合わせたプロセスを設計します。その際、発散の時間と収束の時間をはっきり区切ってしまうと、順番にこなしていく感覚からワークが作業的に感じられやすくなります。しかし、だからといって収束のタイミングを完全に参加者に任せても、発散のディスカッションが白熱し、参加者がタイムキープを忘れて夢中になってしまった際に、「盛り上がっている参加者のテンションに水を差すような過度な介入は避けたいが、残り時間を考えるとそろそろ収束に向かう指示を出したい」といったジレンマが発生する場合があります。
【行動】
参加者の話し合いのモードが、発散から収束へとできる限り自然に移行していくための工夫として、場全体でアナウンスする、グループごとに口頭で諭す、といった直接的なアプローチのほか、配布物を用いたアプローチも有効です。例えば、発散したアイデアをまとめるワークシートを最初から机上に置いておくのではなく、収束を始めてほしいタイミングで配布することで、参加者の意識が自然と収束へと向いたり、ファシリテーターの収束を促す指示が通りやすくなります。グループワークの開始時に口頭で収束に向かうべき時間の目安を伝えたのち、時間になったらワークシートを配布するといった合わせ技も効果的です。
「後半に時間的余裕を持たせて設計する」
【状況】
参加者の主体的な活動を中心とするワークショップの特徴の一つとして、講師による裁量が大きい講義や研修に比べて、時間のコントロールが難しい点が挙げられます。また、ファシリテーターの心理として、できる限り多くの経験や学びを参加者に持ち帰ってもらおうとしすぎるあまり、ワークを詰め込もうとしてしまいがちです。その結果、余裕のない進行により逆に学びの深まらない実践になってしまったり、終了予定時間を超過してしまったりするケースがよく見られます。
【行動】
ファシリテーターの基本的な役割は参加者の学びや創発を促すことにあり、そのためには参加者の状況に応じてワークや発表の時間を延ばすなどの柔軟な対応も時には必要です。しかしながら、終了時間を過ぎても良いというわけではなく、あくまで予定された時間の中で最大の成果を出すことがファシリテーターには求められます。当日のファシリテーション中、時間に気を配ることも当然重要ですが、事前のプログラムデザインの工夫によって予想外の時間の延長にも対応しやすくすることができます。その一例として、ワークショップの前半はある程度しっかりとしたワーク構成で進め、後半からは徐々にゆとりのある設計にする意識を持つと良いでしょう。後半の空いた時間を即興的に有効活用しながら、決められた時間の中で無理せず無駄のない参加者の学びを促していくことが大切です。
ぜひ次回のファシリテーションで試してみてください。