一人では解けない問題に立ち向かうための「協働のデザイン」入門:連載「コ・デザインをめぐる問いかけ」第1回

上平 崇仁

2020.08.14/ 7min read

ライター:上平 崇仁
専修⼤学ネットワーク情報学部教授。グラフィックデザイナーを経て、2000年から情報デザインの教育・研究に従事。近年は社会性への視点を強め、デザイナーだけでは⼿に負えない複雑な問題や厄介な問題に対して、⼈々の相互作⽤を活かして⽴ち向かっていくためのCoDesign(協働のデザイン)の仕組みや理論について探求している。15-16年にはコペンハーゲンIT⼤学客員研究員として、北欧の参加型デザインの調査研究に従事。秋頃にCoDesignに関する書籍(単著/NTT 出版)を上梓予定。

限られた専門家だけでなく、実際の利用者や利害に関わる人々が積極的に加わりながらデザインを進めていく「コ・デザイン(Co-Design)」という考え方があります。日本語では「参加型デザイン」と訳されるこの考え方は、厄介な問題(Wicked Problem)に立ち向かわなければならない時代に、新しい視座を与えてくれるでしょう。『いっしょにデザインする コ・デザイン(協働のデザイン)における原理と実践(仮)』を今秋に出版予定の上平︎崇仁さん(専修大学ネットワーク情報学部教授)による新連載「コ・デザインをめぐる問いかけ」が始まります。

目次
いまの延長線上で「未来」を描けない時代のデザイン
『烏合の衆』と『三人寄れば文殊の知恵』
いざ、コ・デザインをめぐる旅へ!


「手作りのアップルジュース、試飲できます」

そんなキャッチコピーに釣られ、ある夜、私は家族と共にそのイベントのブースの前まで行ってみました。眩しい灯りの下で、列になった人達が賑やかに作業しているのが見えます。みんなで手分けして包丁を手に取り、カゴの中のりんごのヘタや汚れ部分を取り除いています。次の人達は、それを適当な大きさに切り刻んでいます。どうやら作業しながらも、少しずつ列が進んでいるようです。列の先頭にはビア樽ぐらいの大きな絞り器があり、数人がかりでそのレバーを一生懸命廻しています。そうして絞り出されてきたジュースを紙コップで受け取った人は、列から離脱しています。一連の流れを眺めてみると、要するに、このブースでは完成物をふるまうのではなく、つくるための材料や道具を人々に提供し、列に並んだ参加者たちが自力でつくることを「手作り」と称しているのでした。

ずいぶん投げやりな出し物ですが、全部の過程を見せることで、どのくらいのりんごからどのくらいの量の果汁と絞りかすが生み出されるのかが、一目瞭然になっています。それに加えて見ず知らずの人達が、ジュースをつくるために和気あいあいと協力しあっているのがとても印象的で、ここにはプロセスを共に経験することでコミュニケーションを生み出すデザインが施されているのだ、と気づかされました。

実はこれは日本ではなく、コペンハーゲンで行われたカルチャーナイトというイベントにおいて、デンマーク環境庁が出展していたものです。そしてよく考えてみれば、このアップルジュース生産装置は極めてこの国らしい仕組みに基づいていることがわかります。貢献すればだれもが等しく扱われる〈平等性〉。ものごとが進んでいく因果関係を見えるようにする〈透明性〉。見ず知らずの人でも協力し合う〈信頼性〉。それらを、遊び心を持って仕組み化し、いっしょに取り組めるようにする〈協働性〉。

この国の人々が大事にしているそんな約束事を経験的に学べる場がごく普通にあり、街の中に埋め込まれているのです。行列が和やかな雰囲気で進んでいくのを眺めながら、社会の中に溶け込んだデザインが人々の行動をかたちづくり、同時にそれこそが人々の社会性を育くむものであることを垣間見た気がしました。

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