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人と組織の創造性を高めるファシリテーター、マネージャーにとって「問いのデザイン」のスキルは必要不可欠です。新連載「問いのデザインの思考法」では、日々の業務において良い問いを立てるための手がかりや、問いのデザイン力を総合的に鍛えるためのトレーニングの方法について解説していきます。

第1回目となる本記事では、問いのデザインのスキルを支える最も基礎的な考え方である「異化」という思考法を紹介します。

目次
教室は、まるで標本のようである!?
異化とは何か
なぜ異化が重要か
異化のトレーニング方法


教室は、まるで標本のようである!?

小説などを読んでいる際、本来であれば何気ない日常の状況が、独特の言い回しで大袈裟に表現されていて、印象に残ったという経験はないでしょうか。

たとえば、よくある「学校の教室」の、何気ない「授業」の風景を思い浮かべてみてください。

教師が前に立ち、黒板に板書をしながら、講義をしています。それを、生徒たちは熱心に聴き、黒板に書かれた情報をノートに書き留めている。

こんな様子が目に浮かびます。この「何気ない日常」について、以下のように表現すると、どうでしょうか。

生徒たちは、ピンでとめられた蝶のように、机に固定され、無用の羽、つまりは、学習した味気のない無意味な知識を拡げている。

この言葉は、かつてマリア・モンテッソーリが伝統的な学校教育を批判したときの言葉です。当たり前だと思っていた「授業」の風景が、わざわざ「蝶の標本」に喩えて大袈裟に表現されたことで、「当たり前なもの」として見逃してはいけない、特別なものに見えてこないでしょうか。このような表現手法のことを「異化」といいます。

異化とは何か

異化とは、日常生活において慣れ親しんだ「当然」であることについて、あえて非日常的な「奇異」なものとして再認識し、表現することです。簡単にいえば、当たり前だと思っていたことを、当たり前でなくすることです。言語学者であり、作家であるヴィクトル・シクロフスキーが提唱しました。

日常的言語と詩的言語を区別し、自動化状態にある事物を「再認」するのではなく、「直視」することで「生の感覚」をとりもどす芸術の一手法。つまり、しばしば例に引かれるように「石ころを石ころらしくする」ためである。いわば思考の節約を旨とする、理解のしやすさ、平易さが前提となった日常的言語とは異なり、芸術に求められる詩的言語は、その知覚を困難にし、認識の過程を長引かせることを第一義とする。「芸術にあっては知覚のプロセスそのものが目的 」であるからである。(wikipediaより)

元々はレトリックの手法である「異化」は、問いをデザインする力を支える非常に基礎的な筋力になっています。スポーツに喩えるならば体幹の筋肉のようなもので、体幹が弱いまま腕や脚の筋肉を鍛えても良いパフォーマンスができないのと同様に、日常を「異化」する力は、問いのデザインに関連するさまざまなスキルの土台になります。

なぜ異化が重要か

自動運転技術の発展によって事業の存続が危ぶまれたカーアクセサリーメーカーが、「人工知能を活用した未来のカーナビ」を発想する呪縛に囚われてしまっていたケースを思い出してください。この事例では、筆者のヒアリングを通して暗黙の前提が揺さぶられ、向き合っていた問いが「自動運転社会において、どのような移動の時間をデザインしたいか?」という問いに転換することで、プロジェクトにブレイクスルーが生まれました。

問いのデザインの本質とは、問題や社会に対するまなざしの「角度」や「焦点距離」を変えてみることで、現実の見え方を変えたり、発想の枠を取り外したりすることです。

物事を解釈する枠組みを転換することから、これを「リフレーミング」といいますが、枠を変える前には、まず自分がどのような枠に囚われているのか、自動化してしまっている認識をメタ認知する必要があります。

つまりこのケースでは、「自分たちの既存事業を、生き残らせようとしていること」「未来のプロダクトの鍵は、人工知能にあると考えていること」「カーナビとは、運転者が指の操作を通して利用するものだと考えていること」など、クライアントが「当然だ」と思っている状況を「奇異」なものとして捉え直し、相対化したのです。

さまざまな思考や習慣が自動化されているなかで、固定観念から抜け出すためには、まず知覚を「脱・自動化」させることで、固定観念を指摘すること。これが問いのデザインの起点となる「異化」の考え方なのです。

異化のトレーニング方法

しかしながら、自分がいま埋め込まれている暗黙の前提を指摘することは、容易ではありません。意識的に異化をできるようになるためには、まずは「別の可能性」を想定することが重要です。

カーナビが「指で操作するものである」という前提を異化するためには、「もしかすると、脚で操作するカーナビもあってもよいかもしれない」「声で操作する可能性もある」「操作が必要のないカーナビが出てくる可能性もある」といった具合に、「そうでない別の可能性」を想定してみると、「あえて、”指で操作する”ことを前提にしている」ということに気がつくことができます。

異化の対象は、必ずしも自社事業でなくても構いません。自分自身のキャリアや生活サイクル、趣味。あるいは身近な家族や友人のこと。また社会制度やトレンド、自分が住んでいる国の文化や風習でもよいでしょう。

海外旅行をすると「日本のトイレがいかに衛生的で便利か気がついた」「混雑した駅のホームでも整列する日本人のマナーを不思議に思った」など、「普段気がつかなかった自分たちの風習や環境」についてメタ認知させられることがあります。これは、日本に実装されていない「別の可能性」に触れることによって、日本に住んでいる人たちが置かれている環境を「異化」することができたからです。

このように常日頃から自分・他者・社会の”別の可能性”を想像することで、現在のバージョンの暗黙の前提を言語化する癖をつけること。これが、問いのデザインの基礎である「異化」のスキルを磨くためのトレーニング方法です。

日常で出来る問いのデザイン「異化」トレーニング
自分・他者・社会の”別の可能性”を想像することで
現在のバージョンの暗黙の前提を言語化する

異化はもともと芸術表現の領域で発展した方法ですから、思考するときの表現にもこだわるとよいでしょう。たとえば「自分は、あえて、〜しているのだ」「自分は、Aではなく、Bをしているのだ」「自分は、もし〜という前提に立つならば、〜していることになる」「実は〜かもしれない」「もしかすると〜かもしれない」といった構文をうまく使ってみると、日常の異化が捗るかもしれません。

組織に向き合う上で、経営学や組織開発の理論、考え方を理解するのはとても大切なことです。けれども経営学や組織開発の方法論は課題や痛み(ペインフル)に着目するものが多く、楽しさや遊び心など人間の根源的な部分(プレイフル)が軽視されがちではないか? そんな問題意識から、CULTIBASE LabではCULTIBASE編集長の安斎勇樹と立教大学経営学部准教授の舘野泰一が「プレイフル経営ゼミ」(2020年11月より「遊びのデザインゼミ」に改名)を主宰しています。

同ゼミではこれまで「プレイフル」をテーマに、経営・組織づくりに役立つ内容を提供してきました。10月は、これまでのゼミの内容を振り返りながら、プレイフルな「人材採用」「人材育成」「組織開発」「組織設計」の各論についてディスカッションを行いました。本記事では、前半の「人材採用」「人材育成」の議論を一部ご紹介します。

目次
不要不急の探索型人材を採用する
同じ基準で採用し続けない
知の深化ではなく探索に投資する
研修設計において、学習目標と活動目標をひねる


今回のゼミは、前回のゼミの振り返りからスタートしました。『プレイフル・シンキング』の上田信行先生をゲストに迎え、そもそも「プレイフル」とはどういう状態なのかをさまざまな角度から議論。参加者の方からも「神回」と好評でした。

「プレイフル・シンキング」は”真剣勝負”?更新を続ける概念の現在地

変化し続ける「マリアブル」な組織から発明が生まれるープレイフル経営を基盤とした組織論

不要不急の探索型人材を採用する

話題は今回のメインテーマに移ります。まずは「プレイフルな人材採用」に関して。「こうすればプレイフルな人材採用がうまくいく」のではなく、思考実験であることが前提と前置きをした上で、安斎はプレイフルな人材採用とは、シンプルに「プレイフルな人材を採用すること」としました。そしてプレイフルな人材を採用するために「不要不急の探索型人材の採用」と「採用基準を年に2回、必ず変えること」を挙げます。

安斎:採用の一つの考え方に「必要な採用」があります。会社の方針に沿ってこんな人材が必要など、どうしても「必要な人材」ばかりを採用する傾向があるんです。しかし、あえて「不要不急の探索型人材」を採用してみてはどうでしょう。

アーティストを雇ったり、哲学者や社会学系の研究者、文化人を役員として採用してみたり。スキル・経歴的には合わなくても日常を異化するエキスパートを年に一度くらい採用すると面白いのではないでしょうか。組織を揺さぶる方法として、異分子を入れてしまうんです。

舘野:なるほど、いいですね。人材要件の定義に全く当てはまらないとか、一番遠い人を採るとどうなるのか。単純に不適合で辞めてしまう可能性もあるけど、入ってくる人に組織が全力で合わせて、組織がいい意味で振り回されることがあってもいいかもしれない。新しく入社した人の言うことを尊重する部署を作るのもありかもしれませんね。

同じ基準で採用し続けない

安斎:プレイフルな人材採用に関してもう一つ提案したいのは、「採用基準を必ず年に2回変える」こと。同じ基準で採用し続けると、求心力の高い組織を作れるし、人の性質も揃ってきます。でも、あえて年に2回は採用基準を変えるのもありなんじゃないかと。

過去のゼミのスライド。
「プレイフルとは何か?」を5つのキーワードで説明

安斎:今、チャット欄に「異能採用」と打ってくださった方がいますね。以前のゼミで「プレイフルとは何か?」を5つのキーワードで表した際、「心理安全」を挙げました。『心理的安全性のつくりかた』の石井遼介さんが掲げる心理的安全性の4要素の一つに「新奇歓迎」とあるんですよね。異能人材・個性的な人材を歓迎できるかどうかで、心理的安全性は決まる。

「心理的安全」なチームの4つの条件: 学習する職場をつくるための「心理的安全性」入門 | CULTIBASE | 組織イノベーションの知を耕す。

CULTIBASEでは、「イノベーション」「経営・マネジメント」「デザイン」「学習・人材育成」「ファシリテーション」を切り口として、「組織のポテンシャル」を引き出し、クリエイティビティ溢れる組織づくりやイノベーティブな事業の創出に役立つ様々な考え方やノウハウを紹介していきます。

安斎:チャットで「そこにいるだけでいいからと労働契約を更新していたときはプレイフルに働いていた気がします」という意見もいただきました。ちなみに、弊社の話をすると、金銭的には2年前より今の方が余裕があるんですよ。でも初期の方が不要不急人材を積極的に採用していたんです。

「今その業務必要? でも面白いからやってみようぜ」って、ベンチャーの初期はやりやすいんですよね。お金があろうがなかろうが、「いてくれるだけでいいから一緒にやろう」という感覚です。

舘野:時間と金の余裕があったとしても、組織が成熟すると不要不急の人材が採りにくくなる

安斎:そうですね。満場一致採用になりやすいですし。プレイフル採用は他にもいろいろとやり方がありそうですよね。最終面接で賛否が割れた人材をあえて採るとか。

舘野:みんなが良いと思う人を採るべきなのか。意見が割れた人材のほうが良いのか、全員が割れたとしても採用担当者が絶対欲しいから採用するなど、細かいところで見るとすごく重要な分かれ道ですよね。

知の深化ではなく探索に投資する

安斎:プレイフルな人材育成に関しては、まずシンプルに「知の深化ではなく探索に投資すること」を挙げました。

「両利きの経営」でいうところの「深化」と「探索」では、深化は低次学習を指します。つまり目の前のことを上手にやっていくための学習です。既存業務の改善をするような着実な学習だけではなく、枠から外に出ていく探索的な学習にどれだけ投資できているかが重要です。

「両利きの経営(ambidexterity)」を推進する3つのアプローチ | CULTIBASE | 組織イノベーションの知を耕す。

CULTIBASEでは、「イノベーション」「経営・マネジメント」「デザイン」「学習・人材育成」「ファシリテーション」を切り口として、「組織のポテンシャル」を引き出し、クリエイティビティ溢れる組織づくりやイノベーティブな事業の創出に役立つ様々な考え方やノウハウを紹介していきます。

安斎:CULTIBASEでは、どう学んでいったらいいのかを説明する際に4象限に分けて解説しています。まず、学習には現場の困りごとを解決する「実用的関心」と、一見役に立たないけれど実践をより深くしてくれる抽象的・価値探究的な「概念的関心」があります。

そして、今必要だから学ぶ「深化」寄りの「計画的学習」と、思いもよらない知識と出会う「創発的学習」があります。研修設計やビジネス書などお金を払ってちゃんと学ぼうとした際、左下の象限に閉じやすいんですよね。

あえて右上の、役に立つかよくわからない理論的学習に投資することが、組織の長期的な視野を広げることに繋がるのではないでしょうか。プレイフルかどうかはわからないけど、僕の中ではプレイフル経営に位置付けられます。

舘野:採用にしても人材育成にしても、余裕がないと厳しいのではと素朴に思ってしまいますね。

安斎:個人の趣味もそうですよね。余裕がないと遊びから真っ先にカットされてしまう。

舘野:でも、トータルで考えるとデメリットがありますよね。実用的な時間を重視して遊びの時間をカットしてしまうと、余白の時間がなくなり、最終的には仕事にも悪影響を及ぼしかねないんです。

安斎:僕は自分の中でガイドラインを作っています。ウィークリーレベル、デイリーレベルではしかたないにしても、忙しい時期が2週間以上続いてマンスリーレベルになったら、緊急で何かを改善して余白を作るようにしています。

舘野:それは組織のルールにもしやすいですよね。余白アラートがあるというのは興味深い。そのアラートをどこに設定しておくかでしょうね。

研修設計において、学習目標と活動目標をひねる

安斎:続いて人材育成に話題を変えていきましょう。ワークショップデザインにおける本質の一つだと思うのですが、学んで欲しい学習目標をそのまま設定して学んでもらうのは、遊びを大事にするワークショップデザインとは言えません。

結果として学びたくなってしまう。あるいは学ばざるをえないような面白い活動になるよう、ひねった学習目標と活動目標を埋め込むことが、ワークショップデザインの肝なんですよね。

ワークショップをデザインするとはどういうことか

舘野:これに尽きますね。例えば、「リーダーシップ」をテーマとしたワークショップでは、自己認識を高めるために周りの人に自分自身についてヒアリングし、ワークシートに記入。その上で自分自身を振り返るといった方法論がよくあります。理論的には確かに正しいけど、うまく機能しないことが多い。リーダーシップを体現するまでには至らないわけです。ワークショップをデザインするなら、真の意味で、設定した目標を実現するまで導かなければならないはずなんです。

安斎:まさにそうですね。「これは大切なことだから」「やるべきものだから」と説得して、みんながイヤイヤ学ぶような学習に、果たして意味はあるのだろうか、と。哲学者のジョン・デューイが、「人間の学習は経験を通して生じる。そして経験の起点は衝動である」と100年前に言っています。衝動に蓋をする人材育成というのは、デューイからすれば真の意味で学習とは言えません。

CULTIBASE Labでは「プレイフル経営ゼミ(遊びのデザインゼミ)」のようなイベントに加え、毎週配信される動画コンテンツやメルマガ、また会員専用のオンライングループでの交流を通じて、ワークショップデザインや周辺領域に対する学びを日々深めています。興味のある方は、まずは下記リンクより詳細をご確認ください。

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UXの重要性は周知の通りで、その有用性は経営にまで広がってきています。どんなコンテンツ、プロダクト、サービス(WHAT)を作るのかだけに視点を狭めず、企業が描くビジョンと社会の関係性を考えた上で全体のプロジェクトをマネジメントしていくことが重要です。しかし、実際の現場では、「UIをこうすればコンバージョンが上がる」といった視点に閉じてしまい、WHYが曖昧なままWHATの設計がなされていることも少なくありません。

「意味のイノベーション 」や「デザイン思考」といったデザインプロセスの研究と、数々の事業開発プロジェクトを手掛ける小田裕和と、Yahoo! JAPANでUXデザインやサービスデザインを10年以上経験し、ミミクリデザインでExperience Designerとして活躍する瀧知惠美がCULTIBASE Labで主催する「デザインゼミ」では、毎回テーマを決めてデザインに関わる幅広い知見を扱います。10月のテーマは、「UXデザインの基礎と全体像」と題し、UXデザインの定義を改めてなぞった上で、小田と瀧が「UXデザインの全体観」を各々に一枚絵で表現し、全体像と本質を理解するための議論を行いました。

目次
ペルソナを丁寧に構造化した上で、「経験のジャーニー」を設計する
「前提のペルソナ」と「未来のペルソナ」を描く
「変化を生み出す経験」を構造化する
HOWまで含めたUXデザインのフレームワークを提唱
前提となるUX5階層モデル。UXからUIへの接続がうまくいかないと失敗する
一人称視点でユーザーを深く理解することが重要
HOWまで含め、UXデザインのフレームワークを考える
UXデザインの実践のポイント:ペルソナの「合意」の重要性


ペルソナを丁寧に構造化し、「経験のジャーニー」を設計する

小田が示したUXデザインの全体像はVISION / WHYのレイヤーとWHAT(経験)のレイヤーの2つに大きく分けられます。

「前提のペルソナ」と「未来のペルソナ」を描く

小田裕和が描いたUXデザインの全体像

まずVISION / WHYのレイヤーについて。小田は「このレイヤーからUXを考え、整理していくことが大事」と強調しました。

小田「ターゲットやペルソナを形にしていくためには、ユーザーモデリングの三階層などをベースにエスノグラフィなどのユーザーリサーチを行っていく必要があります。これらを用いて、実際にどんな人たちがどんな状況に置かれているのかを分析し、前提となるペルソナを作った上で、彼らがどう変化し、何が生まれていくのか未来のペルソナのストーリーまで描くことが大事です」

参照:UXデザインの理論・プロセス・手法の体系とポイント
スライドの23枚目で「ユーザーモデリングの三階層」について解説

「ユーザーモデリングの三階層」は、属性層、行為層、価値層から構成されます。一番下の「属性層」はユーザーの属性的側面、「行動層」では実際にユーザーが行う行動的側面、一番上の「価値層」は行為に対するユーザーの価値観を表します。このモデリングで、誰が、どんな体験をして、どういう価値を得ているかを可視化します。

「変化を生み出す経験」を構造化する

小田「WHATの一連のプロセスでは『変化を生み出す経験』を整理していきます。これは、『こんな経験を踏んでもらいたい』という枠組みです。『WHY(経験のジャーニー)』は実際にプロダクトやサービスを作る上での前提になります」

瀧「『経験』が一番重要な部分というのが、この図において理解できます。そのなかで『経験の粒度』とは、具体的にどういう意味なのでしょうか?」

小田「粒度とは、経験の切り取り方です。1年スパンで描くこともできますし、10年スパンで描くこともできます。ディスカッションする際に粒度がズレていることもあるので、ここを整えておく必要があります。」

小田「『経験のジャーニー』のなかには『期待するもの』、実際に『体験するもの』、その上で『蓄積されるもの』が構造としてあります。なお、明確な定義があるわけではありませんが、『経験』の方が『体験』よりも大きい枠組みなので、あえて言葉を分けました。

ここでは、期待と満足の関係がとても重要です。人間は期待したことに対して、実際にどれくらいの満足を得られたかで、蓄積されるものが決まります。そのため、期待値を調整したり、体験をリフレクションして言語化する機会の設計を行うことが大切です。」

小田「次に、一連の経験の中でのUXをそれぞれのフェーズごとに切り分けたUXタイムスパンや、それをベースに作られるカスタマージャーニーマップの中では、実際に何が起きているのかを考えていきます。

ブランドイメージやブランド資産(ブランドエクイティ)、一連のプロセスをさらえるような情報設計(インフォメーションアーキテクチャー)、ユーザビリティの設計、実際に駆動するためのマイクロインタラクションの設計も重要で、これらを形に落とし込んだ『具体的な手段としてのプロダクトやサービスの中身(CONTENT)』の設計が行われていきます。

これらの要素全てを統合的に捉えるのがUXであり、ステップバイステップで考えるのではなく、全体感を掴んでデザインのプロセスを形作る必要があります。ただこのようにいくつかの目的に分かれた要素をそれぞれ可視化し、互いの関係性を理解していないと、UXが何を指しているのかは理解しにくいのではないかと思い、分けて整理してみたものだと理解してもらえればと思います。」

プロジェクトの進め方も視野にいれたUXデザイン

小田の学術的な観点を踏まえたUXデザインの全体像を受けて、瀧が実務の観点も踏まえて、UXデザインの全体像をまとめた内容をシェアしました。

瀧「UX5階層モデルを前提に、改めてUXデザインの全体像をまとめてみました。下記の図は、主にWebサイトのデザインにおけるUXデザインの要素をマッピングしたUX5階層モデルと言われるものです。実務的には『戦略』から『要件』に繋ぐ部分がややブラックボックスになっていて難しさがあります。これはUXからUIへの落とし込みとも言えるのですが、ここがうまくつながらないと失敗しやすいと感じています」

瀧「UXの全体像に関しては、小田さんがシェアした内容とも共通することが多いですね。まず、左上の『ユーザー』。一人称視点でユーザーを深く理解することが必要になってきます。対して、右側の『市場(社会)』ではプロダクトやサービスを提供する市場や社会を三人称視点で客観的に理解する必要があります」

瀧「ユーザー視点とビジネス視点の行き来の必要性を前提に、VISIONを描いていきます。ユーザーにとっての理想と、ビジネス面での理想、それぞれの世界観を考えつつ、一つのVISIONに落とすのが重要と捉えています。

そして、具体的にどんな製品やサービスを作っていくのかにあたるのがWHATです。製品やサービスを形作るための『活動』はWHATまでの部分で、さらにプロジェクトの進め方としてHOWがあると捉えています。

HOWはさらに、HOW for WHATHOW for PROJECTの二つに分類できます。HOW for WHATは、技術や人材、チーム構成といった製品やサービスを実現するための手段として必要なものごとです。HOW for WHATまでの黒枠がUXデザインのプロジェクト全体像で、プロジェクトを推進するためのHOWとして必要なものごとがHOW for PROJECT。これはいわゆるプロダクトマネジメントやプロジェクトマネジメントの要素が含まれます」

小田「HOW for PROJECTを書いたことには、瀧さんの中でどういう背景があるんですか?」

瀧「既存のUXのフレームワークで語られているのはWHATまでが多く、HOWも含めてフレームワークとして体系化されているものは、あまり見かけません。それはもちろん、この図でいうWHYとWHATの部分がUXデザインの本質ですし、HOWは体系化がすごく難しい部分でもあるのですが、実際にプロジェクトとしてUXデザインを進めていくときには必ず考慮しなければいけません

なぜなら、UXデザインは一方通行の線形プロセスではないからです。図でVISION(WHY)とWHATを行き来する矢印を入れているように、目指したい理想の世界観としてのVISIONと、「どんな製品やサービスを提供していくか」にあたる中身としてのWHATを行き来することで、それぞれの解像度が上がっていきます。この行き来しながら徐々に解像度を上げていくプロセスを前提として、HOW for PROJECTを捉えることが、UXデザインを推進する上で大事なポイントになります。

小田「UXデザインというと、『どういう体験をするか』『UIをこういうふうにすればコンバージョンが上がります』と、WHATのなかだけで考えて話を進めてしまうことも少なくありません。ユーザーと社会、ビジョンとの関係性を描いた上で、UXを設計することがすごく大事であり、さらに全体のプロジェクトに問題がないか外側から客観的に見て、きちんとマネジメントしていくことが重要です。でも、意外と目が向けられていない。本質的な部分を疎かにして、曖昧なままWHATの設計ばかりしていることも多いのではないでしょうか」

瀧「そうですよね、実際にはWHATの部分があらかじめ決まって始まるプロジェクトが多かったりするので、そうなりがちなのかもしれません。一度WHYに立ち返ってWHATを考え直していくWHYとWHATを行き来することが大事だと思いますね」

チームでペルソナの「合意」をする重要性

ここまで、小田・瀧が考えるUXデザインの全体像について見てきました。共通している部分が多かったですが、小田の一枚絵ではビジョンの中身と経験のジャーニーが詳細に描かれ、実務目線で見たときに瀧の一枚絵ではhowの捉え方を二段階にしてプロジェクト全体を俯瞰するなどの違いがありました。

これらを踏まえた上で、最後に「UXデザインを実践していく上でのポイント」について議論しました。

小田「瀧さんが言う『一人称視点でのユーザー理解』は、非常に重要です。ユーザーリサーチをすると、この人はこう思っているだろうとか、こういうふうに考えるだろうと客観的に分析・解釈しがちですが、本質は『その人の眼差し』を獲得することです」

この点に関しては、参加者の方から「ペルソナを作った時に、1人に焦点を当てて良いのか戸惑いました」との声が上がりました。

瀧「実際にペルソナを作る時は、複数のユーザーの話を聞いてそこから共通点をまとめ、1人の人物像としてまとめていきますが、おっしゃる通り『ペルソナは1人でいいのか』と、最初は戸惑うかもしれません。

しかし、1人の視点に立たないと見えない部分があります。細かいユーザーの考え方や価値観を想像し、チームで1人の人物に対して向き合わないと目線合わせがしづらいのではないでしょうか。チームの中で描いているユーザー像が異なってしまうと、何を目指して何を作っているのか合わせにくくなります」

小田「それは大きなポイントかもしれないですね。100人の眼差しを獲得するのは無理なので、1人に焦点を当ててやっていく。じゃあ、その1人の絞り込みはどうすればいいのでしょう。迷う人も多いのではないでしょうか」

瀧「基本的にはユーザーリサーチの段階で、ターゲットの方向性は絞られていないといけません。何の想定もなくペルソナを作るのは難易度が高い。実際は狙う市場にどんなユーザーいて、どんな課題持っているかなど、ある程度仮説を立てた上でペルソナを作っていきます。

そこからの絞り方は、リサーチ結果から共通点をまとめたり、こういう人に向けてサービス提供したいなど、作り手の意思もある程度含めていきます」

小田「ロジカルに整理した上で、チームの中でペルソナの合意ができるかどうかが大事ってことですよね。

ペルソナ作りのワークショップでは、ターゲットのレイヤーは事前にある程度揃っています。そこから先は、対話的なプロセスがとても大事です。ターゲットユーザーはロジカルに作るけど、ペルソナは対話的に作って合意を形成していく。UXデザインの最初の部分ではすごく大事なことです」

瀧「最近、ペルソナは本当に必要なのか?という議論もありますが、改めて認識をすり合わせて、整理するのは大事ですよね」

小田「ペルソナが必要ないという人たちは、企業内での対話がきちんとできているところところだったりします。ペルソナを対話のハブに出来ているかもUXデザインをしていく上ではポイントになっていくのではないでしょうか」


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■参照URL
UXデザイン概論 2019
ユーザーの本質的ニーズに辿り着くために必要な3つの視点とは?
HCDのプロセスと手法