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本連載「組織開発の理論と効果」は、現場で組織開発が効果的に取り入れられるために、組織開発の理論やその効果について紹介します。これまでは、学術文献にもあたりながら組織開発の定義や概要を示した上で、診断型組織開発や対話型組織開発といった非日常のアプローチと、日々のルーティンの中で行われる日常のアプローチを紹介してきました。

今回の記事では、組織開発によってもたらされる成果を整理し、前回および前々回紹介したアプローチを含めて、筆者なりの「組織開発のアプローチ」を1枚絵にまとめて紹介します。

目次
組織開発のアプローチと成果別整理
(1)日常的なアプローチで低次学習を起こす
(2)非日常的なアプローチで高次学習を起こす
(3)日常と非日常的のアプローチで高次学習を起こす
(4)日常と非日常的のアプローチで低次学習を起こす

組織開発のアプローチと成果別整理

組織開発によってもたらされる成果は、「メンバー間でのコミュニケーションがスムーズになった」「お互いに思っていることを伝えられるようになった」「チームで追いかける目標がクリアになった」など様々です。これらは「行動の変化」「価値前提の変化」に分けることができます。前者は「低次学習」、後者は「高次学習」とも言い換えることが可能です。

もう少し具体的に言うと、低次学習とは、既存の価値観や規範のもとで、「部分的・短期的な行動を修正すること」を指します(安藤, 2019)。高い生産性や効率を上げるために行われる「改善活動」のことで、短期的には確実な成果をもたらしますが、その効果は必ずしも長期に及ぶわけではありません。

他方、高次学習とは、「価値観・規範・参照枠組みの変革を通じて新たな理解を構築すること」を指します(安藤, 2019)。短期的な成果は明確ではありませんが、中長期的には組織全体への大きなインパクトをもたらします。

ちなみに、「低次学習」「高次学習」と書くと、「高次学習を起こさねばならない」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。たしかに、組織を根本的に変えようとする場合、その組織がどういう価値前提を持っているのかを認識し、時に価値前提から変えていく、つまり高次学習を起こす必要性があります。しかし、高次学習は頻繁に起こせるものではありません。頻繁に起こしすぎると、むしろ組織が疲弊してしまう可能性もあります。本連載の第2回目でも紹介したように、組織開発の目的である「健全で効果的で、自己革新力のある組織」を目指す上では、低次学習と高次学習を適切に起こしていく必要があります。

いずれにしても、こうした2つの成果を日常/非日常のアプローチと組み合わせると、以下の図のように整理可能です。本記事では、このモデルをもとに、組織開発のアプローチと成果別の整理を行っていきます。

(1)日常的なアプローチで低次学習を起こす

組織開発のアプローチと成果は4パターンに整理することができます。まず1つ目は、通常のルーティンの中で行動の改善を図るものです。日常的にお互いの考えていることを共有することで、チームに健全な人間関係が育まれ、結果的に、ミクロな行動改善が促されます。

組織へのインパクトは少ないかもしれませんが、日常的にこのサイクルを着実にまわしていくことで、健全な組織づくりにつながっていくと考えています。

(2)非日常的なアプローチで高次学習を起こす

2つ目もよく取り入れられるパターンで、非日常なアプローチによって価値前提の問い直しを図ろうとするものです。いわゆる「診断型組織開発」や「対話型組織開発」と呼ばれるような方法で、通常のルーティン外でサーベイや対話の場を設け、組織の価値前提の見直しを図っていきます。

(3)日常と非日常的のアプローチで高次学習を起こす

3つ目のアプローチは、2つ目のアプローチの応用系で、日常と非日常のアプローチを用いて価値前提の見直しを図っていくことを目指します。

2つ目のアプローチでも、組織に揺さぶりをかけていくという点では有効ですが、効果が一時的であったり、なかなか組織の根本改善につながらないといったケースもあります。また、非日常で取り組めるアプローチには限界があるため、日常的なアプローチと組み合わせることが有効です。

(4)日常と非日常的のアプローチで低次学習を起こす

(1)~(3)では、日常的に行動変化を促す方法や、非日常のアプローチを使って組織の価値前提を捉え直す方法を紹介してきました。

しかし、チームや職場の人間関係が硬直化していたり、構造的に行動改善を図ることも困難であったりと、「そもそも日常的に行動変化を促すことも厳しい」という場合も、もちろんあると思います。そうした場合には、日常と非日常のアプローチ両方を駆使して、まずは行動の改善から促していくことも必要だと思います。これが4つ目のアプローチです。

筆者自身、中長期的には「行動」レベルの変化は日常的に促すことが望ましいと考えています。そのため、このパターンでは「非日常」に頼りすぎないこともポイントです。「非日常」と「日常」を組み合わせることで、日常的に行動改善が生まれるチームや組織へとシフトしていくきっかけになります。


以上、組織開発のアプローチと成果を4パターンで整理し紹介してきました。みなさんの職場やチームでは、どのような方法を取られていますか?

「日常的な取り組みを行っているけれども行き詰まりを感じている」という方は非日常のアプローチを取り入れてみたり、「非日常のアプローチは行っているけれども活動内容が日常に定着しない」という方は日常のアプローチを組み合わせてみたりと、ぜひご自身の所属するチームにあったやり方で取り入れていただけたらと思います。

また、組織開発についてもう少し踏み込んで体系的に学びたいという方はぜひ以下の動画をご覧ください。「なぜ組織開発が必要なのか?」といった背景から、組織開発の定義、非日常と日常の2つのアプローチ方法を紹介し、実際に企業における組織開発の事例を非日常と日常のアプローチで読み解いています。

組織開発概論:関係性を耕す“ハレ“と”ケ“のアプローチ

参考文献
安藤史江(2019)『コアテキスト 組織学習』

こんにちは、舘野泰一です。私は立教大学経営学部の准教授として、若年層を対象にしたリーダーシップ教育に関する研究・実践をしています。

本連載では「リーダーシップ教育の最前線」として、リーダーシップ教育の背景となる理論や、実践の手法について紹介します。

第1回では、リーダーシップ教育の前提となる「新しいリーダーシップの考え方」について、考え方のポイントをお伝えしました。第2回目の記事では、リーダーシップ教育の実践について概観していきたいと思います。

目次
全員がリーダーシップを発揮できるとしたら、教育はだれに、いつ実施する?
早期にリーダーシップを学ぶのはなぜ重要か?
新しい分野であるリーダーシップ教育の研究と実践
リーダーシップ教育における「自己理解」の重要性
「リーダーシップのふるまい」に焦点を当てたフィードバックの重要性

全員がリーダーシップを発揮できるとしたら、教育はだれに、いつ実施する?

最初に前回の連載で書いた「新しいリーダーシップの考え方」に関する3つのポイントを簡単に復習しておきましょう。

1.リーダーシップは全員が発揮する(できる)ものである
2.リーダーシップは陰から支える行動も当てはまる
3.リーダーシップは学習可能である

リーダーシップは必ずしも「リーダーだけ」が発揮するものではありません。「リーダー」と「リーダーシップ」は別物というのがポイントです。

リーダーシップは全員が発揮することができ、才能やセンスで決まるのではなく、学習可能です。では、リーダーシップの教育・育成はどのように実施できるのでしょうか。今回は、そこに焦点を当てて、実践・研究の状況を概観していきたいと思います。

リーダーシップの考え方が変化するということは、リーダーシップ教育をだれに、いつ実施するかも変化します。

リーダーシップは「全員が発揮したほうがよい」のであれば、リーダーシップ教育の対象は「管理職」だけにとどまりません。新人の時点でリーダーシップについて学ぶ機会があってもよいでしょう。

しかし、現在は「管理職になった途端に、急にリーダーシップ研修を受けさせられる」ということも多いのではないでしょうか。

もちろん、これは「どのようにリーダーを選ぶのか」というリーダーの選抜の問題も含んでいますが、リーダーシップを短期的に、スキルベースで学ぶのは限界があります。なるべく早期に、時間をかけて多くの人たちにリーダーシップを学ぶことが大切になります。

早期にリーダーシップを学ぶのはなぜ重要か?

こうしたリーダーシップ教育の対象の拡大・早期化は一つのキーワードになると考えます。ここでリーダーシップを早期に学ぶ重要性について、リーダーシップ発達に関する研究知見をもとに説明します。

リーダーシップの発達には、幼少期や青年期の経験も大きな影響を与えます。個々人のリーダーシップは、会社に入ってから急に発達するものではなく、長期の経験によって育まれるものです。

あなた自身も経験があると思いますが、現在発揮しているリーダーシップスタイルの原型は、中学・高校時代の部活や生徒会活動の経験が影響をしていないでしょうか?こうした早期のリーダーシップの経験が、リーダーシップの発達には重要な役割を果たすことは研究でも明らかになっています。

また、単純な話ではありますが、若いときの方がリーダーシップについて学ぶスピードが早いことも指摘されています。大人になってからも学べますが、早くから学べるのであれば、時間をかけて学ぶことが大切と言えます。

つまり、会社に入社して新人になって学ぶのは早すぎることはなく、入社前に学んでいてもよいくらいなのです。

私はこうした問題意識から、若年層を対象にしたリーダーシップ教育の実践・研究に力をいれているので、ここでその実践の一部を紹介します。

例えば、私の所属する立教大学経営学部ではBLP(Business Leadership Program)というプログラムがあり、1年生から、約400名の学生全員がリーダーシップについて学びます。企業と連携してビジネスプランを提案するといった実践的な経験と、学生間の相互フィードバックを通して、多くの学生が最低でも1年半の期間をかけて学びます。

私はこのプログラムの主査として、プログラム全体のデザインやマネジメントをおこなっていますが、学生たちの成長スピードは驚くほどです。大学でのリーダーシップ・プログラムは、立教大学に限らず、近年では複数の大学で導入が広がりつつあります。

また、最近では中学・高校でも、リーダーシップ教育を取り入れている事例が少しずつ見られるようになってきました。立教池袋中学校・高等学校でも今年から高校3年生向けの「リーダーシップ概論」の授業がスタートしました。もちろん、これは立教大学の関係校だけでなく、都立高校や他の私立高校でも実践事例が報告されていきています。

実際に、私自身が高校生に向けてリーダーシップ教育に関するワークショップを実施することもあります。

高校生が対象の場合は、ビジネスプランづくり等はおこないませんが、リーダーシップを発揮する経験を行い、その後に学生同士が相互フィードバックをして、振り返りをするという構造は、大学生や企業の方を対象にしたワークショップと同じです。その意味で、けしてレベルを中高生に向けに落としているわけではありませんが、まったく遜色なくワークをおこなってくれます。

お互いのリーダーシップ行動について、率直なフィードバックをしている姿をみると、色々と忖度してフィードバックしがちな我々大人のあり方を少し見直さねばと思うこともあります。

リーダーシップ教育をどの科目でおこなうか等の問題はあるかもしれませんが、少なくとも内容のレベルという意味で、中学生・高校生では早すぎるということはないようです。

繰り返しになりますが、いまや教育機関でも広がりつつあるリーダーシップ教育の現状を考えると、新入社員の頃からリーダーシップ教育をおこなうというのは、けして早すぎることはありません。

また、今後はこうしたリーダーシップ教育を受けた人たちが新入社員として入社してくることになります。こうしたメンバーが社内でリーダーシップを発揮しやすくするためにも、企業のリーダーシップ教育のあり方が問われています。

新しい分野であるリーダーシップ教育の研究と実践

次に、リーダーシップ教育に関する研究について概観します。リーダーシップに関する研究は、大きく2つにわかれます。

1.リーダーシップという現象を明らかにしようとする研究(有効なリーダーシップのスタイルや個人や組織に対する影響を明らかにするもの)
2.リーダーシップを開発・教育しようとする研究(リーダーシップ開発・教育の手法や、開発のための要因を探ろうとするもの)

1に比べ、2のリーダーシップ教育に関する研究は比較的歴史が浅く、新しい分野です。理由は、当初リーダーシップ研究は「特性論」が中心であったことや、リーダーシップ教育の効果を測定することが難しかったことなどが挙げられます。

そのため、今後さまざまな研究蓄積が必要な分野ともいうことができます。関連する研究のレビューの詳細はこれらの書籍にゆずり、今回の記事では、リーダーシップ教育の枠組みについてより詳しく説明していきます。

リーダーシップ教育とは「効果的なリーダーシップを発揮するために、個人の能力・資質・行動の向上を目指すこと」です(舘野 2018)。

では、具体的にどのような個人の能力・資質・行動のことを指すのでしょうか?これは必ずしも1つに決められるものではなく、各現場に合わせて、既存の理論やモデルを組み合わせて設定することが大切だと言われています。

しかし、それではイメージが湧かないと思いますので、私が提案しているリーダーシップ教育の概念モデルを紹介します。

このモデルは、

・リーダーシップの基礎理解:リーダーシップの新しい考え方について知る
・自己理解:自分の強み・弱みを知る
・倫理性・市民性:不満を提案に変える
・専門知識・スキル:自分の専門領域に関する知識・スキルを高める

の4つを高めることが、効果的なリーダーシップ行動につながり、影響力を発揮することを想定しています。

このモデルは、書籍『リーダーシップ教育のフロンティア【研究編】: 高校生・大学生・社会人を成長させる「全員発揮のリーダーシップ」』の中で提案しています。

リーダーシップ教育における「自己理解」の重要性

4つの要素の中でも近年、研究的にも注目が集まり、私がリーダーシップ教育を実践をしていても特に重要だと感じるのは、「自己理解」です。「セルフアウェアネス」などのキーワードでも、いくつかの書籍が出版されているかと思います。

なぜ、リーダーシップの発揮に自己理解が大切なのでしょうか?

それは自分の他者に対する影響力を知ることが大切だからです。リーダーシップの定義は「職場やチームの目標を達成するために他のメンバーに及ぼす影響力」(石川 2018)でしたね。

例えば、同じ内容の一言を話すとしても、人によって他者に対する影響力は変わるでしょう。全員が突然スティーブ・ジョブズのように雄弁にビジョンを語り始めても、それがフィットする人もいれば、フィットしない人もいるはずです。あなたらしいスタイルでリーダーシップを発揮することが大切なのです。

そして、この自己理解は「自分ひとりでは完結しない」というのもポイントです。

例えば、ターシャ・ユーリックによると、「自己認識が高い人ほど効果的にリーダーシップを発揮できる」と述べています。ここで自己認識とは以下の2つに分かれます。

内面的自己認識:自分で自分自身をどのくらい把握しているか
外面的自己認識:他者からの認識をどのくらい理解しているか

大切なのは、この2つの両方が高いことです。「自分で自分を知るだけでなく、他者からどのように思われているかを知ること」も大切であるということです。

もう一つ、自己理解を捉えるために「ジョハリの窓」から、自己理解について考えてみましょう。ジョハリの窓とは「自分が知っている・知らない」「他者が知っている・知らない」で整理したものです。

リーダーシップの発揮において大切なのは「盲点の窓」(自分は知らないけれど、他者は知っていること)の領域を小さくすることです。「自分は気づいていなかったけれど、周りがネガティブに感じていること」もあれば、「意識していないけれど、みんなが助かっていたこと」の両方があります。これらを知っていくことで、効果的な影響力を発揮できるというわけです。

そのため、リーダーシップ教育の中では、フィードバックの手法が重宝されます。

「リーダーシップのふるまい」に焦点を当てたフィードバックの重要性

前回の記事で紹介した「経験学習型リーダーシップ教育」(リーダーシップをリアルな現場で発揮し、その行動を他者からのフィードバックをもとに振り返る手法)においても、フィードバックが重視されるのは上述したような理由がもとです。

むしろ極端な話をいえば、「リーダーシップに関するフィードバックをもらうために、経験をしている」といっても過言ではありません。

実際に、リーダーシップ教育のやり方として、企業内での新規事業の提案プロジェクトや、地域との連携プロジェクトなどをおこなわなくても、日常の仕事の中のリーダーシップ経験の「フィードバックと振り返り」をおこなうだけでも、最初の一歩としては非常に効果的です。

例えば、あなたが自分自身の長所・短所だと思うことと、あなたの周りの人たちが考えているあなたの長所と短所はどのくらい一致するでしょうか?もしかしたら、あなたが思う自分と、周りの人たちがあなたに対して考えていることは全く違うかもしれません。

こうしたズレを修正できるようなコミュニケーションの場を設けることがリーダーシップ教育の第一歩につながります。1on1ミーティングなどでも、こうしたコミュニケーションを気軽にとることができれば、双方にとってリーダーシップを高める機会にも活用できるというわけです。

要は「仕事の内容や成果」だけでなく「リーダーシップのふるまい」に焦点を当てたフィードバックや振り返りをおこなうことができれば、それはリーダーシップ教育の機会になるということです。

リーダーシップ教育の手法として、大規模なプロジェクト型のものや、事業内容の提案などのプログラムがフォーカスされることが多いですが、実際は小さな一歩から導入することができます。普段の活動にちょっとだけ「リーダーシップ」の視点をとりいれてみませんか?

今回はリーダーシップ教育の実践・研究の全体像に概観しました。次回はより実際の研修・授業を設計するときのテクニックなどの具体的な手法について説明したいと思います。

今回の内容をより深く知りたい場合には以下の2冊がおすすめです。

これからのリーダーシップ 基本・最新理論から実践事例まで
リーダーシップ教育のフロンティア【研究編】【実践編】: 高校生・大学生・社会人を成長させる「全員発揮のリーダーシップ」

様々な価値観を持つメンバーがお互いを深く理解し合うためのコミュニケーション手法である「対話(Dialogue)」。本連載では、こうした対話が持つ集団の創造性を引き出す力に着目し、「新たな意味やアイデアが創発する対話」である「創造的対話」を生み出すための基本的な知識について解説します。

前回の記事では、対話と創造的対話の定義を確認した上で、どのようなプロセスを経て、対話が深まり、創造的になっていくのかを簡単に紹介しました。

「対話が生み出す『創造性』の捉え方:連載『創造的対話入門』第1回」より

第2回となる今回は、それぞれの領域において行われるコミュニケーションがどのような特徴を持っているのかについて解説します。「会話」「議論」「対話」など、一見混同されてしまいがちなコミュニケーションはどう異なるのか。ファシリテーターとして使い分けていくために知っておきたいポイントも交えて紹介していきます。

儀礼的会話:場の「パターン」に順応することで始まる“第1の会話

対話に関する様々な理論や考え方を提唱してきたC.オットー・シャーマーは、それぞれの領域には、そこに入るための条件が存在するとして、その条件のことを「入場券(チケット)」と呼んでいます。儀礼的会話の入場券は、「順応することへの(無言の)要求に応じること」。その上で、「この種の会話でうまく効果を発揮するためには、参加者は実際に心の中にあることを言うのではなく、礼儀正しい言葉を交わすといった、その場の支配的なパターンに従う必要がある」とも述べています。

儀礼的会話の中で語られる内容は、基本的に当たり障りのない、建前的な発言に終始します。話し手が実際に心の中でどう思っているのかはさほど重要視されず、普段からよく使っているお決まりのフレーズを多用しながら、会話を進めていきます。聞き手も、相手の立場や肩書き、役割から次に語られる内容をある程度察知している場合が多く、例えば、「この人は営業部門の人だから、どうせこういうことを言うだろう」といったふうに、ある程度予測を立てた上で話を聞いているケースがほとんどです。

討論:異なる立場の表明によって始まる“第2の会話

儀礼的会話の次の領域は、「討論」です。この領域における「入場券」は、「人とは異なる立場を取り、異なる考え方を示す意欲」を持つことだと、シャーマーは述べています。また、この領域に入ると、意見の対立から場の緊張が高まり、参加者が気まずい思いを味わうこともよくあります。例えば会議やワークショップなどで、儀礼的会話を脱してそれぞれが自分の意見を言い始める中で、この「討論」の気まずさに耐えかねた参加者が、再び会話の流れを儀礼的会話に戻し、お茶をにごそうとすることがあります。

しかし、最終的に参加者が深く対話し、お互いを深くわかり合っていくためには、この「討論」の領域で、全員が心に思っていることを話すための場が整っていることが必要不可欠です。そのため、「討論」の領域でファシリテーションを行う際には、たとえ意見の衝突があったとしても、安易に領域が戻らないよう注意して関わることが大切です。

探究的対話:自分自身を俯瞰的に捉え、意味づけや価値観の探究を行うコミュニケーション

続く3つ目の領域は「探究的対話」です。シャーマーはこの領域について、勝ち負けについては脇に置き、自分と相手、双方が大切にしている意味付けや価値観の探究的な語り合いが求められることを述べています。

「探究」を行う上での聞き方として、自身の判断を留保し、相手に対して共感的に話を聞くことが重要となります。イギリスでは「相手の靴を履いてみる」ということわざがあるそうですが、まさにそのようなイメージで、相手の立場に立ってみて、共感的に耳を傾けてみると良いでしょう。

また、「探究的対話」やこの後の「創造的対話」においては、参加者の一人ひとりが、自分自身を「全体の一部」として見なす視点を持っているかどうかも大きなポイントです。こうした視点の持ち方について『U理論』の第1版では、例として、映画館で映画を観る時に、目の前のスクリーンしか見ていなかった状態から、映画を撮影したカメラマンや観客、また、観客である自分自身を俯瞰的に見ているようなものと説明されています。このように自分自身の内面を俯瞰的に捉え直す視点を持つことができると、自分たちの振る舞いや立脚している視点の偏りに気づきやすくなり、勝ち負けに囚われない「探究的対話」に入りやすくなるのです。

創造的対話:上位の目的/関心に向けて生成的にアイデアを出し合うコミュニケーション

最後は領域4「創造的対話」です。創造的対話では、これまでの個人の立場や価値観を理解し合った経験を踏まえ、全員にとってのより上位の目的/関心に目を向けていくことが特徴として挙げられます。個から全体に目を向け直し、この場にいる全員にとって必要な未来に焦点をあて、それらを実現する上でのアイデアについて生成的に語り合います。

また、領域3が直接的に関わりのある個人や組織同士のネットワークによって構成されるものであるとすれば、この領域4は、間接的には関係し合う要素も包含した”生態系(エコシステム)”として構成されるものだとシャーマは『U理論』の中で論じています。さらに、ともに領域4に足を踏み入れ、深い絆を築いた集団やチームは、長い年月を経ても、わずかな時間で同じようなつながりを築くことができるとも述べられています。

まとめ

これまで説明してきた領域1から領域4までの、会話のイメージを図でまとめると以下のようになります。

今回の記事では、創造的対話に至るまでの4種類のコミュニケーションについて、解説しました。非日常的なワークショップなどだけでなく、日常的な会議の中でも有効な区分となっておりますので、ぜひ意識しながらファシリテーションをしてみてください。

参考文献

C・オットー・シャーマー, 中土井僚, 由佐美加子. 2010.『U理論――過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術』英治出版.

C・オットー・シャーマー, 中土井僚, 由佐美加子. 2017. 『U理論[第二版]――過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術』英治出版.

Joseph,Jaworski.; Claus,Otto,Scharmer. 2000. Leadership in the New Economy:Sensing and Actualizing Emerging Futures.

株式会社ヒューマンバリュー, 「ダイアログ~探求を深め、新たな価値を生成する話し合いのあり方~」, 2009, 

編集・水波洸