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「チームの多様性を高めることが、イノベーションの推進やクリエイティブな成果を生む上での鍵になる」という認識が、ここ最近では広まってきていると感じます。チーム編成を行う際に、男女を混ぜたり、若手とベテランを混ぜたりするように気を遣ったことのある方も多いのではないでしょうか。

しかし、本当に多様性のあるチームからイノベーションが生まれるのでしょうか?本記事では、この問いを皮切りとしながら、チームの創造性に関する海外の研究を参考に創造的な成果を生むためのチームづくりのヒントを探っていきたいと思います。

目次
「性別・年齢・人種の多様性」と「創造性」には関係がない?
性別・年齢・人種の多様性をきっかけとした「コミュニケーション」が創造性を生む
創造性に影響を与える「機能的多様性」
創造的な成果は“プロセス”から生まれる


「性別・年齢・人種の多様性」と「創造性」には関係がない?

性別や在職年数、人種、年齢、所得、家族構成などの人口統計学的な属性を「デモグラフィック(人口統計学的)」属性と呼びます。デモグラフィック要因とイノベーションや創造性の関連性を検討した研究は、筆者が知る限りでも20年以上の歴史があります。

数十年研究がなされているので統一見解があるのか?と思いきや、実はデモグラフィック要因とチームの創造性に関する研究成果はバラバラです。

一例をあげると、ジェンダーの多様性は創造性に効果的を示さなかったという研究結果(O’Reilly, Williams, and Barsade 1998)もあれば、性別の多様性とチームの創造性には中程度の関連があると示した研究(Curseu 2010)もあります。

あるいは、民族的に多様なチームと民族的に均質なチームの間で創造性に差はないと報告した研究(Paletz et al. 2004)もあれば、民族的多様性がチームの創造性を妨げると主張する研究(McLeod et al. 1996)もあるのです。

結局のところ、こうした「デモグラフィック面での多様性」と「チームの創造性」についての複数の研究をまとめて分析した研究(Hulsheger et al. 2009)では、「デモグラフィック面での多様性」は「チームの創造性」との強い因果関係を見出すことはできないと結論づけられています。

性別・年齢・人種の多様性をきっかけとした「コミュニケーション」が創造性を生む

さて、ここまでの研究成果を踏まえると、「なんだ、性別・年齢・在職年数の多様なチームをつくることは創造性の促進に何ら寄与しないのか」と思われるかもしれません。しかし、そう考えてしまうのは早計です。

性別・年齢・在職年数の多様なチームをつくるだけでは、創造的な成果は生まれませんが、こうした目に見えやすい多様性によってチーム内のコミュニケーションが活性化した場合は、創造性に寄与することがあります

逆に言えば、「性別や年齢が似通ったチームでは創造的な成果が生まれない」とも限りません。「同じ性別だから」「同じ職種だから」とデモグラフィック要因で括らないことが大事ではないかと思います。

創造性に影響を与える「機能的多様性」

デモグラフィック要因の多様性と創造性には直接的な因果関係がないということは見えてきましたが、結局のところ、多様性そのものにはチームの成果との因果関係はないのでしょうか?

実は、昨今の研究では、デモグラフィック要因ではなく、教育の多様性や仕事に関連する知識、スキル、能力などの多様性がチームの創造性に寄与すると示唆されています(例えばWoodman et al. 1993やHulsheger et al. 2009など)。

こうした多様性は「機能的多様性」と呼ばれています。創造的な成果やイノベーション促進との関係性に懐疑的な研究結果を示す論文もありますが、複数の研究を総合的にみていくと、機能的多様性は創造性やイノベーション促進に影響をもたらすという考察がなされています(Reiter-Palmon et al. 2012)。

ただ、こうした多様性はデモグラフィック要因と比べると可視化されづらいため、実務的に意識されることが少ないのかもしれないと感じています。

以前、CULTIBASEでIDEOさんの組織文化に関する記事を掲載し、「多様性は『作る』ものではなく『見いだす』もの」という話にSNSでも多くの共感をいただきましたが、まさに「多様性のあるチームや組織をつくる」のではなく、1人1人の“違い”に注目し、「多様性を見いだしていく」ことが重要であり、そうして見いだされた多様性が「機能的多様性」の話にも通ずるところだと思います。

IDEOに聞く、とにかく時間を掛け“対話文化”を醸成する姿勢:
連載「クリエイティブ組織の要諦」第1回

創造的な成果は“プロセス”から生まれる

先ほど、「目に見えやすい多様性によってチーム内のコミュニケーションが活性化した場合は、創造性に寄与することがある」と書きましたが、厳密にはこれはデモグラフィック要因を起点とした「プロセス」によって創造的な成果を生んでいると言い換えることができます。

つまり、創造的な成果に寄与するのは「多様性の有無」よりもむしろ「プロセス」にあるのではないか、ということです。

この「プロセス」とは、以下の記事で定義されているように、単なる仕事の過程や手順にとどまらないもう少し広い意味での「表面には可視化されていない集団の関係性の質や、人間の内面的なもの」を想定しています。

組織のイノベーションは「プロセス」から生まれる

この記事では、この「プロセス」が事業開発で蔑ろにされてしまいがちなことについても言及されていますが、まさに「プロセス」への働きかけが創造的な成果と密接に関わっており、もっと「プロセスとイノベーション」あるいは「プロセスと創造的な成果」の関係性に注目していく必要性があると言えるでしょう。チームの創造性に関する研究の中でも、創造的な成果を生み出すには社会的なプロセス(コラボレーションやコミュニケーション等)が重要であるということが示されています(Reiter-Palmon et al. 2012)。

具体的にどのようなプロセスの要因が創造的成果と結びついてくるのかが気になるところではあるかと思いますが、ここはまた別の記事でご紹介したいと思います。

参考文献
Barry, B., & Stewart, G. (1997). Composition, process, and performance in self-managed groups: The role of person- ality. Journal of Applied Psychology, 82, 62–78.

Cur ̧seu, P. (2010). Team creativity in web site design: An empirical test of a systemic model. Creativity Research Journal, 22, 98–107.

Hulsheger, U., Anderson, N., & Salgado, J. (2009). Team-level predictors of innovation at work: A comprehensive meta-analysis spanning three decades of research. Journal of Applied Psychology, 94, 1128–1145.

McLeod, P., Lobel, S., & Cox, T. (1996). Ethnic diversity and creativity in small groups. Small Group Research, 27, 248–264.

O’Reilly, C., Williams, K., & Barsade, S. (1998). Group demography and innovation: Does diversity help? Composition (pp. 183–207). Elsevier Science/JAI Press.

Paletz, S., Peng, K., Erez, M., & Maslach, C. (2004). Ethnic composition and its differential impact on group processes in diverse teams. Small Group Research, 35, 128–157.

Reiter-Palmon, R., Wigert, B., & Vreede, T. (2012)Team Creativity and Innovation: The Effect of Group Composition, Social Processes, and Cognition. Handbook of Organizational Creativity. Academic Press, Cambridge, MA:295-326

Woodman, R., Sawyer, J., & Griffin, R. (1993). Toward a theory of organizational creativity. Academy of Management Review, 18, 293–321.

プロジェクトのミーティング、課題解決のためのワークショップ、人材育成研修などの場にファシリテーターとして臨むにあたって、参加メンバーの「やる気」を高めること(=動機付け)は重要な課題です。

特に会議や研修をワークショップ型の活動で実施する場合、ワークショップの形式にすればすなわち参加者の意欲が引き出せると思われがちですが、ワークショップはねらいが曖昧であったり、活動の目標と学習の目標がひねって結びついていたりするため、ファシリテーションを意識的に工夫をしなければ、うまく“乗れない”参加者が出てきてしまいます。

授業や研修設計の理論であるインストラクショナルデザイン(以下、IDと表記)では、学習者の学習意欲を引き出す教授方略として「ARCSモデル」がよく参照されています。

目次
学習意欲を引き出すARCSモデル
“A”と“R”は、条件付きでワークショップにも援用可能
“C”と“S”はワークショップならではの改変が必要


学習意欲を引き出すARCSモデル

ARCSモデルとは、ジョン・ケラー氏が提唱したモデルで、学習意欲を引き出す要因となる4要素として「注意(Attention)」「関連性(Relevance)」「自信(Confidence)」「満足感(Satisfaction)」の頭文字をとったものです。

注意(Attention)
おもしろそうだ、何かありそうだという学習者の興味・関心の動きがあれば、注意が獲得できる。新奇性(もの珍しさ)によって知覚的な注意を促したり、不思議さや驚きによって探究心を刺激する。また、注意の持続には、マンネリを避け、授業の要素を変化させる。

関連性(Relevance)
学習課題が何であるかを知り、やりがい(意義)があると思えれば、学習活動の関連性が高まる。反対に、「何のためにこんな勉強をするのか」との戸惑いは、関連性の欠如に由来する。学習の将来的価値のみならず、プロセスを楽しむという意義や課題の親しみやすさも関連性の一側面だとされている。

自信(Confidence)
達成の可能性が低い、やっても無駄だと思えば、自信を失う。逆に、学び始めに成功の体験を重ねたり、それが自分が工夫したためだと思えれば「やればできる」という自信がつく。自信への第1歩は、ゴールを明確にし、それをクリアーすること。教師の指示にただ従うだけではなく、試行錯誤を重ね、自分なりの工夫をこらして成功した場合(学習の自己管理)、自信はさらに高まる。

満足感(Satisfaction)
学習を振り返り、努力が実を結び「やってよかった」と思えれば、次の学習意欲へつながる満足感が達成される。マスターした技能が実際に役に立ったという経験や、教師や仲間からの認知と賞賛、努力を無駄にさせない首尾一貫した学習環境などが重要だとしている。

(『教育工学事典』より)

このモデルは、ID型の授業や研修を設計する際には、そのまま参考になるモデルです。ところがワークショップデザイン型の活動の場(以下、WS型と表記)を構成する場合には、少し改変が必要であるように思います。

※ID型(インストラクショナルデザイン)とWS型(ワークショップデザイン)の違いについてピンとこない方は、以下の記事をご参照ください。

従来型の人材育成を超えるには:研修設計の2つのアプローチ

“A”と“R”は、条件付きでワークショップにも援用可能

「注意(Attention)」「関連性(Relevance)」は、ID型と同様に、WS型にも援用可能でしょう。ただし、WS型の場合は、ID型の授業や研修に比べて、学習者の参加動機が多様であることが多いため、動機付けのフックが参加者によって異なることに配慮しなければいけません。

人によっては活動そのものの面白さで動機付けられる場合もあれば、学習内容の実用性(日常にいかに役立つか)に動機付けられる人もいるでしょう。

学習動機が高くても、実益よりも、知的好奇心をもとに答えのない問いについて、概念的に探究することに喜びを感じる人もいるかもしれません。また、個人目線の欲求よりも、活動が組織のビジョンやパーパスに合致しているか、理念との接合に意味を感じるメンバーもいるはずです。

組織の公式な活動ではなく、インフォーマルにワークショップを実施する場合には、日常から離れて、固定観念のアンラーニングや、新しい人とのつながりを求めてワークショップに参加する人も少なくありません。

WS型の学びの場に潜在している多様な魅力を伝え、場に参加するメンバーひとりひとりに「自分にとって意味のある活動である」と感じてもらうことが必要です。

“C”と“S”はワークショップならではの改変が必要

他方で「自信(Confidence)」「満足感(Satisfaction)」については、WS型の特徴を踏まえると、そのまま援用することはできません。

ID型と違って、WS型には段階的構造(ステップ)がなく、一律の目標基準で判定される“達成”という概念がありません。したがって、一方向的な「これが出来るようになった」というフィードバックでは、メンバーのやる気を引き出せないからです。

WS型では、日常の慣習や自分自身をいつもとは違う視点から相対化する経験や、普段使っていない感覚を鍛えたりストレッチしたりするような「非日常的な体験」が学習活動の中心となります。その学習の軌道は一人ひとり異なり、個人の内面のなかで、方向性の異なる気づきが生起している点が特徴です。

この気づきの個性を活かしながら、対話を生み出し、改めて「ワークショップが終わったあとも考え続けたい問い」が個々人に芽生えていることが、ワークショップにおける学習の動機付けの本質のように思います。まとめると、アプローチは、以下のようなかたちでしょうか。

・自分自身の気づきをメタ認知し、意味付けする機会を作る
・グループの対話(dialogue)を通して異なる意味づけに触れる機会を作る
・自分にとって意味のある「新たな問い」の生成を支援する

ID型に比べて、“スッキリさせて満足度を担保する”のではなく、新たなモヤモヤを残して葛藤と学習を継続させることの重要性が、WS型の学びの場では尊重されます。学びの性質の違いに合わせて、動機付けのアプローチも異なることを理解しながら、インストラクショナルデザインとワークショップデザインを使い分けられることが重要です。

WS型の活動の評価方法については、以下の記事もあわせてお読みください。

創造的な学びを促す「ワークショップ型研修」の効果をどのように測るか

連載「アナロジー思考の秘訣」では、論理的思考では辿り着けない、飛躍した発想を得るための思考法「アナロジー思考(analogical thinking)」について、その特徴や手順について解説してきました。

今回は応用編。イノベーションプロジェクトの設計手法である「リサーチ・ドリブン・イノベーション」の考え方と組み合わせて、問いとアナロジーを往復しながらアイデアを磨きあげるアプローチについて解説します。

目次
探究型の問いを起点としたイノベーションプロジェクト
オフィスとは、神社である!?


探究型の問いを起点としたイノベーションプロジェクト

リサーチ・ドリブン・イノベーションとは、デザイン思考をはじめとする「内から外へ(インサイド・アウト)」アプローチと、アート思考や意味のイノベーションをはじめとする「外から内へ(アウトサイド・イン)」アプローチを共存させることを目指した考え方です。

出発点として人間と社会の本質に迫る「価値探究型の問い」を設定し、「探究」を中心的な活動としたプロジェクト設計を推進していく手法です。

https://cultibase.jp/features/rdi/

このリサーチ・ドリブン・イノベーションのプロセスにおいて、実はアナロジーを積極的に活用すると、起点となる「問い」の探究が深まり、洞察が拡がっていきます。以下、具体的な事例をもとにみていきましょう。

オフィスとは、神社である!?

筆者が責任者を務めた「オフィス家具」の開発プロジェクトをご紹介します。このプロジェクトは、金属のレーザー加工を專門とする株式会社インスメタル様のご依頼で、自分だけの理想の空間をカスタマイズできる結界型オフィス家具「ADDMA(アドマ)」と呼ばれるプロダクトを生み出したプロジェクトです。プロジェクトのドキュメンテーションは、プロダクトのウェブサイトの下部に掲載しています。

ADDMA:https://addma.jp/

このプロジェクトは、オフィス家具のそもそもの前提として、「“オフィス”とは何か?」という価値探究型の問いを大きなテーマとして掲げ、リサーチ・ドリブン・イノベーションのプロジェクトとして設計しました。

また、関連する問いとして「良いオフィスとは何か?」「なぜ“働き方”が問い直されているのか?」「ベンチャーにおけるオフィスの役割とは何か?」など、いくつかのリサーチ・クエスチョンを掲げ、それについてワークショップで対話を重ねるところから、プロジェクトを始動させました。

ワークショップではさまざまな洞察が生まれましたが、なかでもブレイクスルーにつながったきっかけが、「“オフィス”とは何か?」という問いに対する「神社」というアナロジーによる回答でした。

オフィスとは、会社のアイデンティティや所属意識を感じられる「シンボル」のようなものではないか。デスクでパソコンに向かって働くことが重要なのではなく、オフィスがあることによって「この会社で働いてるんだ」と感じられ、会社に宿った理念や思想を感じられるることが、オフィスの意味なのではないか。オフィスとは“神社”のようなものなのではないか。

このアナロジーを媒介とした洞察がきっかけとなって、再び「神道とは?」「人はなぜ祈るのか?」「神社が持っている場の力とは?」といった、新しい問いが立ち上がりました。そして、これらの問いに対して、リサーチとワークショップを通して思考を巡らせていきました。

最終的に、ワークショップで到達したキーワードは「結界」というアナロジーでした。神社は、他の宗教とは違い、建物に意味があるのではなく、「鳥居」というシンボリックな結界をまたぐことで、意味が生まれている。オフィスにおいてもまた、“結界”的な境界を作りだすことで、違った意味を作り出すことができるのではないか。そんな洞察に行き着いたのです。

これが、結界の力で自分だけの空間を構成できる「ADDMA」のコンセプトの核となりました。振り返ると、「問い」と「アナロジー」を往復することで、アイデアを磨き上げるプロセスでした。

【問い】オフィスとは何か?ベンチャーにおけるオフィスの役割とは何か?
 ↓
【アナロジー】ベンチャーにとってオフィスとは“神社”のようなものである
 ↓
【問い】神社が持っている場の力とは何か?
 ↓
【アナロジー】人は“結界”から空間の意味や境界を見出すことができる

このようなアイデア発想のプロセスは、いわゆるユーザー中心主義的な考え方で「オフィス家具のニーズ調査」などをしていても、なかなか辿り着けない着想です。

プロジェクトの本質に迫る「価値探究型の問い」を立て、リサーチ・ドリブン・イノベーション型のプロジェクトとして設計する。そして探究の触媒として、見立ての遊び心を備えたアナロジーを使って、アイデアに磨きをかけていく。これまで解説してきたアナロジーの手法に比べてやや応用的ではありますが、リサーチ・ドリブン・イノベーションの手法とあわせて習熟すると、革新的なプロダクトをデザインする上で、有効な手段になるはずです。


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特集「アナロジー思考の秘訣」