ジョブ・クラフティングとは?国内研究の第一人者・高尾義明さんが、定義・事例から最新の研究動向まで徹底解説

ジョブ・クラフティングとは?国内研究の第一人者・高尾義明さんが、定義・事例から最新の研究動向まで徹底解説

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2021.11.30/ 13min read

個人が主体性を発揮し、仕事のやりがいを感じながら働くための方法論「ジョブ・クラフティング」。

2001年にエイミー・レズネスキーとジェーン E. ダットンによって提唱されたジョブ・クラフティングは、ここ数年注目を集めるようになっています。しかし、「単語は聞いたことがあるけど意味はよく知らない」という人も、まだまだ多いのではないでしょうか。

ジョブ・クラフティングとはどのような概念で、いかにして活用していけばよいのでしょうか? 国内のジョブ・クラフティング研究の第一人者である東京都立大学大学院教授・高尾義明さんに、定義と実践例、注目されている背景から最新の研究動向まで解説していただきました。

高尾義明
東京都立大学大学院 経営学研究科経営学専攻教授
1967年生まれ、大阪市出身。京都大学教育学部教育社会学科卒業後、大手素材製造業での4年間の勤務を経て,京都大学大学院経済学研究科修士課程・博士課程にて組織論を学ぶ。博士(経済学,京都大学)。九州国際大学経済学部専任講師、流通科学大学情報学部専任講師・助教授を経て、2007年4月から東京都立大学(旧名称:首都大学東京)大学院社会科学研究科経営学専攻准教授。2009年4月より同教授。2017年4月より東京都立大学(旧名称:首都大学東京)大学院経営学研究科経営学専攻教授(組織再編のため、現在に至る)。主著に『はじめての経営組織論』(有斐閣),『経営理念の浸透』(共著,有斐閣)など。また、新刊『「ジョブ・クラフティング」で始めよう働きがい改革・自分発』が2021年11月26日より発売開始。


目次
ジョブ・クラフティングとはなにか──3つの類型で整理する
ジョブ・クラフティングの実践事例:メールマガジンの発行業務
ジョブ・クラフティングの主体は?ジョブ・デザイン、ジョブ・メイキングとの違い
ジョブ・クラフティング台頭の背景:働き方改革、コロナ禍
ジョブ・クラフティング研究の基本モデル──「効果」と「影響」
ジョブ・クラフティング研究の最新動向:回避志向、マイナスの影響、仕事外

ジョブ・クラフティングとはなにか──3つの類型で整理する

まず、ジョブ・クラフティングの定義から確認していきましょう。

学術用語としてのジョブ・クラフティングは、「従業員が、自分にとって個人的に意義のあるやり方で、職務設計を再定義・再創造するプロセス」と定義されています(Wrzesniewski & Dutton, 2001)。噛み砕くと、「働く人たち一人ひとりが、主体的に仕事や職場の人間関係に変化を加えることで、与えられた職務から自らの仕事の経験を作り上げていくこと」と言い換えることができます。

ジョブ・クラフティングには、①業務自体のクラフティング ②関係性のクラフティング ③仕事の捉え方のクラフティングの3種類があるとされています。

①業務自体のクラフティングとは、仕事の中身ややり方、段取りを変更したり、工夫を加えたりすること。例えば、日々の定型業務にかかっている時間をストップウォッチで計測し、自主的にタイムアタックを行うなかで小さな改善点をみつけていく事例があります。

②関係性のクラフティングとは、上司や同僚、取引先の顧客など、仕事で関わるさまざまな人との関係性を増やしたり、関わり方を変えてみたりすること。身近な事例として、社内SNSで「いいね」を押すことも一種の関係性の構築として捉えられるわけですが、そのやり方や頻度を変えることも関係性のクラフティングと言えます。

③仕事の捉え方のクラフティングとは、個々の業務や仕事全体の意味、目的の捉え方を変えてみようとすること。後述する清掃スタッフのインタビューや「三人の石工の話」のように、「この仕事は自分にとってどんな意味があるか」と考えてみたり、考え方を変えてみたりする試みのことです。

ジョブ・クラフティングの実践事例:メールマガジンの発行業務

では、ジョブ・クラフティングを、どのようにして業務に取り入れていけばよいのでしょうか。一つ事例を見てみましょう。ビジネススクールの学生さんから寄せられた、メールマガジン発行業務におけるジョブ・クラフティングの実践例です。

①業務自体のクラフティング:メールマガジンを開封率がわかるように変更した(テキスト形式→HTML形式)ことで、お客さまの反応が見られるようになり、メールマガジン発行業務に面白みを感じるようになった。

メールマガジンの形式を変えることは、業務の内容そのものを変更しているので、業務自体のジョブ・クラフティングにあたります。

②関係性のクラフティング:メールマガジンの終わりに「編集後記」を付けることで、発行者の「顔」が見えるようにしたところ、お客さまおよび社内からも感想が送られてくるようになり、業務がさらに面白くなった。

編集後記を付けることで、顧客に対して新たなメッセージを発信し、それに対する感想が送られてくるようになっています。新しい相互作用が生まれたという点で、関係性のクラフティングの好例と捉えられます。

③仕事の捉え方のクラフティング:以前はメールマガジンの発行を義務的に捉えていたが、情報提供することでお客さまの認知を得る活動であるという認識を持ってからは、業務に対していっそう責任感が生まれた。

①と②の取り組みを通じて、メールマガジンの発行という業務の認識が、義務的な単純作業からお客様からの認知を得る活動へと変化しました。これは、仕事の捉え方のクラフティングに相当します。

こうして事例を並べてみると、ジョブ・クラフティングは非常にささやかな取り組みから始まるとわかります。「無意識のうちに取り入れていた」という人も多いと思いますし、もっと大掛かりなものを期待していた人からすると、少し地味な印象を受けたかもしれません。しかし、日々の仕事にコツコツと変化を加え、スモールステップを積み重ねていくことで、自分なりの仕事の経験が作り上げられ、やがてはそれが大きな変化となります。

ジョブ・クラフティングの主体は?ジョブ・デザイン、ジョブ・メイキングとの違い

ジョブ・クラフティングにおいては、主体は働く人自身にある点が重要です。上司から「こういう風に改善してね」と言われて仕事のやり方を変える、といった外部からの圧力による変化は、ジョブ・クラフティングの定義からは外れます。

ジョブ・クラフティングのベースになっている概念に、「ジョブ・デザイン」があります。ジョブ・デザインは経営学において長く研究されているテーマで、文字通り「仕事をデザインする」という発想ですが、ジョブ・クラフティングとの一番大きな違いは、主体がマネジャーにある点です。

単純作業を繰り返すタイプの仕事では、どうしても従業員のモチベーションが下がってしまいますよね。そこで、少しでもやる気を上げるために、マネジャーが与える仕事の範囲を広げたり、仕事の任せ方を工夫したりするのが、ジョブ・デザインの基本的な考え方です。

従業員が自ら能動的に仕事の経験を作り上げるジョブ・クラフティングの考え方を採用するためには、前提として従業員をそれだけの能力がある存在として捉える必要があります。従業員を無力で受け身な存在と見るか、自ら主体的に仕事を変革していける存在と見るかという点において、ジョブ・デザインとジョブ・クラフティングは大きく異なるスタンスを取っているのです。

同様の理由で、ジョブ・クラフティングは「やりがい搾取」とも異なります。やりがい搾取には「この仕事にはこんな意味があるんだ」と外部から意味を与えられる、センス・ギビングの側面がありますが、ジョブ・クラフティングは自分で仕事の意味を発見する、センス・メイキングとしての試みです。

経済的な報酬との関係性も異なります。やりがい搾取は「意味があるんだから報酬は安くてもいいだろう」とやりがいで報酬を代替し、経済的に搾取すること。一方で、ジョブ・クラフティングの場合は、仕事の意味と報酬は無関係で、「やりがいがあるから報酬は安くてもいい」という発想にはなりません。

また、なぜ「ジョブ・メイキング」ではなく「ジョブ・クラフティング」なのかといえば、1から新しい仕事を作り出すこととも異なるためです。「クラフト(craft)」という単語には、「手を動かして何かを作る」という語感があります。ジョブ・クラフティングは、職人がレザーから自分なりの作品を生み出すように、「目の前の仕事」を自分なりの手触り感のある経験に作り変えるプロセスなのです。

ただし、ジョブ・クラフティングを進めていくうちに、「もっとこういうことをすべき」と新しい仕事が生まれることもあります。ジョブ・クラフティングとジョブ・メイキングは、なだらかに連続しているのです。また,マネジャーによる,部下の自律性を高めるジョブ・デザインがきっかけとなってジョブ・クラフティングが促進されることもあり,相補的な関係になることもあります。

ジョブ・クラフティング台頭の背景:働き方改革、コロナ禍

ジョブ・クラフティングという概念は、イェール大学のレズネスキー教授とミシガン大学のダットン教授が2001年の論文で提唱し、そこから徐々に広まってきたものです。

レズネスキーとダットンは共同研究の中で、アメリカの大学病院に勤務する清掃スタッフ約30名にインタビューを実施し、自分たちの仕事をどのように捉えているか調査しました。すると、「私の仕事はマニュアル通りに掃除することです」と捉える人がいる一方で、「私は患者さんの治癒に関わっているヒーラー(治癒者)である」と捉えている人もいると明らかになりました。

「仕事は義務でありつらいもの」と捉える人と、仕事に自分なりの意味を見出し、自らのアイデンティティにできる人の差はどこにあるのか? どうすれば仕事を通じて、やりがいや幸福感を感じられるようになるのか? ──インタビューから生まれた、こうした問いを探究すべく生み出された概念が、ジョブ・クラフティングなのです。

ジョブ・クラフティングに関する研究は2016年頃から徐々に増え始め、ここ1〜2年で一気に倍増しました。私自身、講演などでお声がけいただく機会も増え、社会からの関心が高まっていると感じます。

ここ最近、ジョブ・クラフティングへの注目が高まっている背景には、「働き方改革」と「コロナ禍」という2つの要因があると思います。

働き方改革では、業務の効率化が進み、働き方の柔軟性が上がった一方で、コミュニケーションの希薄化など新たな課題も出てくるようになりました。また、コロナ禍への対策、具体的にはリモートワークの普及によって、以前より自律的な働き方が求められるようになりました。とはいえ、多少のデメリットはあっても、これから働き方改革やコロナ禍以前の働き方に完全に戻るとは考えにくい。

するとこれからの時代は、コミュニケーションが希薄であったり、リモートワークが当たり前だったりする職場において、自分で働きがいを感じられるように自律的に働くスキルがますます重要になってきます。また企業側は、自律的な働き方を促進することで社員のエンゲージメントが下がらないよう、組織のマネジメントを進化させていく必要があります。

そうした課題について考えていくための1つのキーワードとして、個人のセルフ・プロデュース力を上げ、仕事のやりがいや幸福を生み出すジョブ・クラフティングの考え方が注目されてきているのです。

ジョブ・クラフティング研究の基本モデル──「効果」と「影響」

ジョブ・クラフティング研究の基本モデルに沿って、ジョブ・クラフティングを取り入れることで期待できる効果と、ジョブ・クラフティングに影響を与えうる要因についてもご紹介します。

まず直接的な影響として、自分なりに仕事の意義を認知し、仕事のミスマッチ感が解消することが挙げられます。その結果エンゲージメントが上がり、より前向きに仕事に取り組めるようになることが多くの研究で実証されています。さらにそこから期待される効果として、個人のウェルビーイングが向上し、組織に対してもプラスに作用することも明らかになってきています。

また、ジョブ・クラフティング研究では、「自分で自分のやることを決めたい」「他者との意味ある関係性を築きたい」といった欲求、すなわちジョブ・クラフティングにつながる動機を、多かれ少なかれ個人はみんな持っているという前提に立っています。

しかし実際の職場では、ジョブ・クラフティング的な取り組みができている人ばかりではありません。なぜならば、下記のような影響要因によって、ジョブ・クラフティングの取り組みやすさや効果の出やすさに差が生まれるためです。

<ジョブ・クラフティングの影響要因>
①職務特性:自律性等
②職場環境:社会的サポート等
③個人要因:マインドセット等

①職務特性とは、仕事の内容や性質のことです。自分でいろいろと決められる自律性の高い仕事をしている人の方が、ジョブ・クラフティングはしやすくなります。逆にやることがガチガチに決まっている仕事の場合は、どうしても取り組みの幅が限定的になります。

②職場環境も影響します。会社や上司、同僚など、周囲からのサポートを得やすい職場の方が、ジョブ・クラフティングはしやすくなります。

③個人要因としては、個人のマインドセットなどがこれにあたります。「自分で仕事に変化を加えて良いんだ」というマインドセットを持っている人の方が、ジョブ・クラフティングはしやすくなります。

こうした要因が「ジョブ・クラフティングをしたい」という個人の動機と合わさることで実践へとつながり、仕事上のアイデンティティや仕事の意味づけの変化をもたらします。また、仕事の意味づけが変わることで次なるジョブ・クラフティングにつながったり、ジョブ・クラフティングの内容に変化が生じたりするというフィードバック・ループの存在を指摘する研究もあります。

ジョブ・クラフティング研究の最新動向:回避志向、マイナスの影響、仕事外

最後に、ジョブ・クラフティング研究における、最新の注目トピックについても触れておきます。

ここまで、仕事にプラスの価値を見出そうという前向きなジョブ・クラフティング(促進思考のジョブ・クラフティング)をご紹介してきましたが、ジョブ・クラフティングには、ネガティブなものを減らす方向性のものもあります。これらは回避志向のジョブ・クラフティングとして、研究テーマの一つになっています。

例えば「あの人の顔を見るのも嫌だから、なるべく会わないようにしよう」というのも、ある種の関係性のクラフティングですよね。あるいは「この仕事は自分に合わないから、やらなくて済むようにしよう」というのも、業務自体のクラフティングと言えます。

また、仕事というのは完全に一人で完結するものではなく、上司や同僚、取引先など誰かしらと関わりながら進めるのが普通ですよね。すると、自分が仕事の一部に変化を加えることで、それが他の人の仕事に影響を与える、ということが起こりえます。

それは「こんなやり方ができるんだ」と他者のジョブ・クラフティングを誘発するなど、プラスの影響になることもあれば、「何勝手なことをやっているんだ」というネガティブな受け取り方をされ、マイナスの影響を与えることもあります。これらは、ジョブ・クラフティングの取り組みが周囲にもたらす影響として、研究が進められています。

また、ここまで仕事という領域に完結したジョブ・クラフティングについて取り上げてきましたが、仕事以外の活動によってジョブ・クラフティングが促進される、という観点でも研究が進められています。昨今は「越境経験」「越境学習」というキーワードが注目を浴びていますが、仕事の外に出ることで新しい仕事の意味に気づいたり、新たな知見やスキルを獲得したりすることにつながり、ジョブ・クラフティングが促進されると言われています。

Text by Mariko Fujita
Edit by Masaki Koike 


本記事は、高尾義明さんをゲストにお招きしたCULTIBASE主催によるライブイベント「メンバーの主体性発揮や働きがい向上をマネジメントするには?:ジョブ・クラフティング研究からヒントを探る」の内容を一部記事化したものです。

CULTIBASE副編集長の東南裕美が聞き手を務めた本イベントのフルバージョンは以下からご覧いただけます。

メンバーの主体性発揮や働きがい向上をマネジメントするには?:ジョブ・クラフティング研究からヒントを探る
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