リフレクションの3つの誤解:連載「リフレクションの技法」第2回

リフレクションの3つの誤解:連載「リフレクションの技法」第2回

瀧 知惠美

2021.10.29/ 10min read

企業内、教育現場、その他多くの分野で、自分たちの活動をふり返ることで学びを得ようとする所謂「リフレクション」という活動が実践されています。しかし、せっかく時間をかけて活動をふり返っても次に活かされないなど、うまくいかない「リフレクション」を経験したことがある方も少なくないのではないでしょうか。

本連載ではリフレクションの本質とは何なのか、背景にある理論を整理し、意味のあるリフレクションを実践するためのポイントを紹介していきます。特に、チームにおけるリフレクションの活用を軸に、チームの中の個人、そしてチームが属する組織へもたらす影響について触れていきます。

第2回目となる今回のテーマは「リフレクションに対する誤解」です。「リフレクション」を行う際によく発生する問題として、「リフレクションを実施する目的が関係者間で揃っていない」ということがあげられます。また、たとえ目的を設定して実施しているリフレクションでも、実はそこに関わる一人ひとりの中で微妙に目的意識がずれてしまい、期待した結果が得られなかったと感じる人が出てしまうこともあります。本記事では、リフレクションを実践するときにありがちな3つの誤解を解くことで、チームで有意義なリフレクションを行うためのヒントに迫っていきます。

目次
誤解(1)リフレクションは反省会である
誤解(2)リフレクションは過去のことを考えるものである
誤解(3)リフレクションをやれば、人や組織が変わる

誤解(1)リフレクションは反省会である

「リフレクション」や「ふり返り」と聞くと、うまくいかなかったことを中心に話し合う「反省会」をイメージする方も多いのではないでしょうか。終わったできごとについて考えるときに「反省する」という言葉が用いられることが多く、「ふり返り=反省会」のイメージが根強くあります。これは、ある意味謙虚な姿勢の現れとも捉えられますが、うまくいかなかった箇所にばかり目を向けていると、次第にネガティブな思考に陥ってしまいかねません。「ふり返り会をやると、気持ちが沈むので気が進まない」という声も度々聞かれます。

しかし、リフレクションは、よくなかった「間違い」を見つけて、「正しいこと」をやるためにふり返るものではありません。リフレクションでは、「うまくいった」「うまくいかなかった」など、ものごとの判断を急がないことが大事なポイントです。

「反省会」になってしまう1つの要因に、気づきが欠けたリフレクションになってしまうことがあげられます。「ここがうまくいかなかったから、改善しないといけない」などと、安易にできごとを意味づけしてしまうと、十分な気づきが得られないリフレクションになりかねません。

本連載の第1回でも、コルトハーヘンのALACTモデルでは「本質的な諸相への気づき」をいかに深められるかが肝であると紹介しましたが、気づきを得るにはまず、実践の中で起きているさまざまなできごとを見えるようにすることから始めます。見えるようにしてから、そのできごとの背景にある人の思考や感情、さらに深くにある価値観をさまざまな角度から探りながら、できごとの意味づけをしていきます。

認知心理学者の佐伯胖氏は、言葉による反省ではなく、ものごとをきちんと「見る」意味も含まれる「見直し」がリフレクションの訳語に適切な言葉だと述べています。このように捉えると、リフレクションの訳語は「反省」ではなく「見直し」の方がその本質を示していると言えます。

誤解(2)リフレクションは過去のことを考えるものである

リフレクションは、「ふり返り」「省察」などと言われることからも、過去に目を向けるものと捉えられがちです。もちろん、過去に経験したできごとについて扱いますが、視点を常に過去に向けていてよいものではありません。

「今・ここ」の視点

本連載の第1回で、自分が経験したできごとについて、その場で主体的に動いていた自分自身をリフレクションの対象にする「メタ・リフレクション」に触れましたが、「過去」の自分について考える「今」の自分が何を感じているのか、「今・ここ」の視点も重要となります。

リフレクションの対象となるのは、過去と現在の2つです。過去のできごとやそのときの自分の思考や感情は変わりようのない事実です。例えば、「プロジェクトの成果報告をしたら、上司に結論がよくわからないと言われてしまい、失敗して落ち込んだ」など、まずは過去の事実として何があったのかをしっかり受け止めることは大切です。しかし、リフレクションを過去の視点だけで終わらせてしまっては不十分です。過去のできごとと過去の自分が考えたことに対して、「今」の自分が何を思うのか、「今・ここ」の視点でもう一度リフレクションすることで、未来へつながるリフレクションになっていくのです。前述の例でいうと、「成果報告が失敗した」と感じた過去の自分のことを今の自分がどう感じているのか?そこにしっかり向き合うことが必要となります。過去と現在の自分を比較して、そこにどのような違いがあるのかを考えたり、経験したできごとが一体何だったのか、「過去」の意味を「今」吟味することで、さらにこの先の「未来」へ目を向けていきます。リフレクションは未来志向のものなのです。

このように、過去と現在の2つの視点で深いリフレクションをしていく上で、経験したことの意味を一歩ずつ深めていくために、さまざまな問いかけを活用しながら吟味していくことが有効です。リフレクションにおける問いかけのポイントはまたの機会に紹介したいと思います。

実践の文脈に沿ったリフレクション:「リフレクション・イン・アクション」の再解釈

実践を通して熟達する専門家像を提唱したドナルド・ショーンのリフレクション論は、行為中に行うリフレクションのことを「リフレクション・イン・アクション」、行為後に行うリフレクションのことを「リフレクション・オン・アクション」のように、行為中と行為後とを対比して言われることが多々あります。しかし、認知心理学者の佐伯胖氏は近年「リフレクション・イン・アクション」とは、必ずしも行為をしている最中のことだけを指すものではないというリフレクション・イン・アクションの再解釈をしています。

例えば、事業開発プロジェクトの中で、試作品をターゲット顧客に使ってみてもらうユーザーリサーチのことを考えてみましょう。ユーザーリサーチを実施している最中に、被験者の行為に対して「驚き」を感じたり、違和感を感じたことがあれば、気になったことを被験者に質問したりしながらその場の判断で被験者の行為をさまざまなアプローチで考察していきます。このように、行為中にさまざまなことを感じとり、吟味し、とっさの判断でその場を切り抜けていくことは「リフレクション・イン・アクション」にあたります。

このとき、ユーザーリサーチを実施した中で印象的だった被験者の行為(発言)について、リサーチ後に事業コンセプトに照らし合わせて「ユーザーがもっている価値観に対して、自分たちがやろうとしている事業はマッチすると言えるだろうか?」など、さまざまな観点からリサーチ時の被験者の行為を吟味して考察することも「リフレクション・イン・アクション」にあたるのです。

実践の文脈に沿って行為について吟味するのであれば、行為のあとでリフレクションをする場合であっても「リフレクション・イン・アクション」にあたるという解釈になります。前述の例でいうと、ユーザーリサーチ時の被験者の行為について「被験者のこの行為にはどういう意味があったのだろうか?」などと吟味することは、ユーザーリサーチ実施後ではありますが、視野を広げて捉えれば事業開発プロジェクトという実践の文脈に沿った行為にあたるものであり、それを考えるのがユーザーリサーチ中ではなくリサーチ後であっても、「リフレクション・イン・アクション」になります

つまり、「いつリフレクションをするか?」という時間の問題ではなく、「行為がまさに実行されていることに焦点を当てる」というリフレクションの対象範囲に注目することが大事だということです。

そのとき何を考え、何を感じながら行為を行っていたのかをリフレクションしている「今」の自分が何を感じながらその状況を読みとっているのか。実践の文脈の中にある行為を、時間の枠組みを超えてメタ的にリフレクションの対象と捉えることが大事だと捉えることができます。


一方で「リフレクション・イン・アクション」と対比する形で登場することが多い「リフレクション・オン・アクション」についても、「行為の後に行う省察」と捉えない解釈があります。

例えば、ユーザーリサーチ時に被験者が想定外の行動をとったできごとについて「被験者のこの行為にはどのような意味があったのだろうか?」と吟味することは、この事業開発プロジェクトの実践の文脈に沿っているので「リフレクション・イン・アクション」です。

ここで例えば「想定外の行動の方が印象に残るのは、なぜなのだろうか?」というように、このリサーチの文脈と関係なく「一般的な想定外の行動」の意味を吟味することは「リフレクション・オン・アクション」になります。これは、リフレクション・オン・アクションを「行為の後の省察」ではなく、「行為についての省察」と捉える考え方です。このように捉えると、「リフレクション・イン・アクション」を行っているときに同時に「リフレクション・オン・アクション」を行うこともあるということになります。ただし、行為中でも行為後でも、特定の行為を実践の文脈から切り離して一般的な観点から価値判断をするのは適切ではないとショーンは警鐘を鳴らしています。「リフレクション・オン・アクション」だけで物事を判断せず、実践の文脈に沿って物事を捉える「リフレクション・イン・アクション」を行うことが重要と言えるでしょう。

これらの再解釈に沿って、「リフレクション・イン・アクション」と「リフレクション・オン・アクション」​​を整理すると、以下の図のようになります。

誤解(3)リフレクションをやれば、人や組織が変わる

リフレクションをすると、多くの気づきや学びが得られるという話を聞くと、自分自身の成長のため、もしくは組織の人材育成のために活用しようと考えることは自然な流れでしょう。このように考えると、「リフレクションをやれば、社員が成長する!組織文化を変えられる!」などと過度な期待をしてしまう場合も少なくありません。しかし、リフレクションという営みによって可能なのは、”reflect”という言葉の意味からしても、自分自身を「映し出す」ことであり、あくまでリフレクションの対象とするできごとを「見えるようにする」ことまでです。

リフレクションを実施した結果として、人の価値観の前提が問い直されるような大きな気づきが得られ、考え方や普段の行動の変化につながる場合もありますが、リフレクションという営みが直接的に人を変化させるものではありません。リフレクションは、他者に対して何か指摘をすることで、他者を変化させるツールではありません。他者の発言や問いかけが変化へのきっかけになることはあっても、あくまで自分で考え、自分で気づくことによってしか、人の価値観や行動の変化は起こりません。

特に、チームでリフレクションをする際は、何のためにリフレクションをするのか、リフレクションをすることで何がわかるのかなど、実施する目的や効果について期待値を合わせておくことが効果的にリフレクションを活用するためのポイントになります。リフレクションを実施する意味を一人ひとりが納得している状態でリフレクションの場に臨むことで、受け身な姿勢ではなく、経験したできごとに対してしっかり自分で向き合う態度が醸成され、自分がやってきたことの意味を自分で捉え、気づきを得ていくことに繋がりやすくなります。


今回は、リフレクションを実施するときにありがちな誤解を3つあげながら、リフレクション実践のポイントをご紹介しました。リフレクションの目的や期待値を個人や組織で今一度見直し、過去にとらわれない未来志向のリフレクションを実践してみてください。

参考文献
ネットワーク編集委員会 編, 授業づくりネットワークNo.31―「リフレクション大全」, 学事出版, 2019
坂田哲人, 中田正弘, 村井尚子, 矢野博之, 山辺恵理子 著, 一般社団法人学び続ける教育者のための協会(REFLECT) 編, 「リフレクション入門」, 学文社, 2019
佐伯胖, 刑部育子, 苅宿俊文 著,「ビデオによるリフレクション入門: 実践の多義創発性を拓く」, 東京大学出版会, 2018

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