探究とは、専門性の枠内に閉じ込められない横断的な活動である―太刀川英輔さんに聞く創造力の育み方

探究とは、専門性の枠内に閉じ込められない横断的な活動である―太刀川英輔さんに聞く創造力の育み方

CULTIBASE編集部

2021.06.08/ 13min read

個人の創造性の仕組みを、生物学における「進化」の知見から読み解く話題の新刊『進化思考』。豊かな発想を生み出す創造的人材の育成に力を入れたい企業に大きなヒントをもたらす一冊として、発売直後から大きな注目を集めています。

個人の創造性を育む「進化思考」とは何か?:「適応」と「変異」による創造のパターン

今回CULTIBASEでは、編集長・安斎勇樹による進行のもと、ゲストに『進化思考』の著者・太刀川英輔さんと、『問いのデザイン』著者の塩瀬隆之先生をお迎えし、『進化思考』の理論や思想を『問いのデザイン』のノウハウを駆使して聞き出すライブイベントを開催。「『進化思考』を読み解く『問いのデザイン』」と題されたこのイベントでは、書籍の根底に理論や思想から、出版までの裏話、子どもの創造性を育むための今後の教育のあり方など、幅広いトピックについて熱く語り合う時間となりました。

<登壇者紹介>
太刀川 英輔さん(画面下)
NOSIGNER代表、進化思考家、デザインストラテジスト、慶應義塾大学特別招聘准教授。書籍『進化思考』『デザインと革新』著者。

塩瀬 隆之さん(画面右上)
京都大学総合博物館 准教授。『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』著者。太刀川さんとともに2025年大阪・関西万博日本館基本構想有識者として参画。

安斎勇樹(画面左上)
CULTIBASE編集長。株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO。東京大学大学院 情報学環 特任助教。書籍『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』『ワークショップデザイン論―創ることで学ぶ』『リサーチ・ドリブン・イノベーション:「問い」を起点にアイデアを探究する』著者

当日を迎えるにあたって、安斎と塩瀬先生は、できる限り多くの情報を太刀川さんから引き出せるように、あえて「問い」ではなく「質問」だけを投げかける”問わずの誓い”を立てていました。

「何を訊こうか考えれば考えるほど、質問ではなく問いになってしまう」と言いながら、安斎と塩瀬先生が事前に用意した「質問」はこちらの6つ。

さらに安斎から「嫌いな奴が書いた本だと思って、めちゃくちゃに批判するとしたら?」という問いかけが加えられ、これらの質問をもとにパネルディスカッションを行いました。

目次
設立したばかりの出版社、『海士の風』をパートナーに選んだ理由
子どもに「進化思考」の一部をスキル継承するとしたら?
『進化思考』をあえて批判するとしたら?
創造の思考過程を支える“目利き”を磨く方法

設立したばかりの出版社、海士の風をパートナーに選んだ理由

『進化思考』は、2019年に島根県海士町を拠点に設立されたばかりの出版社、海士の風による初の単行本として刊行されました。まずは塩瀬さんから、「これは絶対質問だと思うから」という理由で選ばれた、「なぜ書籍のパートナーに海士の風を選んだのか?」というテーマからスタートしました。 

太刀川 もともと僕は進化思考を様々な場所で教えていたのですが、そんな中で「コクリ!」というプロジェクトに参画していたんですね。地域を変える300人のイノベーターが集う実験的なコミュニティに進化思考を教えていたのですがそのコミュニティの中で英治出版の代表の原田英治さんと、海士の風の代表になる阿部裕志さんが、「海士町に出版社を作るんだ!」と熱心に話していました。「海士町でやるから「海士(アマ)ゾンジャパンだ!」とか言って(笑) そう言ったご縁で彼らが「絶対に最初の本は『進化思考』にしたい」と言ってくださったんです。

実はその前にも別の出版社からオファーをいただいたこともあったのですが、その時は僕の中でまだ準備ができていませんでした。今回出版を決めたのは、タイミングが合ったというのもあるけれど、僕自身が「世界は辺境から変わる」という信念を持っていて、「小さい者がデカい何かを変えるところが見たい!」と思ったからでした。隠岐諸島にある海士町は東京から8時間かかる離島。まさに日本の辺境ですよね。ある意味クレイジーな話ではあるものの、それを英治出版という実績のある出版社がサポートしてくれるのであれば、僕や阿部さんのような小さいチャレンジャーでも関係性の力によっていろんな人に広く届けられるのではないか、と思ったんです。

塩瀬 僕は『進化思考』というからには、ガラパゴス諸島を研究のきっかけとしたダーウィンに倣って島からスタートしたいって理屈かなと思ってたけど(笑) 

太刀川 確かにそうですね(笑) なんかそういうの好きだ、ってことだと思います。僕が海士町がいいなと思っている理由の一つに、海士町が世界地図みたいな形をしていることがあって。

太刀川 ……っぽくないですか?(笑) 

安斎・塩瀬 たしかにね(笑)

太刀川 ヒマラヤっぽい位置に火山があって…(笑) だから、海士で広がるなら、きっと世界で広がるんじゃないかとも思ってます。フラクタル構造というか、縁起がいいな、って。

「まずは質問らしい質問を..」ということで選ばれたテーマでしたが、太刀川さんの大事にしている思想や人柄が垣間見える回答をいただいたことで、徐々に場の熱量が上がってきているように感じました。ディスカッションはその後、『進化思考』の核心に迫るものへと移っていきます。

子どもに「進化思考」の一部をスキル継承するとしたら?

『進化思考』では、生物の進化と同じように人間の頭の中で「適応」と「変異」が交互に行われることで創造性が促進されることが説明されています。また、「適応」には4種類(「解剖」「系統」「生態」「予測」)、「変異」には9種類(「欠失」「融合」「交換」「擬態」「増殖」など。)のパターンが存在します。次の質問は、「太刀川さんが自身のお子さんにこのうちのどれか一つを自由にスキルとして受け継がせることができるならどれを選ぶか?」というテーマが選ばれました。

太刀川 子どもはもともと「変異」が得意で、備わっているものだと思います。他方で、僕自身も難しいと思っているけれど、一番重要なのは「生態」への適応だと考えています。物事の因果関係がどのように繋がっているのかを、遠くまで慮ることですね。例えば、子どもは手に持ったモノを勝手に分解しようとすることはあっても、ゴミを捨てたあとに、それがその後どうなるのかを追いかけて想像するのは難しいですよね。こういった「生態」的な観点はこれからの時代には絶対に必要なもので、補うための教育が再発明されなければならないと考えています。

塩瀬 今の学校教育では、カリキュラムを作っている大人は生態的に考えて体系化しているけれども、習っている子どもの目線ではその体系を見渡せていないですよね。個別の教科をバラバラに受けているように感じてしまう。各教科が体系化されていることに気がつくためには、子どもたち自身が、自分で編集や体系化をやってみて、できるようにならないといけないと思うんやけど。

太刀川 子ども向けに進化思考を教える一環として、最近よく進化思考のコンセプトに沿った絵本を探しているんです。「解剖」的な絵本とか。それで、学校の先生と話していてよく盛り上がるのが、進化思考は構造がシンプルなので、そのパターンさえ理解すれば、子どもたちが本棚から自分で本を探すこともできるはずだと。図書室にある本を、生徒たち自身が進化思考的な分類に基づいて整理し直して、進化思考の棚を作るとか、できたらいいなと考えています。

例えば社会人になってエンジニアとして働き始めたとして、数学的な知識しか使わないのかとい言えば、そんなことはないですよね。現状は職能や専門性が国語・算数・理科・社会を起点に分かれてしまっている。教える側の専門に沿って分けてるんです。けれども、そんなふうに専門性を分けてしまうと、あらゆる課題に共通するはずの探究の仕方がわからなくなってしまう。先ほど話した「解剖」「生態」「系統」「予測」は、いわば人類の科学史が磨いた4種類の本質的な探究の方法を示しているんです。

塩瀬 近年の教育では探究が大事だと言われていて、カリキュラム化も進んでいるけれど、「日本史探究」「国語探究」「数理探究」といったふうに、結局専門性に”探究”をくっつけてしまっている。本来横断的な活動であるはずの探究が、専門性の枠内に閉じ込められてしまっている。

太刀川 お魚やお肉の知識だけではなく、料理の仕方こそ教えないといけないですよね。

安斎 専門知が各論として分断されているのは、学校教育もそうですが、組織論や医学でも同様の問題が起こっていますよね。組織や人間を部分的に切り取って語ってしまうことがいいのかどうか。これは一つの参考ですが、僕の好きなジョン・デューイという哲学者は、”理想の学校モデル”としてこのような図を提案していて、これがすごい素敵なんです。

塩瀬 図書館が真ん中にあるんだ。めっちゃええね。

安斎 そうですね。一階の中央にある図書館をハブにして、織物室・作業室・食堂・台所が配置されている。理論的な配置図ではあるんですが、2階は博物館が中心にあって、教科ごとに分断されない構造になっている。この考え方にあるような、モノや人の繋がりを編んでいくような考え方が、進化思考でいうところの「生態」ということですよね。

太刀川 この提案はめっちゃいいですね。「生態」以外の3つの探究の手法にしても、例えば「系統」によって科学史を探究したり、「解剖」的に中身の仕組みに精通したりと、一度手法をやってみて、それが何にでも使えることを学んでもらえたらと思っています。僕にとっては、五教科をアップデートするというのが進化思考の裏テーマですね。今まで永きにわたって教え方を間違えていたのだとすれば、それはいつか誰かが変えるのかもしれない。数十年後にアップデートされた五教科が、「解剖」「生態」「系統」「予測」「変異」になっていてほしいと本気で思ってます。

『進化思考』をあえて批判するとしたら?

続いて編集長の安斎が、「天の邪鬼な質問なんですけど…」と言いながら掲げたのが、「めちゃくちゃ嫌いな人が書いたと思って、『進化思考』をあえて批判するとしたら?」というテーマでした。その質問に対して、太刀川さんは「書きながら、(どんなふうに読まれるのか)想定はものすごくしていた」と話します。

太刀川 『進化思考』って、すごく誤解を生みやすいテーマなんですよ。言ってしまえば、進化論自体が200年ぐらい炎上し続けているコンテンツなので。

塩瀬 神への冒涜から始まるわけやもんね。

太刀川 そうです。でもそれは冒涜ではなくちゃんと科学なのだというために、ものすごくたくさんの科学者が苦労をしてきたわけです。そして、さらによくないのが、進化論って優生学のようなかたちで誤用されてしまうんです。科学的ではない方法、例えば政治的意図で誤用されてしまうなど、非常に炎上しやすいテーマなんです。なので、(執筆にあたって)最初に考えたことは、「生物学者が読んだとしても、否定のしようがない本にしよう」ということでした。

太刀川 「創造性は、人間という生物が起こしている自然現象だ」という信念が僕の中ではあります。なので、この本が生物学的に矛盾がないことはとても大事なんです。同時にそれはすごく高いハードルを自分に課したことになるのですが、新しい創造性教育の根幹を目指すには、そうありたい。それに、僕が嫌いな人であれば非科学性をまっさきに突っ込むだろうし、まず科学好きの僕が、デザイナーの僕に一番ツッコミを入れてる存在でありたいと。僕は創造性という自然を探究したかったので、そういう科学的な客観性を備えた本にしようとは思っていました。

あとは、本の中では進化論の歴史なども書いていますけれども、そうした歴史的文脈におけるこの本の位置づけも明確にしておきたいという思いはありました。創造性教育としての位置づけも当然大事にしながら、進化論にまつわる一連の議論の中で、この本はどこにポジショニングされるものなのだろう、と。実際にこの本を作る中でも、生物学に関わる先生方と意見交換をしながら、理論を洗練させていったところもあります。こう徹底したって、批判する人は細かく読まずに批判するかもしれませんけどね(苦笑)。

創造の思考過程を支える“目利き”を磨く方法

続いて選ばれたテーマは、実際に『進化思考』を意識しながら創造力を高めようとした時にポイントになるであろう、”目利き力”に関する質問でした。

安斎 変異と適応の往復運動というダイナミックな理屈はわかるのですが、変異的で、一見馬鹿げたたくさんの発想を取捨選択したり、変異のパターンを選択したりする目利き力を磨くにはどうすればよいのでしょうか?

太刀川 『進化思考』の書籍終盤に「自然選択のチェックリスト」を載せています。これは生物の自然選択でどのような選択圧が発生しているのかをリスト化したものなんですけど、世の中に残る創造を生み出すための観点となる問いでもあります。これらの問いに腹落ちして探究しているかどうかと、目利き力はほぼ一致すると僕は思っています。

太刀川 あと難しいのが、質を捉える感性は身体的なので暗黙知的になりやすいですよね。でも、もし目利き力を磨きたいのであれば、感覚的な良さを言語化して、客観することが効果的だと思っています。良さを良さとして捉えるのはすごく難しいですが、良さを一度言語化して客観視することで、良さの質を追いやすくなると思うんですよ。あとは、探究の中でも、解剖した後、生態系の中でなぜそのような機能が備わっているのかを理解しようとする上でも、まずはそのWHYを言語化することも、良さの探究の中ではすごく重要な気がしています。

安斎 なるほどです。僕もこの目利きをセンスの問題にしたくはないと、すごく共感するところです。言語化しにくいのは間違いないけれど、それでも言語化しようとするところに大事なポイントがある気がしますよね。塩瀬先生の専門領域でもありますが、例えばアートを鑑賞して対話する対話型鑑賞などにも通ずるところがありそうです。

塩瀬 そうですね。アートを言葉で語ろうとすること自体が、野暮といえば野暮ではあるんだけど、言葉にすることでまた見え方が変わる。言葉という違うメディアに置き換えることで見方が変化して、見方が変わったことでまた違う気づきが生まれる。そんなふうに自分の中で創造的な対話のサイクルを回していくためにも、まずは言葉にしにくいことで諦めないことが大事かなって。特に言葉は僕たちにとってすごく使い勝手の良いツールなんやろね。”もあっ”としたものは、”もあっ”としたままに記述することもできるし、具象化することもできる。具象化するとそれがまた認識のズレを生んで、新たな気づきのきっかけになる。そんなふうに行き来する力が僕らには備わっているのだとすると、それはやっぱり積極的に使えたほうがいい。

安斎 デザインやプロダクトなどでも、良さを感じていないユーザーに対して、今回のチェックリストを意識しながら、一緒に鑑賞して説明してみるとかもトレーニングとして良いかもしれませんね。


鼎談では他にも、「(もし書くとしたら)次の本はどうする?」や、「(関係性の近い人にだけあらかじめ配布された)試作版と、最終版と比べて大きく変化したところは?」などの質問から、様々な話題が展開されていました。

また、イベントの最後には太刀川さんから、「臆せずに試行錯誤を繰り返せば、進化することができる。それがこの本で僕が書いたことです。みなさんが手元で起こしたい変化・進化をどこかで助けてくれる本だと思っています」と、書籍にこめたメッセージが語られました。


本対談のフルでのアーカイブは以下からご覧いただけます。
※CULTIBASE Lab会員登録が必要です(初月会費無料)。

『進化思考』を読み解く「問いのデザイン」
CULTIBASELabの紹介

Most Popularランキング トップ5

Tag人気のタグ

タグ一覧へ
CULTIBASE編集部がテーマごとに
動画・記事・音声コンテンツを
厳選してまとめました。

コンテンツパッケージ

CULTIBASE編集部がテーマごとに動画・記事・音声コンテンツを厳選してまとめました。

もっと見る