日常に学びを活かすリフレクションのコツ:連載「ワークショップ・ファシリテーションのヒント」第6回
日常に学びを活かすリフレクションのコツ:連載「ワークショップ・ファシリテーションのヒント」第6回

日常に学びを活かすリフレクションのコツ:連載「ワークショップ・ファシリテーションのヒント」第6回

2021.02.28/20

本連載「ワークショップ・ファシリテーションのヒント」では、「明日の実践ですぐ使える」ことをコンセプトに、実践に役立つちょっとしたファシリテーションのヒントを紹介します。

オンライン下でもプログラムが効果的にワークする場づくりのコツ(連載「ワークショップ・ファシリテーションのヒント」第5回)

第6回となる今回は、「日常に学びを活かすリフレクションのコツ」をお届けします。

「非日常性」は、ワークショップにとって欠かせないエッセンスのひとつです。ワークショップでは、普段とは異なるものの見方に触れられる体験を通じて、非日常の視点から日常を捉え直し、自分たちの価値観や振る舞いを見つめ直すことで、新たな気づきや学びを生み出していきます。こうしたユニークな学びのあり方こそ、ワークショップが今日まで様々な領域で重宝されてきた最大の理由であり、醍醐味でもあります。

また、この「魅力的な活動とその後の日常にも活きる学びをいかに接続させるか?」という問いは、ワークショップ設計者がもっとも頭を悩ませるポイントでもあります。特に教育領域での実践など、学びの対象がある程度明確化されているワークショップの場合は、たとえ魅力的なワークを設計し、参加者が夢中になってそれに取り組んだとしても、目的とする学習が促されていなければ、「楽しかったけど、何のためにやったのかわからなかった」といった事態になりかねません。

こうした非日常的なワークと、日常に活きる学びを接続させる役割を担うのが、多くのワークショップの終盤で行なわれる「リフレクション(省察)」です。リフレクションでは、その日ワークショップの中で行なってきた体験を振り返り、自分なりの学びとして意味づけたり、気づきを言語化することで、今後の生活に活かす時のイメージを固めていきます。

リフレクションにも様々な形式が存在します。手軽なものとしては、その日得られた学びや気づき、感想などを一人一言ずつ話してもらったり、ワークシートに次のアクションを記入してもらったりする方法がよく知られています。他方で、より大掛かりなものとしては、リアルタイムビデオリフレクションムービーと呼ばれる、ワークショップの様子を撮影した映像記録をその場で編集した数分間のムービーを上映する方法もあります。この方法では、参加者たちが活動に取り組む自分たちを映像による客観的な視点で振り返り、新たな気づきを促していきます。

リフレクションはワークショップの学習成果を左右する重要な活動ですが、それゆえに注意も必要です。たとえば、先ほど紹介した参加者一人ずつに気づきや学びを語ってもらう方法にしても、メインワーク終了直後は多くの参加者がある種のもやもやや葛藤を抱えていることが多く、そうした中で急くように言語化を求めてしまうと、せっかくの気づきや学びが矮小化されて記憶されてしまうことがあります。ファシリテーターとして、こうしたリスクを最大限回避しながら、参加者のこれからの生活にとってより良い学びを残せるような設計と進行を心がけることが肝要です。今回の記事では、こうしたリフレクションにおけるファシリテーションのヒントを「状況」「行動」に分けて4つ紹介します。ぜひ参考にしてみてください。

■今回紹介する4つのヒント
「全体での円座を効果的に使う」
「モヤモヤを問いに変換する時間を設ける」
「リフレクションでは個人の状況に沿った学びに繋がる問いや課題を設定する」
「ワークショップ参加者のみのオンライングループを形成する」

  

「全体での円座を効果的に使う」

【状況】
プロセスや環境をデザインし、参加者が学びやすい雰囲気をつくることは、ファシリテーターの重要な役割の一つです。また、ワークショップの最中も、ワークの内容に合わせて、場の雰囲気を柔軟に変化させる振る舞いが求められます。たとえば、メインワークから振り返りのワークに移行する際に、これまで活発な雰囲気の中でグループワークに取り組んできた参加者に対して、いきなり口頭で「落ち着いて振り返ってみましょう」と指示を出したところで、その活動に適した雰囲気がつくられていなければ、参加者がすぐに気持ちを切り替えるのは難しいでしょう。

【行動】
ワークに適した雰囲気づくりの一環として、参加者の座席の配置(レイアウト)を変化させると有効な場合があります。他者とともにアイデアを出し合い、検討しながら作品をつくる「共創」の雰囲気から、他者の言葉に耳を傾けて、ゆったりと自己と向き合う「対話」の雰囲気へと移行していく場合、参加者全員がまるく円の形をつくって座る「円座」という座り方を用いると良いでしょう。円座ではファシリテーター自身も円の中に入って対話に参加するため、フラットな目線で話し合おうとする姿勢を、ファシリテーター自身が率先して示すことが可能となります。そのため円座は、最後の振り返りのワークだけでなく、ワークショップを開始する際の雰囲気づくりにも効果的です。

 

「モヤモヤを問いに変換する時間を設ける」

【状況】
ワークショップでは、固定観念に揺さぶりをかけて、視野を広げながら新しい何かを共創したり学んだりすることを基本的な学習スタンスとしています。また、その過程において、容易に解決することのできないジレンマを抱えたテーマを扱うことも多くあります。そのため、ワークショップを終えた時点で、違和感やモヤモヤした気持ちが参加者の中に残ることがあります。そうしたモヤモヤは決してネガティブなものとは限りません。モヤモヤがある程度時間が経ってから気づきや学びへと変わっていくことも多いため、むしろ重要な要素だと言えるでしょう。しかしながら、ただ漠然と抱えている程度のモヤモヤでは、日常に戻った際に忘れられてしまうことが多いのも事実です。

【行動】
モヤモヤした気持ちを気づきや学び変えていきやすくなるための工夫として、ワークショップの最後に、参加者の一人ひとりが現時点で抱えているモヤモヤと向き合い、問いの形に変換する時間を設けると良いでしょう。参加者自身がどんなアイデア(意見・価値観)と出会い、関心を持ち、深めたいと感じたのかを振り返りながら、問いとして言語化することによって、参加者は思考を深める焦点を得ることができる結果的に、ワークショップを終えた後も継続的にそのテーマについて考え続けることが可能となります。

 

「リフレクションでは個人の状況に沿った学びに繋がる問いや課題を設定する」

【状況】
学習に重きを置く実践を中心に、多くのワークショップではメインワーク後に「リフレクション(振り返り・省察)」と呼ばれる、得られた気づきや学びを言語化するワークが設けられます。また、言語化した内容を一人ずつ発表するケースもよく見かけます。しかしながら、リフレクションは、ワークショップ終盤の限られた時間の中で素早く、なおかつ他の人にもわかるように言語化する必要が生じるため、結果的にワークショップをせずとも思い至るような一般論的な学びが書き出され、発表されてしまいがちです。そのような発表では、他の人にとっても大した学びにならないだけでなく、本人にとっても語っているうちにワークショップの学びが矮小化されてしまう危険があります。

【行動】
リフレクションでは、できる限りその人のパーソナリティや固有の状況に沿った学びを得てもらえる工夫が重要となります。例えば、漠然とワークショップで得た学びを言語化してもらうのではなく、今回のワークショップで得たことを活かした具体的な行動や台詞、また、なぜそれが大事だと思うのかなど、個別具体的な状況や認識に紐づくように言語化を促す問いや課題の設定を意識すると良いでしょう。

たとえば、具体的な項目を記したワークシートの活用が効果的です。記入したワークシートの発表の方法に関しても、それぞれのワークシートを壁に貼り出して眺めてもらったり、ワークショップ終了後に別途オンライン上で共有したりすることで、参加者が自分のペースで他者のアイデアをじっくり咀嚼できるようになります。その結果、他の人の多様な学びに触れられる機会を作るとともに、自分自身も現場で活しやすいかたちで学びを獲得につながります。

 

「ワークショップ参加者のみのオンライングループを形成する」

【状況】
ワークショップでは、多くの場合、初対面の人々で構成された十数〜数十名グループで実施されます。また、多様なもののの見方に触れることで学びを深めていくワークショップの性質上、初対面の人同士がお互いの価値観をどれほど深く知り合えるかは、得られる学びの質を大きく左右します。しかしながら、数時間のワークショップを一度行うだけでは、どうしても他の参加者全員と面識を持つことは難しく、参加者間にしろ、参加者とファシリテーターの間にしろ、関係性が希薄なまま解散となってしまうことも少なくありません。その結果、例えば個別に質問したいことのある参加者がいたとしても、ワークショップ終了後のファシリテーターの状況次第では難しい場合も多く、学習の機会損失にもつながりかねません。

【行動】
懇親会の開催なども有効ですが、より長期的に関係性を維持するための手段として、ワークショップ参加者のみを招待したオンライングループを形成すると良いでしょう。ツールとしてはFacebookやLINEなどのグループ機能が便利です。グループ内で、ワークショップ中に生まれた疑問や新たなアイデアを募り、ファシリテーターがそれらにコメントを返すなどのコミュニケーションを行うことで、参加者の継続的な学びを促すことが可能となります。関連する他の情報を気軽に投稿できるのも大きな利点です。ただし、こうしたオンライングループへの参加に抵抗を示す方も一定数いることには注意する必要があります。あくまで参加は任意としたうえで、参加者の自主性にゆだねる形をとると良いでしょう。

今回は日常に学びを活かすリフレクションのコツというテーマでワークショップ実践におけるちょっとしたヒントを紹介しました。ぜひ次回のファシリテーションで試してみてください。

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