「ファシリテーション」を構成する変数とはなにか?場の文脈と技法の最適な組み合わせを考える
「ファシリテーション」を構成する変数とはなにか?場の文脈と技法の最適な組み合わせを考える

「ファシリテーション」を構成する変数とはなにか?場の文脈と技法の最適な組み合わせを考える

2021.01.12/9

言葉にならない思いを引き出す「場」、参加者を巻き込んで議論を活性化する「技術」──一口に「ファシリテーション」と言っても、人によって思い浮かべる対象は異なるのではないでしょうか。

ファシリテーションが行われる場は、会議、ワークショップ、研修、日常のコミュニケーションなど多岐にわたります。利用目的も、合意形成、相互理解、情報共有、アイデア発想などさまざまです。

ファシリテーションはいろんな場面に浸透していますが、CULTIBASE編集長である安斎は著書『問いのデザイン』において、「広義のファシリテーションとは、問題の本質を捉え直し、解くべき課題を定義し、課題解決のプロセスに伴走する営みを指す」と語っています。

CULTIBASE Labの「ファシリテーションゼミ」は、こうしたファシリテーションの可能性を探究するためのゼミとしてスタート。第1回目では、主催者であるミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)和泉裕之と渡邉貴大が、ファシリテーションが活きる場を「領域・場面・目標」に分けて探りました。


創造的対話をファシリテーションする方法を探究する

ファシリテーションゼミは、「創造的対話をファシリテーションする方法論を探究すること」を目的としています。創造的対話の定義を説明するなかで、“会話”の4つの領域についての共有からスタート。

和泉「U理論の提唱者であるC・オットー・シャーマー博士は、会話を4つの領域に分けてまとめました。それをアダム・カヘンが編集したモデルを、さらに私がアレンジして図にしたものがこちらです。

“儀礼的会話”は、たとえば初対面の場面で本音を隠して交わす会話です。会話を重ねて互いの本音を知ると、意見をぶつけあう“討論”になります。討論の後は、“探究的対話”と“創造的対話”という対話の領域に入ります」

対話の領域も、2つに分かれています。探究的対話と創造的対話とでは、どのような違いがあるのでしょうか。

和泉「探究的対話は、互いの主張や価値観を押し付け合うのではなく、自分の主張は一旦脇に置いて、相手の価値観や背景にある考えなどを探っていきます。

お互いの大切にしている価値観を認識したうえで、共通の目的に向かって新たな意味やアイデアを創発する対話が創造的対話です。会話の領域を変えていき、創造的対話までたどり着くのはハードルが高いですが、一度ここに到達できた人は再現しやすくなると言われています。

ただ、創造的対話に至る方法についてはU理論等でも触れられていますが、抽象的な表現が多く、僕たちも探究しているところです。このゼミでは、次のような問いを追いかけながら、創造的対話をファシリテーションする方法論を探究したいと考えています」

和泉からは、創造的対話をファシリテーションするために、問題を抱える当事者へのケアやカウンセリングであるナラティブアプローチ、学習環境デザイン、遊びやプレイフルなど、ファシリテーションゼミで探究していく幅広いテーマについて共有されました。

“ファシリテーションの場”についての理解を深める変数

では、ファシリテーションはどういう場面で必要になるのでしょうか。

渡邉からの「みなさんにとってのファシリテーションとはなんですか?」という呼びかけに対して、「参加者全員を巻き込んで議論が活性化していくイメージ」「その場にいる人みんなが主役になる」「プログラムデザインを適用する行為」「その場にいる人の持ち味をいかす触媒役」など、参加者からはさまざまな意見が寄せられました。

渡邉は、参加者からの意見を受けながら、ファシリテーションには流派や型のような違いが存在し、その背景にはファシリテーションが想定する場の目的や役割の違いがあると語ります。

渡邉「これらはあくまで一例です。ファシリテーションが用いられる場は、さまざま。これらをグルーピングしてみると、下記の図のように“領域”・“場面”・“目標”の組み合わせで説明できるのではないかと考えています。これも網羅性はないですし、完成形ではありませんが、試行錯誤しながら一旦まとめたものです。これらをどう認識しているかによって、ファシリテーションの場をどこに設定しているかが変わります」

渡邉「たとえば、地域・まちづくりの領域でファシリテーションをするとします。その場合、規模が会議なのかワークショップなのか?目標が合意形成なのかアイデア発想なのか?という条件の組み合わせによって、求められるファシリテーションは異なります」

渡邉と和泉がこの整理を進める上で悩んだ点について、和泉は次のように語ります。

和泉「領域については、ワークショップに関する書籍等でも触れられています。場面については、一旦まとめていますが、時間の長さなども影響すると考えています。数十秒から数分のものもあれば、会議のように1時間〜2時間のものもある。研修やプロジェクトになってくるとさらに時間は長くなります。組織ファシリテーションが年単位で最も時間が長いですね。参加の人数の規模だけでなく、時間の長さも考えていけると、さらにファシリテーションの場に対する解像度が高まるのでは?と考えています」

図を見た参加者から「目標は“目的”なのでは?」という問いの投げかけに対して、和泉は目標という言葉になるまでの葛藤を共有しました。

和泉「目標でいいのか、渡邉さんとも議論しました。目標というのは、目的に至るまでの通過点で、小さな目標を超えるために用いられる手法が、ファシリテーションだと考えています。たとえば、目的がプロジェクトの完遂の場合、途中で情報共有や合意形成をしますよね。つまり大きな目的の中に小さな目標が入り込んでいて、その小さな目標に紐づいたファシリテーションが必要になると捉えています」

これらの言葉は完成ではなく、今後ゼミでの活動を通じて解像度を高めていくもの。整理してみての手応えについて、渡邉はこう語ります。

渡邉「ファシリテーションというものを捉えようとしたときに、領域や場面、目標といった要素を部分的に切り出してファシリテーションを考えてしまうと、なかなか認識をあわせるのは難しい。領域と規模の組み合わせによって、必要なファシリテーションは変わります。

デザイン思考のワークショップと、ワールドカフェやOST(オープン・スペース・テクノロジー)のようなワークショップでは、アプローチが異なるんですよね。合意形成か、発想か、学習かでも、求められるファシリテーションは変わるので、こうした枠組みで整理するのは一定有用かなと」

場の文脈に応じたファシリテーションの対象と技法を選択する

ファシリテーションにおける場を構成する要素を捉えられれば、適切なアプローチ方法が導き出しやすくなるのではないかと渡邉は続けます。

渡邉「ファシリテーションにおいて、どの技法を用いるかは、要素の掛け合わせに応じて選択できるのではないかと考えています。技法の一部を紹介すると、以下のような図になります。場の文脈を捉えた上で、最適な技法を選んでいかないと、ファシリテーションが活きることは難しい」

デザインの対象が、CULTIBASE編集長、安斎の著書『問いのデザイン』でも触れているような課題やプロセスであることもあれば、空間や活動などを対象とした学習環境デザインであることも。そして、ファシリテーションのイメージに近い、観察や説明、即興といった場での振る舞いや働きかけなどもあります。場の文脈に加えて、こうしたデザイン対象の見極めと、技法の選択もファシリテーションする上での変数になります。

和泉「この技法の部分だけでも、いくらでも語れちゃいますよね。これだけ変数があるなかで、どのようにファシリテーションを行っていくか?を探究していくのがこのゼミだと思うと、ワクワクしますね」

学生時代からジェンダー、家族、リーダーシップといった、普段話す機会のないテーマで対話をする場をつくるためにワークショップを開催してきた和泉。社会人になってからアートや沢登りなど身体を動かす活動を行って、参加者と振り返って学ぶ“体験学習”型の教育プログラムをつくってきた渡邉。

それぞれのバックボーンからたどり着いた「創造的対話をファシリテーションする方法論を探究する」というゼミの目的。初回は、その前提となる内容が共有されました。今後も、本ゼミではファシリテーションの方法論について探究していきます。


本イベントのフルでのアーカイブ動画は、CULTIBASE Lab限定で配信しています。

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登壇者

和泉裕之 株式会社ミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI) Manager / Dialogue Designer
1990年生まれ、静岡県出身。日本赤十字看護大学看護学部卒業後、フリーランスファシリテーターを4年間経験。2017年、株式会社ミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)の立ち上げに参画。現在は組織開発や人材育成のファシリテーターとして活動し、クライアントワーク部署のマネジメントを担当。組織風土構築、採用、オンボーディング、育成などの社内人事も兼務。

渡邉貴大 株式会社ミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI) Director / Experiential Educator
1988年生まれ、岐阜県出身。早稲田大学商学部卒業後、事業会社の人事や教育研修プログラム開発を経験。2020年、株式会社ミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)にジョイン。現在は組織開発や人材育成プロジェクトにおいて、ディレクションやファシリテーションを担当。個人では探究プロジェクト『deep diver』を主催。

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