ROIしか見ていない組織は崩壊する。競合3社の経営統合を成功させたオイシックス・ラ・大地に学ぶカルチャーづくり
ROIしか見ていない組織は崩壊する。競合3社の経営統合を成功させたオイシックス・ラ・大地に学ぶカルチャーづくり

ROIしか見ていない組織は崩壊する。競合3社の経営統合を成功させたオイシックス・ラ・大地に学ぶカルチャーづくり

2020.12.25/11

食材宅配の領域で急成長していたオイシックスは、大地を守る会、らでぃっしゅぼーやとの経営統合を経て、オイシックス・ラ・大地(以下、オイラ大地)となりました。「生鮮食品宅配御三家」と呼ばれる競合だった3社は、それぞれ社歴も、社員の平均年齢も大きく異なります。

経営統合がきっかけで、組織が崩壊する企業も少なくありません。しかし、オイラ大地は統合により組織規模が2倍以上になったにもかかわらず、2017年頭には12%弱だった離職率が現在では7%弱まで下がるなど、カルチャー統合を見事に成功させています。

CULTIBASE Lab会員向けオンラインプログラム「マネジメントゼミ」の11月の回では、オイラ大地のHR本部で人事企画室室長を務める三浦孝文さんをゲストにお招きしました。「生鮮食品宅配御三家」と呼ばれていた競合3社による統合のプロセスで、どのような課題が発生し、それをいかにして乗り越えてきたのでしょうか。オイラ大地の軌跡から、カルチャーづくりの要諦を学びます。

ゲスト
三浦孝文(オイシックス・ラ・大地株式会社 HR本部 人材企画室 室長)
大分県出身。2010年、関西学院大学を卒業。モバイル広告会社D2Cで社会人生活をスタートし、採用全般を担当。14年10月、クックパッド採用グループに入社、16年7月に制度企画グループに異動し、子会社の独立を見届けた16年12月末に退職。17年1月にオイシックスに入社、採用マネージャーとして二度の経営統合を経て、2019年10月より現職。社外では、HRコミュニティー「人事ごった煮会」の発起人、adtechtokyo 2020 公式スピーカー、カラビナテクノロジー株式会社 People’s Adviser、株式会社リクメディア 顧問を務める。

主催者
ミナベトモ 株式会社DONGURI(現・株式会社MIMIGURI) CEO/株式会社ミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI) COO
東京都出身、早稲田大学第一文学部(現文化構想学部)卒業。スタートアップベンチャーを中心に50社以上の組織構造設計や、事業立ち上げのコンサルティング、デザイン組織変革に従事。「両利き状態実現による、組織イノベーション」の実践に強みを持つ。

野島繁昭 株式会社ミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)Director / HR Strategist
早稲田大学理工学部卒業。大学卒業後、スローガン(株)に入社。同社が8名→100名に成長する過程で、京都支社の立ち上げや、全国のトップ大学の学生向けのセミナー講師・キャリアアドバイザーを務める。退職後、ミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)に参画。現在は、組織開発・人材育成プロジェクトのディレクションやファシリテーションを担当している。


社歴は倍、平均年齢も10歳上──カルチャーがまったく違う企業同士の統合

ミナベ:三浦さんは、オイラ大地の経営統合をHRとして二度経験された方です。急成長企業における経営統合を経験したHRの方はかなり珍しいので、今日はお話伺えるのを楽しみにしていました。まずは、経営統合の経緯を簡単にお話しいただけますか?

三浦:ご紹介ありがとうございます。2017年10月にオイシックスと大地を守る会が経営統合し、オイシックスドット大地に生まれ変わりました。そして翌2018年10月にはらでぃっしゅぼーやも統合し、現在のオイラ大地の組織体ができた、というのが大枠の経緯です。

僕は2017年1月にオイシックスに入社したのですが、ジョインを決めた段階では、経営統合の話は知らなかったんです。前職のクックパッドの最終出社日に、オイシックスで上司になる予定の人から「実はオイシックスと大地を守る会が経営統合します」とメールが来まして(笑)、そこから怒涛の4年弱がはじまりました。

野島:大地を守る会とらでぃっしゅぼーやは、オイシックスよりもかなり創業年数が長いですよね。

三浦:はい、創業20年のオイシックスに対して、らでぃっしゅぼーやは30年、大地を守る会は40年を超えています。

野島:となると、それぞれ個性的な企業カルチャーを持っていたことが想定されますが、組織統合を進めていくうえで、大変だった点を教えていただけますか?

三浦:印象に残っているのが、統合によって、社員の平均年齢が急激に高くなった点。当時、オイシックスが30代前半だったのに対して、大地を守る会は40代中盤でした。したがって、それまでとは比べ物にならないレベルで、社員の定年退職や育児・介護支援といった問題に一気に向き合わなければいけなくなり、人事としての課題が広がりました。

野島:どのように対応されたのでしょうか?

三浦:それぞれの会社が採用や教育、制度設計をどのように行っているのか、事前にしっかりと共有しあい、あるべきかたちを議論する場を設けました。

経営統合の発表は2016年末、実際の統合の10ヶ月前のタイミングです。その10ヶ月間で、さまざまな共同プロジェクトを立ち上げ、経営陣同士も関わりを持っていきました。経営陣がお互いのオフィスを訪れ、社員と話をする機会を作ったり、社員同士も、それぞれの部門がどのようにお互いのアセットを活用しあえるかを話し合ったりしましたね。

さらに、「新たな会社として掲げるミッションをスピーディーに達成していくために、どういった行動を取るべきか?」を社員同士で話し合い、明文化するプロジェクトを立ち上げました。その結果生まれたのが、「行動規範ORDism(オーディズム)」です。細かい文言にこだわり、一言一句をとても大切にしながら作った行動規範です。

「顧客目線」で話せる環境が、経営者の仲違いを防ぐ

ミナベ:経営統合が失敗に終わるパターンとして、経営者同士が仲違いしてしまうケースがあります。これまで自分が最大の意思決定者である環境で仕事をしてきた経営者は、利害調整や横並びの意思決定に慣れていないからです。

加えて、部門長クラスの人たちも、元の会社における派閥や人間関係から得ていた利益をリセットしていかなければなりません。こうしたケースでは、対話が順風満帆に進まないこともあると思うのですが、どのように対処してきましたか?

三浦:らでぃっしゅぼーやとの経営統合を進める際、オブザーバー制度を活用して執行役員会議に毎週出席していました。そこでの対話のプロセスを見ていて思ったのは、経営やそれに近いレイヤーにおける利害調整で大切なのは、お互いへのリスペクトだということ。

思えば、大地を守る会とのときも、リスペクトが下支えしていたからスムーズに経営統合が進んでいました。大地を守る会の創業メンバーであり現・代表取締役会長の藤田和芳と、オイシックスの創業者であり現・代表取締役社長の高島は、親子くらい年齢が離れています。しかし、オイシックスが創業した当時から年に一回くらいは会っており、お互いの良い部分を吸収し、リスペクトしあっていたそうです。

もう一つ感じたのは、施策やKPIといったファクトで語ることの大切さ。オイラ大地では、事業部のKPIと活動プラン、それに対する週次のアクションを、すべて見える化しています。ファクトをベースに議論することで、利害関係を乗り越えて、顧客や生産者の方を向いた議論が可能になります。

ミナベ:情報の透明性を高めて、経営者同士がしっかりと顧客の目線に立って話せる環境を作り出したと。お客様の利益を共通言語にできたことは、うまくいった要因の一つなのではないでしょうか。

各社のHR部門がバッティング。解決のカギは「対話」にあり

ミナベ:経営統合した際、採用部門をはじめ、各社のHR系部門の管掌領域が重複してしまいますよね。とはいえ、統合しないと管理コストがかさんでしまう。この難しさをどのように乗り越えてきましたか?

三浦:まず、各部門が過去にどのように仕事をしてきたか、そして現状どういった課題があるのかを洗い出して、見える化していました。そのうえで、新たに統合した会社がどこに向かうべきかを議論しましたね。

もちろん、うまくいくこともあれば、うまくいかないことも出てくるので、お互い知恵を持ち寄り、走りながらアップデートし続けることで対応しています。人事の領域は、一度決めたことを数年続けることが多いと思いますが、それも大切であると同時に、僕らはクオーターごとに活動を見直しています。また、評価制度に関しても、半期に2回の機会を設け、どうすれば会社のミッション・ビジョン・バリューに、目標設計、実行、そして評価がきちんと連動するのか、決めたことをやり続けるだけでなく、やりながら常にブラッシュアップすることを心がけています。

ミナベ:3社それぞれが持つ知見を吸収しあい、未来に繋げることで、強い組織になっていったのですね。HRは特に、組織に求められる役割が時代とともにどんどん変わっていくため、5年、10年と固定的に使い続けるシステムは基本的にありえないと思っています。現状の課題点を洗い出し、それに即してアップデートし続けるHR部門があるかどうかは、組織全体の強さも左右するのではないでしょうか。

三浦:そうですね。あとは、経営陣の意思も大事です。僕らの場合、経営陣が必ずディスカッションに加わってくれ、さまざまなインプットをしてくれたことがすごく大きかったです。

ミナベ:仕組みをアップデートするためには、対話が必要です。経営陣が現場との対話を重ねることなしに、新しい仕組みは根付かない。オイラ大地さんには、建設的に対話の量を増やしていく組織文化があったんですね。

施策の振り返り機会そのものが、対話のいいきっかけになる

野島:経営統合から2年以上が経ったいま、三浦さんが目下取り組んでいる課題はなにか、教えていただけますか?

三浦:現在はパートなどを含めた社員数が1,700人ほど、売上高710億円ほどですが、将来的に社員数は増え、売上高2,000〜3,000億円、その先といった規模感の会社を目指していくにあたって、属人性を排し、仕組みや制度を構築していくことにも取り組んでいます。

そのために、目指すところを明らかにしたうえで、そこに到達するための行動規範ORDismを体現する行動とはどんな行動なのか、メンバーに伝えていくことを心がけていますね。

たとえば、社内の表彰制度。表彰は半期だけでなく、週間でも取り組んでいますが、表彰事例を受賞者インタビュー形式で表彰した動画のリンクを全社メールで共有するだけでなく、社内のモニターで流れるようにしたり、社内報に掲載されるようにしたり、新入社員との接点で話すようにしたりと、社内のさまざまな場面で同時多発的に目にする機会を作っています。すると、何かあったときに「そういえばこの間、システム部でこんな事例があったな。この件はあの人が詳しそうだから聞いてみよう」と想起してもらいやすくなります。これは、縦割りではない関係性の実現へとつながっていくでしょう。

さらに、全社的に強いメッセージとして共有する価値があると判断した表彰事例は、代表の高島や他の取締役にサプライズで事例を紹介してもらい、社員を表彰してもらう機会も設けています。

ミナベ:こうした表彰制度や社内報の話は、流し聞きしてはいけない大事なトピックだと思います。人数が増えたり、テレワーク化が進んだりしている時こそ、こうした取り組みの重要度がますます高まっていくでしょう。

ただ、こうした施策はROIが算出しづらいため、無駄だと思われて取りやめになることも少なくないですよね。とくに、組織規模が500〜1,000人規模になっていくと、目標の定量化がどんどん進みます。すると、だんだん「定性的な取り組みって無駄じゃない?」といった雰囲気になってくるんですよ。

でも、定性的な判断基準がないと、組織って死ぬと思うんです。特にテレワーク化が進む中で、数値で測りきれない感覚を元に仮説を立て、改善活動をしないと「効率論」に偏重してしまい、「対話機会」が失われてくんですよね。そうなると定量評価の結果はいいはずなのに、いつの間にか組織が重体に陥ってしまうことがある。

オイラ大地さんは、経営者自身がしっかり定性的な取り組みに関与して、現場まで降りていっているじゃないですか。今日は何度か「対話」というキーワードが出てきましたが、定性的な対話の価値を決して殺さない点が、オイラ大地さんの強みだと感じました。

三浦:ありがとうございます。明確なROIを算出するのが難しかったとしても、どこかのタイミングで効果のレビューは行うようにしています。社員にアンケートを取って効果を検証し、あまり期待する効果になっていないなら、変えたり止めたりしていますね。

ミナベ:定性的な取り組みの成果を振り返ることは、対話のいいきっかけになりますよね。その取り組みが組織にとってどんな意味を持つのかを問い直す機会になるので、振り返ること自体が、組織文化の形成にすごく役立ちます。

三浦:僕は社員数200人の段階でオイシックスに入社したのですが、当時は代表の高島が現場メンバーとも話す機会も日常的にありました。人数が増えたいまは、さすがにそうした時間は一人当たりに換算すると減っていますが、それでも経営陣は、何かを伝えたい意思がある社員と対話する機会を確保しています。さらに対話は常にオープンにしていて、できるだけ多くのメンバーに伝わるように工夫し公開している。オイラ大地には、対話を大切にするカルチャーがあるんです。


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執筆:佐藤まり子
編集:小池真幸

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