組織変革は「個人の創造的衝動」から始まる─”CCM”の最初のステップ
組織変革は「個人の創造的衝動」から始まる─”CCM”の最初のステップ

組織変革は「個人の創造的衝動」から始まる─”CCM”の最初のステップ

2020.08.14/10

多くの組織が新規事業開発に力を入れると同時に、頭を悩ませています。成果を求めて新たなアプローチを積極的に導入しようとするものの、次から次に現れる手法やフレームワークに振り回され、“イノベーション疲れ”を起こしてしまっている企業も多いのではないでしょうか。

こうしたイノベーションにおける”やらされ感”を打破する動きとして、昨今、意味のイノベーションを筆頭に、創り手が実現したい社会やユーザーの新しい生活のあり方を描き、それを叶えるような製品・サービスの創出を目指す「インサイド・アウト(Inside-out)」型のイノベーション・プロセスに注目が集まっています。しかし、先述したように、やり方を取り入れるだけでは十分な成果を得ることは難しく、個人による発想豊かなアイデアも、そのアイデアを受け入れ、実行する創造性が組織になければ、あっけなく潰れてしまいます。

個人や少人数のチームから生まれたイノベーションの萌芽を潰さず育てあげ、革新的な事業として開花させるためには、どのような組織の土壌が必要なのでしょうか? CULTIBASEは、こうした問いに対する一つの答えとして、イノベーションを起こし続ける組織づくりの見取り図として、”Creative Cultivation Model(CCM)”を提唱しています。

組織の創造性を高める:Creative Cultivation Modelの提案

本動画では、CULTIBASEの全コンテンツの基盤であるCreative Cultivation Model(通称CCM)について解説を行っています。 CCMは、株式会社MIMIGURI(旧社名・ミミクリデザイン、ドングリ)が公開した創り手の創造的な衝動を起点としたボトムアップ型のイノベーション・プロセスの見取り図です。 …

動画でも解説されている通り、CCMは、主に以下6つの要素から構成されています。

1. CREATIVE IMPULSE:個人の創造的衝動
2. CREATIVE DIALOGUE:創造的対話
3. PHILOSOPHY:哲学・パーパス
4. Sense-making:意味の生成
5. Meaningful Organization:意味深い組織
6. Meaningful Product:意味深い事業 

本連載では、組織のポテンシャルを引き出すファシリテーターとして活躍していく上で、これらの要素をどのように捉えていけばよいのか、解説していきます。今回テーマとするのは、「1.CREATIVE IMPULSE:個人の創造的衝動」です。

目次
CCMにおける「個人の創造的衝動」の役割
「創造的衝動」の原型:デューイの思想
イノベーション・プロジェクトの現代病:”正解探しの病”
創造的衝動を引き出すファシリテーターの役割と振る舞い方


CCMにおける「個人の創造的衝動」の役割

CCMにおいて「CREATIVE IMPULSE:個人の創造的衝動(以下、創造的衝動)」はどのような役割を果たしているのでしょうか。その概要をつかむために、以下のイメージ図が役に立ちます。

こちらの図では、CCMを一本の“木”に見立てて描写しています。この中で創造的衝動は、一番下、地中の最深部に位置し、組織の幹を太くし、枝葉を広げていくための水や栄養を送り出す出発点として描かれています。つまり、創造的衝動はあらゆる活動のエネルギー源であると同時に、組織メンバーの一人ひとりの創造的衝動を引き出せなければ、組織全体を創造的にできないことが示唆されています。

今回の記事では、「そもそも『創造的衝動』とは何か?」や「個人の創造的衝動を引き出すためには何ができるのか?」という点について解説していきます。

「創造的衝動」の原型:デューイの思想

「創造的衝動」について語る上で欠かせない人物として、20世紀を代表する教育哲学者、ジョン・デューイがいます。「創造的衝動」という概念は、このデューイの「衝動」に関する考え方をベースに構築されました。

デューイは、「為すことによって学ぶ(Learning by doing)」という言葉を残し、デイビッド・コルブによる「経験学習のサイクル」の基となる理論を提唱したことで教育領域を中心によく知られています。また(こちらはさほど知られていませんが)デューイは、学習の原動力として「衝動」や「欲求」の重要性を説いた人物でもあります。

デューイによると、学校教育において教育者が特に活かすべき学習者の衝動の種類には、「構成」「談話」「探究」「芸術」の4種類があるそうです。また、それぞれの違いを以下のようにまとめています。

構成:何かを創りたい衝動
談話:誰かに何かを伝えたい・語りたい衝動
探究:何かを明らかにしたい衝動
芸術:何かを表現し、他者に見せたい衝動

これらの内的な「衝動」に突き動かされるようにして外部環境を「観察」し、過去の経験から得た「知識」の探索を経て、対象が何かを「判断」する。そうして得られた結果が、また新たな衝動を生起する。デューイは後年、デイビッド・コルブによってまとめられた下記の図のようなプロセスを経て、人は学び、成長しながら、意味のある目的の達成に向けて邁進していくことを、理想的な学習プロセスとして考えていました。

デューイは、経験による学習の原動力として衝動を何よりも重視し、衝動に基づく行為を知性的に判断する自制力の獲得こそが理想的な教育の目的だと考えていました。しかし、当時主流であった伝統的教育のあり方は必ずしもデューイの思想に沿うものではありませんでした。そのため、デューイはこうした学校教育のあり方を、生徒の個人的な衝動や欲望に蓋をし、その重要性を無視したものであるとして、痛烈に批判していました。下記の記述からも、(ここでは衝動という言葉は使っていませんが)伝統的な学校教育によって学習者の内発的モチベーションが抑圧されてしまうことを嘆くデューイの強い思いが伝わってきます。

もし学習の過程において、個人がほかならぬ自分自身の魂を失うならば、価値ある事物やその事物に関連する価値に対して批評する能力を失うならば、さらにまた学んだことを適用したいという願望を失うならば、とりわけこれから起こるであろう未来の経験から意味を引き出す能力を失うならば、地理や歴史について規定されている知識量を獲得したところで、また読み書きの能力を獲得したところで、それが何の役に立つというのであろうか。(『経験と教育(pp.73-pp.74)』)

デューイの記述は、次々に生み出させれるイノベーションのツールやフレームワークに翻弄され、“イノベーション疲れ”を起こしてしまっている人々に対する批判としても当てはまるように感じられます。冒頭でも記した通り、組織として積み重ねてきた経験や価値観、態度に目を向けることなく手法だけ外から導入したところで、イノベーションを完遂することは困難です。

あらゆる組織でイノベーションを起こせる“魔法の杖”をいつまでも探して彷徨うのではなく、自分たちが何を創りたいのか、何を世に届けたいのかを問い直し、自分たちだからこそ生み出す価値のある製品やサービスを追求することが重要であり、それを実行する上で、デューイの「衝動」に関する主張は、大いに参考になります。

イノベーション・プロジェクトの現代病:”正解探しの病”

デューイは「欲望をもたない人は一人もいない。われわれが少なくとも、まったく病的なまでに無気力になっていなければ、われわれすべての者は欲望を持っていることになるのである」と言っています。これが事実だとすると、自分が衝動を発揮して取り組みたいと思えるような何かが見つからない場合、それは何かしらの外的要因によって、“衝動に蓋がされてしまっている”からだと考えられます。

昨今のイノベーション・プロセスを概観してみると、実際に取り組む現場担当者の衝動はさまざまな理由で抑圧されていることがわかります。“好きにやっていい”と言われながらも、上司の気に入る案しか採用されず、既定路線となるケース。あるいは、スケジュールだけががっちり決まっているせいで、半年後にとにかく何か商品企画を出さないといけないケース。さまざまな外的要因によって、現場担当者の内発的なモチベーションは無自覚に押し殺されています。その結果、短期的な目線で功を焦るあまり、イノベーションの正解を組織の外側に求めてしまう、いわば“正解探しの病”が、新規事業開発や組織変革のプロジェクトにおける現代病として蔓延してしまっているように感じます。

“正解探しの病”を脱却するためには、外側にイノベーションの解を求めることをやめて、まず自分たちがどんなことに衝動を感じるのかを知ることが重要です。そしてCCMでは組織全体に変容をもたらすような深い学習や、豊かな創発に寄与する衝動を、一般的な意味での衝動と区別するかたちで、「創造的衝動」と呼んでいます。

しかしながら、自分一人が創造的衝動をいくら発揮したところで、組織全体からみれば微々たる成果に終わってしまうかもしれません。変革のエネルギーを集団として起こしていくためには、チームの状態を把握し、創造的衝動が発揮されやすい環境やプロセスをつくるファシリテーターの存在が必要不可欠です。

創造的衝動を引き出すファシリテーターの役割と振る舞い方

デューイは『経験と教育』の中で、生徒の衝動を活かすために教師に求められる役割や振る舞いについて、以下のように述べています。この記述における「教師」の役割と所作は、チームの創造的衝動を引き出すファシリテーターとしてのあり方を考える上でも、多くの示唆を与えてくれる内容となっています。

教師の仕事は、衝動や欲望が生じるや、それを好機に利用する点を見定めることである。(中略)第一には、教師は自分が教えている生徒の能力、要求、過去の経験について、知的に気づいていなければならない。第二には、集団の成員である生徒が役割を分担し、一つの全体へと更なる貢献がなされ、組織立てられていくような示唆によって、その示唆を教育の計画や企画にまで発展させようとすることである。換言すれば、計画というものは協同事業であって、指図ではないのである。(『経験と教育』pp.113-115)

このデューイの主張を、先ほどのイノベーション・プロジェクトの例に当てはめるとどうなるでしょうか。組織や事業でイノベーションを担うファシリテーターの役割は、メンバーがどんな時・何に対して衝動が生じるのかを見定めて、その衝動が抑圧したり散逸したりせず、目的の達成に向けて自由に活用できるように導くこと。そのためには、メンバーが自身の特性に合った役割を担い、貢献するうちに、自発的に組織として成り立っていけるような示唆を与えることが重要だ、と言い換えられます。

このようにメンバーの個人的な特性に目を向けながら、衝動に蓋をせず、組織としての目的達成に個人的な喜び・楽しさを感じられるプロセスをデザインすることこそ、個人やチームの創造的衝動を引き出すファシリテーターが、もっとも力を入れるべきポイントだと言えるでしょう。


今回は、CCMにおける「創造的衝動」という概念やその役割の解説をしました。しかしながら、衝動が喚起される場を創ればそれだけでイノベーションが起こるかというと、そんなに単純な話ではありません。次回は、「個人レベル」の創造性を集約し、「チームレベル」の創造性として活かしていくために必要な「CREATIVE DIALOGUE:創造的対話」について解説しています。

CCMに関しては、下記の記事でも詳しく解説されています。よろしければこちらもご覧ください。

CCMの実現を支える「組織ファシリテーション」について詳しく解説した動画はこちら。※会員限定コンテンツです。ご視聴いただくためにはCULTIBASE Labへのご入会が必要となります。

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■参考文献
ジョン・デューイ、市村尚久(2004)『経験と教育』講談社学術文庫.

ライター:水波洸
CULTIBASE 編集者
株式会社MIMIGURI Editor。法政大学経営学部経営学科卒業。千葉県出身。在学中から「対話の場のデザイン」を主な探求テーマとして、様々なワークショップや哲学対話の実践に参加・参画。卒業後はそうした活動の臨床心理的意義を模索する傍ら、NPOの広報担当としてワークショップレポートを多数執筆。現在はワークショップや対話イベント専門のライター・編集者としても活動。MIMIGURIでは、メディア編集を担当している。

 

 

 

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