“愚かしいペルソナ”ではなく、“愛すべきペルソナ”を作り込む
“愚かしいペルソナ”ではなく、“愛すべきペルソナ”を作り込む

“愚かしいペルソナ”ではなく、“愛すべきペルソナ”を作り込む

2020.12.14/4

商品開発やサービスデザインのプロジェクトにおいて、ターゲットとなるユーザー像を明確に表した「ペルソナ」を作成することは、一般的な方法です。

しかしながら、気をつけなければペルソナを作成すること自体が自己目的化してしまったり、せっかく作成したペルソナが形骸化し活用されなかったりするケースも少なくありません。CULTIBASE Labのデザインゼミでも、ペルソナの意義や正しい活用法については議論がなされています。

筆者(安斎)が以前にファシリテートした「三浦半島の活性化」を目的としたプロジェクト(2017〜2018年度にかけて京急電鉄の依頼で実施)では、ペルソナが効果的にワークした好例だったと言えます。本記事では、その事例を振り返ることで、ペルソナを効果的に活用するポイントについて解説していきます。


三浦半島に“若者”を呼び込むには?

“三浦半島に若者が来ない”という問題意識からスタートした、このプロジェクト。複数回のワークショップとフィールドワークを繰り返し、最終的に三浦半島の新たな「観光コンセプト」を策定。そしてそれを体現したイベント三浦Cocoonを企画・開催しました。

実験的なイベントだったにもかかわらず、参加チケットは完売。70名を超える参加者が三浦半島を訪れました。7割以上が20-30代で、9割以上の参加者が「三浦にまた来たい」と答える結果となり、大成功を収めました。ワークショップとイベントの様子はテレビ東京『ガイアの夜明け』に特集され、とても手応えのあるプロジェクトでした。

プロジェクトの仔細については、拙著『問いのデザイン』の事例(p.262〜)をご覧いただければと思いますが、このプロジェクトの成功の肝は、まずはじめに具体的な20-30代のターゲットペルソナを設定し、1年間にわたるプロジェクトにおいて、いつでも立ち戻ることができる「共通の視点」を作り上げたことでした。

“三浦半島に若者が来ない”という問題設定は、『問いのデザイン』で指摘する「自分本位の罠」に陥っているだけでなく、きわめて曖昧な”若者”という言葉の解像度の低さによって、課題の焦点が不明確です。このままでは「娯楽のスポットが足りないからでは?」「お洒落なカフェをもっと増やしたほうがいいのでは?」と、固定観念に基づく表層的な手段に目線が落ちてしまいます。

そこで、本プロジェクトではワークショップの議論と対話を通して自分たちが心から「三浦半島の魅力を味わって欲しい」「三浦半島に訪れることで、きっと素敵な経験をしてくれるはずだ」と思えるペルソナを作り込むところから始めました。そうして誕生したペルソナが「橘 久美子」です。

愛すべきペルソナからプロジェクトを始める

ペルソナ「橘 久美子」は、実在しないにもかかわらず、プロジェクトの期間中、メンバーの誰もが「久美子のために良いプロジェクトにしたい」と心から考えており、とても愛されたペルソナでした。

ペルソナとは、人々がリアリティを実感することができる”あるある”を具体化させた虚構の人物像です。そのせいか、筆者のこれまでの経験を振り返ると、ペルソナを作成する際には共感よりも「皮肉」の混じった客観的な視点が入り込んでしまうケースがあるように思います。リアリティを追求した結果、「こういう人、いるよね(笑)」というような、ペルソナを揶揄するスタンスが優位になり、ペルソナと作り手の距離が遠ざかることがあるように思います。

プロダクトやサービスの作り手は、ある見方をすれば、困りごとのあるユーザーに対して、手を差し伸べて、解決策を提供する立場でもあります。それゆえに、ユーザーを「愚かしい存在」として位置付けておいたほうが、スタンスが保ちやすい、という心理もあるのかもしれません。けれども意味のイノベーションの理論でも強調されている通り真に生活者に受け入れられるサービスは「愛」から始まると、筆者は考えています。

特集:意味のイノベーションの研究と実践

三浦半島の活性化のプロジェクトは、良くも悪くもマーケティングリサーチデータには一切頼らず、「まだ定義されていない三浦半島の潜在的な魅力を、どんな人に届けたいか?」という問いのもとで、主観だけで「愛すべきペルソナ」を作り込んだことが、功を奏した事例です。是非、ペルソナを作る際の参考にしていただけましたら幸いです。

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