「プレイフル・シンキング」は”真剣勝負”?更新を続ける概念の現在地

「プレイフル・シンキング」は”真剣勝負”?更新を続ける概念の現在地

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2020.11.13/ 10min read

「Can(できるかどうか)で考えるのではなく、How(どうやったらできるか)で考え、自分の周りの環境を最大限活かせば、ワクワクする学びの場を作り出すことができる」。

『プレイフル・シンキング』の著者の上田信行さんは、同書のなかでこう述べています。プレイフルな考えは、常に数字を追求しなければならない経営においても必要です。
どのようにしたら楽しさと成果目標を両立できるのでしょうか?

今回は同志社女子大学名誉教授であり吉野のネオミュージアム館長の上田信行さんを『CULTIBASE』編集長の安斎勇樹と、立教大学経営学部 准教授の舘野泰一が運営する「プレイフル経営ゼミ」(2020年11月より遊びのデザインゼミにリネーム)にお招きしました。万全を期して、オフラインで行われた3人の対談は、大いに盛り上がりました。

目次
「プレイフル」とは、本気で取り組むこと
机上の思考法ではなく、実践するためのエンジン
失敗も学びにかえる『プレイフル・シンキング』のマインドセット
突破口は「ブリコラージュ」的な発想にある


「プレイフル」とは、本気で取り組むこと

安斎:今回、「プレイフル経営ゼミ」に上田さんに来ていただけたのは、とても感慨深いですね、舘野さん。

舘野:いやあ、感慨深いです! いきなり質問しても良いですか? (笑)

安斎:はい、今日はもう、衝動のままに行きましょう!(笑)

舘野:「プレイ=遊ぶ」という意味があります。ですから、「プレイフル・シンキング」という言葉は「ゆるい」という印象を与えているかと思います。しかし、私は「プレイフル=本気」だと考えています。上田さんは「プレイフル・シンキング」の真意をどのように思われていますか ?

上田:実は「プレイフル・シンキング」の「プレイフル」には、異なる2つの意味が含まれています。1つは「今日の会議はプレイフルにやろう!」というような、楽しくおもしろくやろうという意味。そういう意味を持ちながら、深いところにもう1つ「プレイフル=本気」の意味を持ちます。この2つが、音楽でいう対位法(独立した複数の旋律を調和させ重ね合わせる技法)のように共存しています。

ただ、私も「プレイフル・シンキング」をどんな日本語で表現すれば良いか、ずっと考えていました。例えば、プレイフルは「プレイ(Play)=遊ぶ」+「満ちている=フル(Full)」ですから、「遊び心」と訳す方もいらっしゃいました。

でも、「遊び心」だとちょっとニュアンスが違うんですね。だから明確な定義をせず、デザインやメディアという言葉のように英語のままで使っていただいた方ががいいと思っています。

実は、アメリカ人は「プレイフル」という言葉をよく日常的に使います。随分前に、当時同志社国際中・高等学校の先生をしていたHillel Weintraubさんと、「ワークショップバンド」を組んで世界中を回っていた時期があったんです。

その時、デザインとメディアの未来を考えるオランダの国際会議「Doors of Perception」に参加しました。そこでプレゼンターの多くの人が「プレイフル」って言葉をよく使うことを発見したのです。ちょうど日本で開催するワークショップのテーマを考えていた時だったので、2人でこれで行こうと決めたんです。

プレイフルという言葉を使うようになったものの、的確な日本語が見つからなくて試行錯誤していました。ある日、英語通訳者の松本道弘さんに「プレイフル」の意味を聞いてみました。もう、間を置かずに「それは君、真剣勝負だよ!」と言われたんです。10年間、自分が考え続けたことに対する答えを得られて。思わず声を上げましたね。

安斎:「プレイフル=本気で取り組むこと」という話を聞けたのは、プレイフル経営ゼミとして、大きな収穫です。

上田:私もこれは今日、初めて人前で話をしました(笑)。今回、11年ぶりの決定版を出すにあたって、「プレイフル」の本質とは何かを考えたかったんです。それが、「真剣に物事に取り組む」「一所懸命」「本気でやる」、「本気だからこそ楽しい!」ということでした。

安斎:実は僕が10年前に研究者としてのキャリアをスタートするときに、最初に出会った本が『プレイフル・シンキング』でした。決定版が2020年に出版されたこともあって、今回ゲストとしてお越しいただきました。ただ、その後上田さんと話していると、決定版の本に書いていない内容が次々に出てくるので決定版になっていないのでは(笑)。

机上の思考法ではなく、実践するためのエンジン

安斎:約10年前に僕がワークショップを開催し始めたとき、上田さんのレゴブロックの高積みのワークショップなどには非常に影響を受けました。

上田さんは、ネオミュージアムという、実験的ワークショップを開催する空間の館長も務めていますよね。「メタフロア」という参加者同士が対話したり没入する様子を、上の階から俯瞰して見ることができる、メタ認知を意識するような空間が印象に残っています。

上田:ネオミュージアムは、長いあいだ構想して、ようやく完成した場所でした。教育学の研究って「タンジブル(直接触れることができる)な作品」をつくる機会があまりなくて、私は理論だけでなくモノを作りたかったんですね。空間が好きだったので空間をつくって、そこに思想を埋め込みたかった。安斎さんが言ってくれたようなメタフロアのように、入ってきた人が仕掛けに気づき、動き回ることによって自然とメタ認知的な視点を持てる場所。過ごす中で、認知的な変容が起こるような、身体と認知を連動させる空間を作りたかったんです。ただ、建物を建てるまででエネルギーを使いすぎてしまって(笑)。そんなとき、ジョン・マエダさん(現在Publicis Sapient Chief Experience Officer)が「なにかおもしろいことやろうよ」と声をかけてくれたんです。

安斎:それはどんな話だったんですか?

上田:「ヒューマン・パワード・コンピューター・エクスペリメント」と表現するのがいいのかな。人がコンピュータの各部品のマネージャー的役割を担ってロールプレイをしてみる、演劇のようなワークショップでした。私のゼミ生たちが参加したのですが、フロッピーの役割となり、メモリの役割となり、CPUの役割を担当をします。みんな、自分の役割のことだけはしっかり把握するんです。シナリオ通りに行動すると全体のコンピュータが動く、そんな体験でした。フロッピーの役割を担っていた学生が、「フロッピーから人間に戻れるのかな」とポロッというくらい、なりきってましたね。

Human Powered Computer Experiment / John Maeda

In 1993, I simulated a fully working computer at the NeoMuseum (Director Nobuyuki Ueda) in Nara, Japan.

上田:このワークショップを通じて、コンピュータを全く知らない学生が「CPUが1つだと大変だから、2つにしよう」などと体験を通して語り出したんです!これはかなりの驚きでした。

舘野:この話のポイントは「なりきる」「行動する」という体験ですよね。行動しながら考えている。「プレイフル・シンキング」とは本を読んで思考するだけではなく、実際の体験やワークショップを通して身に付いていくものなのでしょうか?

上田:まさにそう思います。心理学者的な発想では、「シンキング=頭の中で起こること」と考えます。しかし、私自身、「シンキング」は、個人の頭の中だけで起こるのではなく、場や状況や関係性のなかで起こるのだと考えています。

スタンフォード大学の教授に会った時、「私は、デザイン・シンキングのことをデザイン・プラクティスと呼びたい!」といいました。ああ、これかって。つまり、「プレイフル・シンキング」は、「プレイフル・プラクティス(=実践)」のための思考法。プレイフルに考えるよりも、プレイフルな実践を重ねること。実践のなかに埋め込まれた考え方や発想法、マインドセットを身に付けてほしいと思います。思考法は、実践のための1つのエンジンです。

失敗も学びにかえる『プレイフル・シンキング』のマインドセット

安斎:ところで、上田さん。実はこの『プレイフル・シンキング』の出版後に、誤字があったとお聞きしましたが?

上田:はい!実はそうなんです。この話はプレイフル・プラクティスの例になるので、この場で振り返ってみたいと思います。

誤字の内容は、140ページの「プレイフル・アウトプット」と表記する部分が「プレイフル・アウトレット」となっているところ。

安斎:これはパッと見ても、わからないですね(笑)。『プレイフル・シンキング』の第4章(「形にしないとはじまらない」)の最終ページのイラストのタイトル部分ですね。

上田:この誤字を見つけたときはすごく、ショックを受けました。今日はこれを「プレイフル・プラクティス」の事例として、考えてみたいと思います。

まず、基本的には失敗はダメだと思うんですね。失敗しても良いから、どんどんやっていいという言葉をよく聞きますが。

安斎:失敗してはダメなんですね(笑)

上田:本気でやってうまく行かないのだったら仕方がないです。そもそも、いい加減に取り組んではいけないという意味合いです。私は何回も何回も文章をチェックしたにもかかわらず見逃してしまった。とても真剣に取り組んだので、失敗が痛かった。本気の失敗は自分の血肉として身に付くものと思います。

次に、失敗からどう学ぶか?と考えました。印刷上の修正は間に合いませんので、残された方法として、新たな概念で解釈できないかと考えました。

安斎:間違いじゃなかったことにする、ということでしょうか?

上田:いえ、誤魔化そうとはしていません。まずは関係者に対して「ごめんなさい」と認めることが大事です。

アウトレットという言葉を辞書で調べると「解放する・解き放つ」の意味があります。「もっと、外に出そう!」というニュアンスはぴったりだと思いました。古い知識をどんどん放出して、新しい知識をインプットするようなイメージになります。

しかし、「スラング」の問題もあるので、英語のネイティブの人に、確認が必要だと考えていました。それで、たまたま出張時、ホテルの受付の方が、元英語講師のアメリカ人だったんです。彼に、「ネイティブでもこの英語は問題ない?」と聞くと、彼は考えてパソコンでも調べて「いける!」というんです。

安斎:自分の能力や知識をアウトレット=出し惜しみするな、ということですね。

上田:はい。どんどん放出すると、気が楽になりますよね。そうした潔さも「プレイフル・シンキング」を支えるプレイフル・スピリットの1つだと思っています。

つまり、溜め込まず、どんどん放出(実践)していく。それが「プレイフル・シンキング」を実践するマインドとして大事なことだと思います。

突破口は「ブリコラージュ」的な発想にある

安斎:ここで視聴者から質問がきています。上田さんが「ブリコラージュ(Bricolage)」という概念をどう考えているかについて教えていただけますか?これは、僕もよく使う言葉なのですが。

上田:ブリコラージュとは、その状況をいかに上手く使いこなすか?という発想だと考えています。

例えば、主婦がカレー料理を作ろうと思い、冷蔵庫を開けたら肉がなかったとします。普通だったら、肉を買ってこようと思いますよね。でも、目の前の野菜や材料を活用してカレーを作ることもできます。この目の前にあるもので対応するのがブリコラージュです。

ブリコラージュ的な発想では、与えられた時間と予算とスタッフの中で最高のパフォーマンスをあげるにはどうすればいいか?と考えます。

安斎:これは「エンジニアリング」のプロセスと対比すると、理解しやすいかもしれませんね。エンジニアリングは、目的のために計画を立て、資源を集めて手段を達成するプロセスです。ブリコラージュの場合、目的は後付けになります。先ほどの「アウトレット」を再解釈したプロセスも、まさにブリコラージュ的な発想ですね。

舘野:コロナ禍のリモートワークやオンライン授業問題も、ブリコラージュ的といえますね。

上田:あるサンフランシスコのミュージアムで、「パーペチュアル(永遠の)・プロトタイピング」というフレーズを目にしました。ゴールの着地点がわからない場合、人はプロセスに全力で取り組みます。プロトタイプの目標地点に到達したら、次のプロトタイプの目標地点へと進行します。

例えば、大学の授業でも「シラバスに書いてないことだけど、この授業がどこまで行けるかやってみよう!」とすると、予定調和ではなくて面白いですよね。

舘野:一般的に、会社経営においても難しいとされる部分ですよね。会社を持続可能なものにするため、エンジニアリング的発想で目標を決めて、達成のための努力は必要になります。しかし、同時にプレイフルに目前のものごと、プロセスを真剣に楽しむためには、合目的にならずに楽しめる雰囲気も必要になる。

上田:プレイフル経営における組織のマネジメントにおいて、成果目標と学習目標の両方を設定する方法も良いでしょうね。売上等の成果目標に加えて、仕事を通して学んだり成長するための学習目標も大切です。両者のバランスが大事になります。


後編では、上田さんと「プレイフル経営」について話し合った模様をお伝えしていきます!

変化し続ける「マリアブル」な組織から発明が生まれるープレイフル経営を基盤とした組織論
変化し続ける「マリアブル」な組織から発明が生まれるープレイフル経営を基盤とした組織論

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編集:モリジュンヤ

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