事業成長を支える強い開発組織はどう作る?ー時価総額4兆円超のエムスリーが実践するデザイン経営
事業成長を支える強い開発組織はどう作る?ー時価総額4兆円超のエムスリーが実践するデザイン経営

事業成長を支える強い開発組織はどう作る?ー時価総額4兆円超のエムスリーが実践するデザイン経営

2020.11.03/9

CULTIBASEは、2020年9月2日に公開イベント「医療メガベンチャー“エムスリー”に学ぶデザイン経営の実践」を開催しました。

エムスリー株式会社は、世界の医療の変革にチャレンジするメガベンチャー。医療従事者が医療に関するニュースやキャリアなどの情報を交換する「m3.com」や製薬企業の薬剤プロモーションやマーケティングを支援する「MR君」など、20以上の事業を展開し、時価総額が4兆円を超えています。

創業から20年で急速に成長した成功の裏には、「デザイン経営」を意識した、プロダクト開発力の強さがあるのです。

エムスリーでは、いったいどのようにして、デザイン経営の考えを取り込み、事業成長につなげているのか。同社でデザイン組織の改革を担う古結隆介さんをゲストにお招きし、株式会社DONGURI(現・株式会社MIMIGURI)のミナベトモミとともに語り合いました。

目次
「デザイン経営」の実践はどう評価するか?
経営において重要な役割を持つ「強いプロダクトチーム」
課題ファーストで動ける土壌づくりが、デザイン経営を左右する
本質的な課題解決に目が向く構造をつくる


「デザイン経営」の実践はどう評価するか?

「デザイン」という言葉は、日常のあらゆるシーンで使われます。そのため、言葉の定義が曖昧で、一人ひとりの解釈が異なることも珍しくありません。そこでまずは、ミナベが「デザイン経営」の定義を語りました。

ミナベ :『デザイン経営』とは、デザインの視点や思考を経営に取り入れ、企業競争力を高める営みです。デザイナーは、プロダクトをデザインする際に、生活者がどのように商品を使うのか、どうすれば使いやすくなるのかといった「ユーザー起点」で物事を考えています。

こうした思考のプロセスを、事業の立ち上げやプロダクト開発の上流から組み込むことで、根本的な課題を見つけてイノベーションにつなげていく試みです。この思考やプロセスを浸透させるために、CDO(Chief Design Officer)といったデザインに精通した役割を任命し、デザイナーを集めて組織化する企業が増えています。

「デザイン経営」は、海外ではダイソンやSlack、Airbnbなど、デザインに投資した企業がスケールしたことから注目を集めました。「デザイン」の思考が日本の産業競争力の向上につながるのではないか。その考えのもと、2018年5月に経産省と特許庁が「デザイン経営」宣言を発表。国を挙げて「デザイン経営」の普及に尽力することになりました。宣言から2年が経過した今、「デザイン経営」を取り入れるだけではなく、いかにして事業成長につなげていくのかが問われていると、ミナベは語ります。

ミナベ:デザインに力を入れたときに、定量的にどう事業成果を捉えるのか。デザイナーが、エンジニアやPdM、リサーチャーなど様々な職種の人たちと協力しながら、いかに成果をあげていくかに注目が集まってきているように思います。事業が推進するソフトウェア開発の中で、他職能と越境した組織づくりを行いながら、既存事業のスケールや新規事業開発を行うというトレンドが生まれています。

経営において重要な役割を持つ「強いプロダクトチーム」

エムスリーが実践する「デザイン経営」について古結さんから語られました。

古結さんは、経営とプロダクトチームの関係を考える上での前提として、「経営者(事業責任者)は、事業=プロダクトを成功させるために優れたプロダクトチームを求めている」と語ります。IT企業経営における3つのポイントを挙げ、その理由を解説。

1. 経営にとって、益々プロダクトが重要になっている
2. プロダクト開発の生産性が、優れたプロダクトチームに大きく依存する
3. プロダクトチームの存続も、優れたプロダクトチームに大きく依存する

プロダクトに、ひいては経営に影響をもたらす優秀なプロダクトチームのメンバーは、仕事が退屈で結果がでなければ新しい環境を求めて辞めてしまいます。デザイン経営の実践のためには、強いプロダクトチームの組成が重要だと古結さんは語ります。

優れたプロダクトチームを作るべく、エムスリーは以下の2つの仕組みを導入しています。

1. 役員クラスの人間がプロダクト開発に関するロールも担当
2. 少数精鋭で遊撃部隊的に開発に関わるプロダクト支援チームの存在

まずは、「モノづくり」の視点を持つ、役員クラスのリーダーの存在。

古結:執行役員を務める山崎聡は、エンジニアとプロダクトマネージャーを経験してきました。彼は、エンジニアやデザイン、アプリに関連するグループなど、様々な部門の担当役員を担っています。山崎だけではなく、代表取締役の谷村格ですらプロダクトの企画やクライアントへの提案をする。エムスリーの役員には、マネジメントのみを担う人はほとんどおらず、自身もモノづくりに関わっているという人が大半です。『現場目線』『ユーザー目線』を持ったリーダーがいるからこそ、事業成長につながるような意思決定や議論ができるのだと思います。

こうしたリーダーに率いられる、少数精鋭で遊撃部隊的に開発に関わるプロダクト支援チームが存在しています。このチームには、PdMやプロダクトデザイナー、エンジニアが所属。事業やプロダクトの戦略策定や要件定義、ユーザーリサーチ、体験設計、グロースハックなど幅広くカバーするメンバーが、必要に応じてそれぞれの事業に関わっています。

古結:プロダクト支援チームは、遊撃部隊のように各事業に関わり、新規事業やプロダクト開発の支援と、MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)によるリーンな仮説検証を実現する役割を担っています。

課題ファーストで動ける土壌づくりが、デザイン経営を左右する

プロダクト支援チームが担っている、MVP開発によるリーンの実現については、具体例も併せて紹介されました。

エムスリーのプロダクト開発は、顧客の抱える悩みや業界のギャップといった「課題」を起点に着想し、仮説検証を行います。その上で、最小限のプロダクトを作り、ユーザーへの検証を通して、改善を繰り返していくのです。

古結:ミニマムに進め、ユーザーの反応を見ながら改善しています。エムスリーの社員数は473人なのですが、この開発の方法を話すと『まるでスタートアップのようですね』と驚かれます(笑)。月に数件は事業のアイデアが生まれている状態ですし、プロジェクトの立ち上げから2〜3カ月ほどでプロダクトがリリースされていきます。

課題を発見し、仮説検証を素早く行った事例として、古結さんは、クラウド電子カルテ「エムスリーデジカル」を挙げました。

クラウド電子カルテ「エムスリーデジカル」

古結:『エムスリーデジカル』は、『m3.com』のユーザーである開業医にコンタクトを取り、彼らの業務を観察する中で、ニーズに関して3つの仮説を立てました。『集客の支援』『経営の支援』『カルテの入力の支援』です。

どのニーズが最も強いのかを検証するために資料を作り、製品のコンセプトやプロダクトのイメージをユーザーに見せました。すると、カルテの入力の支援に対するニーズが強いことがわかりました。

古結:続いて、HTMLやCSSでのモックアップを作成し、ユーザーインタビューを繰り返していきました。すると、8割近くのユーザーが購入の意思を示したんです。これはニーズがあると考え、開発チームを立ち上げて、本格的に動き出しました。リーンな検証を繰り返すことで、『エムスリーデジカル』はペーパープロトタイプ開発から7カ月でリリースができたんです。

本質的な課題解決に目が向く構造をつくる

エムスリーのデザイン組織の支援をしているミナベは、関わり始めたころ組織階層の少なさに驚いたと言います。


古結:エムスリーは、いわゆるピープルマネジメントだけを役割としている人は基本的におらず、経営層・リーダー(GL/TL)・メンバーの3階層です。これも、スピーディなプロダクト開発にあたるための工夫なんです。

役職を増やしてしまうと、顧客の課題やプロダクトのコンセプトを考える時間よりも、承認を取るためのネゴシエーションに時間を割くことになってしまいます。意思決定を早くし、プロダクトの開発そのものにリソースを割けるような組織形態を作っている点が大きな特徴だと思います。

この組織体制を存分に生かしているのが、「自走できる人材」の採用と育成。そこでポイントになるのが、「くしゃみ」と呼ばれる3つの行動規範です。採用の段階で、これらの行動規範を守れるような「自走心とプロ意識」を持った人材を見極めることに力を注いでいるそうです。

古結:ユーザーの声を組み上げて、ミニマムに検証を繰り返す開発体制をとっているため、仕事への執着心や自走力、高いプロ意識が求められるんです。創業時から今でも、最終面接には代表取締役の谷村が出席して、マッチする人材がどうかを見極めます。もちろん、実際のスキルも大切ではあるのですが、お互いにフィットするかどうか、採用の段階でかなり見極めていますね。また、入社後の自走力を後押しするためにも、選考プロセスを通じて候補者のwillを理解し、具体的なチャレンジを提案できるよう意識しています。

医療業界にはまだまだ解決できていない課題がたくさんあり、引き続きデザインの力で価値を届けてくれる仲間を募集しています。少しでも気になった方はぜひカジュアル面談でお話しできればと思います。

これまでの話を聞いた上でミナベは、エムスリーの組織体制の強みを次のように締めくくりました。

ミナベ:エムスリーは、意思決定を早くして、成果を出すという本質的な部分に常に目が向いていますよね。ユーザーにとっての『本質的な課題解決』に目が向きやすい仕組みが整えられている。

大きな組織になると稟議申請など手続きが複雑化してくる。意思決定を複雑化せずに、スピード感を持って取り組める仕組みが根付いている。それが、企業が大きくなってくると徐々に失ってしまう、「スタートアップ感覚」をいつまでも持ち続けることにつながっているのだと思います。


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執筆:藤原梨香
編集:岡田弘太郎

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