技術主導のイノベーションの活路:仕様に潜む、新たな意味を発掘する
技術主導のイノベーションの活路:仕様に潜む、新たな意味を発掘する

技術主導のイノベーションの活路:仕様に潜む、新たな意味を発掘する

2020.10.27/6

事業開発において注目される「意味のイノベーション」について理解を深める上で、そもそも「意味」とは何か、その前提を整理しておきましょう。※意味のイノベーションの定義や特徴については以下の記事をご覧ください。

目次
技術×意味によるアプローチの整理
アイデアは意味と仕様の結びつきである
技術主導のアプローチは悪か?
技術主導の意味のイノベーションの可能性


技術×意味によるアプローチの整理

意味のイノベーションの提唱者ロベルト・ベルガンディ教授は、2016年に著書『Overcrowded』(日本語版『突破するデザイン』)の中で、体系的な意味のイノベーションの理論を提案しました。しかし実はその7年前、2009年に出版した前著『デザイン・ドリブン・イノベーション』において、イノベーションのアプローチを技術の変化意味の変化の二軸で整理する説明を好んで使っていました。

技術革新によって事業開発する「1.技術主導」のアプローチは、ソニーの「ウォークマン」のように生活者の文化や行動を書き換えてしまう可能性もありますが、必ずしも技術スペックの向上が、生活を革新するとは限りません。むしろ多くの場合、新たな技術による機能改善は、製品の「意味」そのものは大きく変えないことのほうが一般的なように思います。

ユーザーニーズに基づいて事業開発する「2.市場主導」のアプローチは、現在のユーザーニーズに応えるため手堅いですが、ユーザーが予想もしない新たな意味の革新は起こりにくいという意味で、左下に位置づいています。

他方で、企業側、デザイナー側が作り手のビジョンに基づいて新たな意味を生活者に提案するアプローチを「3.デザイン主導」としています。任天堂の「Wii」など、技術主導でも市場主導でもない、企業側が作りたい世界観に基づいて進められるイノベーションのアプローチがありえることを踏まえ、このような整理がされています。現在の「意味のイノベーション」は、「デザイン主導」のアプローチを体系化したものと言えるでしょう。

アイデアは意味と仕様の結びつきである

技術の変化とは、言い換えれば商品やサービスの「仕様の変化」とも言えます。そう考えれば、どのような事業であっても、あらゆるアイデアは「意味」と「仕様」の結びつきによって構成されていると捉えることができます。

仕様があるからこそ意味が実現し、意味を実現する手段として仕様は切り離せないため、この2つは相互に関連しますが、事業開発のプロセスにおいては意味と仕様を区別することがとても重要です。

アイデアの構造

たとえば、iRobotが提供するお掃除ロボット製品「ルンバ」を例に考えてみましょう。「ルンバ」の仕様は、形状が「円盤形」であり、内部に「フロアトラッキングセンサー」が付いていることなどが挙げられます。しかしユーザーは「フロアトラッキングセンサー」を購入しているのではありません。

内部の機構よりも、あくまで「自分がいない間に部屋を綺麗にしてくれる」という意味を購入しているのだと考えられます。しかし同時に、フロアトラッキングセンサーがついていなければ、この意味は実現できていない、という点も重要です。

ルンバのアイデアの構造

事業開発のプロジェクトにおいては、意味の議論と仕様の議論をきちんと区別しながら、それぞれを相互作用的に結び付けながらアップデートしていくファシリテーターの技量が必要です。そうでなければ、ある人はアイデアの意味を発展させたつもりが、別のある人はそのアイデアの仕様を批判する、といったすれ違いが多発します。意味と仕様は切り離すことができませんが、きちんと識別した上で、意味のあるプロダクトを生み出すことが重要なのです。

技術主導のアプローチは悪か?

このようにイノベーションのアプローチや事業開発における認知過程の解像度が高まるたびに、「技術主導はダメで、市場主導で商品開発をすべきだ」「市場から革新的なアイデアは生まれない。ビジョンに基づいてアイデアを提案すべきだ」など、「従来のアプローチ」のアイデンティティを否定するような「あのやり方は、もうダメだ」という意見が強調されがちです。

しかし筆者は、このような整理を踏まえてもなお、技術主導のイノベーションアプローチが「もうダメだ」とは考えていません。もし従来の技術主導のやり方に問題があるとすれば、それは技術を単なる「仕様の問題」としてのみ解釈し、アイデアの「意味のポテンシャル」に目が向けられなくなってしまっている態度が「もうダメ」なのではないかと考えています。

ルンバのユーザー価値は、確かに「自分がいない間に部屋を綺麗にしてくれる」という意味にあるかもしれません。しかしそれを実現している要因は、あくまで「フロアトラッキングセンサー」などの仕様であるはずです。「仕様しか考えない」ことと「仕様を起点に意味を生み出すこと」は、大きく異なります。

技術主導の意味のイノベーションの可能性

技術主導のイノベーションは、いまや圧倒的な技術革新を起こさない限り、実現できないものだと思われがちです。しかしながらたとえ使い古された既存の技術であったとしても、その技術や、それによって実現される仕様に潜む「新たな意味の可能性」に目を向けさえすれば、新しいかたちでの”技術主導の意味のイノベーション”も十分に可能になるはずです。

筆者はこれまで、技術を強みとする数多くのメーカーで、商品開発のプロジェクトのファシリテーションを実践してきました。その経験を振り返ると、たしかに多くの場合「仕様」の話が9割を占め、放っておくと「意味」の話はほとんど登場しません。そして技術者本人は、そのことを自覚してすらいないケースが大半です。つまり何も工夫がない状況においては、「仕様に閉じた技術主導」の発想に陥ってしまう。そうした傾向は確かにあるでしょう。

しかし技術の解釈をリフレーミングするための「問いのデザイン」に気を配り、戦略的にプロジェクト設計とファシリテーションを推し進めることで、「技術から、新たな意味の可能性を読み解く」アプローチは十分に可能となります。

技術主導はもうダメだと諦めるのではなく、技術があるからこそ実現可能な意味のイノベーションを目指して、自社のリソースのポテンシャルを最大限に活用しようとする。それが、これからの組織イノベーションのファシリテーターに求められる信念なのかもしれません。


「意味のイノベーション」に関する記事はこちらからもご覧いただけます。

意味のイノベーションの研究と実践

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