6つの実践的研究から探る「デザイン」の意義と役割
6つの実践的研究から探る「デザイン」の意義と役割

6つの実践的研究から探る「デザイン」の意義と役割

2020.10.02/9

「デザイン経営」や「デザイン思考」など、「デザイン」を様々な企業や組織、教育現場で幅広く活用し、実践する動きが広がっています。私たちにとって「デザイン」は本来的にどのような役割を担い、どのような変化をもたらしているのでしょうか。こうした問いに対する手がかりを得るため、CULTIBASEでは、7月11日、「デザインカンファレンス2020」を開催。専門性の異なる6名の登壇者により、広く「デザイン」そのものをテーマとして取り上げ、実践に基づいた研究的知見を切り口に、「デザイン」の意義と役割を探究しました。

実践者と研究者の間に溝があることも指摘されるデザイン領域ですが、今回の登壇者の多くは、実践と研究を横断しながらそれぞれのデザイン活動に取り組んでいます。今回の記事では、前半に行なわれた発表セッションの内容をレポートします。


第1部では、6名の登壇者から実践研究の発表が行なわれました。テーマと登壇者は次の通りです(敬称略)。

<ROOM-A>
・「他者との創造的な協働を促進させる二人称的アプローチの可能性」(瀧 知惠美)
・「情報を描き出すインフォメーションドローイングの実践」(清水 淳子)

<ROOM-B>
・「観光まちづくりにおけるデザイン・ワークショップの提案―神奈川県三浦半島の取り組みを事例として」(東南 裕美)
・「遠まわりの合流-創造的連携を促す視覚的対話」(富田 誠)

<ROOM-C>
・「アナロジーを導入したアイディエーションワークショップの開発〜PLAYFOOL Workshop における参加者のアイデア発想プロセスを考察する」(淺田 史音)
・「スタートアップ経営におけるデザインプロセスの寄与」(濱脇 賢一)

発表者は3つのオンライン・ルームに分かれ、各部屋二人ずつ、同時進行でプレゼンテーションを実施。参加者はそのルームを自由に行き来しながら、目当ての発表を聞きにいくかたちで進行していきました。

ROOM-A

■瀧 知惠美 株式会社ミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)/多摩美術大学・東海大学 非常勤講師

「他者との創造的な協働を促進させる二人称的アプローチの可能性」

組織メンバーの多様化が盛んに指摘される昨今、チーム内の創造的な協働を促すためには何ができるのでしょうか。Room-Aの一人目の発表者を担当したミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)の瀧知惠美は、かつて修士課程で「リフレクション(振り返り・内省)」を切り口にこれらの問いについて探究し、チームにおいて深い関係性を築くためには「自分がやったことと、他者がやったことの意味がわかる」状態の形成が重要であることを明らかにしてきました。また、そのための方法として、「二人称アプローチ」に着目し、探究を続けてきました。

「二人称アプローチ」の主な特徴は、対象となる他者を自分自身と切り離さず、親密に関わる存在とみなすこととされています。発表では、二人称アプローチを取り入れた創造的な協働活動の事例として、瀧が東海大学で実施した「作品制作のプロセスから自分らしさを見出し、ポートフォリオを作成する授業」での実践について語られ、「協働関係にある他者同士が深い関わり合いを生み出すためには、自身の視点を振り返りを通じて深堀りし、対話的に交換にする『一人称+二人称的アプローチ』が有効なのではないか」という仮説や、その可能性について詳しく述べられました。

■清水 淳子さん(多摩美情報デザイン学科 講師)

「情報を描き出すインフォメーションドローイングの実践」

普段の生活の中で誰かに何かを伝えようとした時、多くの場合は「言葉」によるコミュニケーションが行われます。しかしながら、言葉は複雑な意識や感情などをありのままに写してくれるものではなく、あくまで一部分を切り取って表しているに過ぎません。こうした状況下で、発表者の清水淳子さんは「複雑な意識や感情を表すにあたり、言葉だけでなく、ビジュアルも用いることにも可能性があるのではないか?」という問いに関心を持ち、探究を続けてきたそうです。

また清水さんは、現在特に感じている課題意識として、幼い頃は誰しもが当たり前に絵を描いていたはずが、大人になると立派な絵でないと人前で描くのは恥ずかしいと考えてしまうことや、AI(人工知能)のドローイング技術の発達していることに触れながら、本来は豊かで自由であるはずの視覚表現が、「マニュアル化」してしまうことを危惧していると話します。今回の発表では、そうした事態を回避し、豊かな視覚言語による対話の方法やその学習の仕方をより緩やかかつ根源的に探究する活動の一環として、担当する多摩美術大学で実施した授業の内容を詳しく紹介するとともに、得られた考察が語られました。

ROOM-B

■東南 裕美 株式会社ミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)/東京大学大学院情報学環 特任研究員

「観光まちづくりにおけるデザイン・ワークショップの提案―神奈川県三浦半島の取り組みを事例として」

地域の自然や文化歴史など、様々な資源を用いて交流を振興し、地域が主体となり活力あるまちを実現させる、観光まちづくり。元来まちづくり領域では、ボトムアップ型の地域活性化の方法としてワークショップが盛んに導入されてきました。しかし、その主流は「合意形成」や「主体形成」を目的としたものであり、ワークショップの重要な価値の一つである「創造」に主眼を置いたケーススタディはそれほど多くはありませんでした。

こうした背景を踏まえて、ミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)の東南裕美による発表では、2017年に京急電鉄と東京大学の共同研究として実施された「三浦半島の魅力を再定義する」プロジェクトを題材として、観光まちづくりにおける新たな価値の創出を目的とする一連のデザインプロセスの導入と、結果的に導き出された新たなプロセスモデルの提案・考察が行なわれました。プロジェクトを進める中で新たに浮上した領域特有の課題や、地域資源と結びつきの強い観光コンセプト創出のポイントなど、具体的な知見を多数交えた話題が展開されました。

■富田 誠さん(東海大学 芸術学科デザイン学課程 准教授)

「遠まわりの合流-創造的連携を促す視覚的対話」

東海大学准教授・富田誠さんはこれまで、「専門性が高い研究者間の対話の手法ができれば、国・セクター・企業・部署など様々な場にある壁を超えて応用できるのではないか?」という仮説のもと、「視覚的対話」の手法の開発と研究に取り組んできました。視覚的対話は、参加者が自身の考えを目に見える形で示し図にまとめながら進める話し合いのことを意味し、、身体性を伴うことを大きな特徴としています。

今回の発表では、視覚的対話に関する基本情報や、開発にむけたトライアル・ワークショップの事例から始まり、「共同注視(Joint attention)」「話者交代システム(Turn-taking system)」といった概念を切り口とした、視覚的対話における身体的動作のメカニズムが解説されました。また合間には、オンライン・コミュニケーションでは、これらの身体的な動作がどう変化するのかといった点についても語られるなど、幅広い知見が共有されていました。

ROOM-C

淺田 史音 株式会社ミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)

「アナロジーを導入したアイディエーションワークショップの開発〜PLAYFOOL Workshop における参加者のアイデア発想プロセスを考察する」

有名なイノベーションの定義として、オーストリアの経済学者・シュンペータによる「イノベーションとは新結合である」という言葉があります。また、シュンペータは、「日常の経験則から帰納・演繹的に思考しているだけでは、新結合は期待できない」とも述べています。それでは、新結合を生み出す発想力は、いかにして育まれるのでしょうか?

ミミクリデザイン(現・株式会社MIMIGURI)の淺田史音は、冒頭でこうした言説を紹介し、新結合を生み出すためには、「類推的思考(アナロジカルシンキング)」の育成が一つの手がかりになると語ります。今回の発表で淺田は、類推的思考を伸ばす取り組みとして、自身がプロジェクトリーダーを務める「PLAYFOOL Workshop」を紹介。その中で行なわれる数々の「類推」を扱うエクササイズを取り上げながら、それらがいかに参加者の発想力を刺激し、新たなアイデア創出に繋がるのか、理論的背景も交えた解説が行なわれました。

濱脇 賢一 株式会社DONGURI(現・株式会社MIMIGURI)

「スタートアップ経営におけるデザインプロセスの寄与」

デザインコンサルティングファームとして、これまで様々な企業のデザイン及びそのプロセスの支援を行なってきた株式会社DONGURI(現・株式会社MIMIGURI)。今回、DONGURI(現・株式会社MIMIGURI)の濱脇賢一から、スタートアップ企業の商品開発を中心とした事例をもとに、「デザインプロセス上の支援がその企業の経営・事業にどう寄与するのか」というテーマで発表が行なわれました。

発表では「検証」「学習・ナレッジ化」「合理化」「言語化」など、事業をビジュアル表現に落とし込む前のプロセスにおいてデザインが有効に活用可能なポイントを紹介。特にシーズや戦略を、あらゆる事業可能性を数学の“組み合わせ論”によって検討する「組合せ論的アプローチ」によって分析・洗練する「言語定義」と呼ばれるプロセスは、その後の視覚表現の検討や経営判断への接合に向けた足がかりとして有用であり、事業やクリエイティブの精度向上に繋がる取り組みとして重点的に解説されていました。


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ライター:田口 友紀子
フリーランスのライター・編集者。東京都在住。FICCにてプランナー・ディレクターとしてプロモーション企画やコンテンツ制作に従事。やがて自身の文章への執着心に気づき、PR会社勤務を経てライター・編集者として独立。人の動機や感情に焦点を当てながら、伝わる言葉を紡ぐことを目指している。

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