『問いのデザイン』読者が考える、“書き足すべき”第7章とは
『問いのデザイン』読者が考える、“書き足すべき”第7章とは

『問いのデザイン』読者が考える、“書き足すべき”第7章とは

2020.09.21/10

2020年6月に出版された、安斎勇樹・塩瀬隆之による共著『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』(学芸出版社)。企業や地域、学校など、創造的対話が必要とされるあらゆる領域で活用可能な問いをデザインする技法について解説する本書は、8月中旬時点で第3刷・累計3万部が発行されるなど、好評を博しています。

『問いのデザイン』の構成上の特徴として、状況や領域によって様々な役割を担う世のファシリテーターたちが幅広く活用できるようにと、できる限り普遍的な理論やものの見方の記述に注力している点が挙げられます。そのため、自身の職場やチームを投影させながら読み進められる余地があり、「自分だったらどんな事例やテーマで『問いのデザイン』について書くだろうか?」と発展的なアイデアを膨らませやすい一冊でもあります。

会員制オンラインプログラム「CULTIBASE Lab」では、こうした『問いのデザイン』にまつわる多様なアイデアを拾い集め、協同的にその知をアップデートしていくための取り組みとして、2020年7月8日、「著者を差し置いて『問いのデザイン』に第7章を書き足す」と題したワークショップを会員限定で開催しました。

書籍「問いのデザイン」は以下の6章で構成されています。

序論 なぜ今、問いのデザインなのか
1章 問いのデザインとは何か
2章 問題を捉え直す考え方
3章 課題を定義する手順
4章 ワークショップのデザイン
5章 ファシリテーションの技法
6章 企業、地域、学校の課題を解決する

本ワークショップのお題は、この全6章に続く「オリジナルの第7章」を考案すること。今回のレポートでは、参加者一人ひとりの独自の観点から綴られたさまざまな”第7章”をもとに、多角的に「問いのデザイン」の新たな可能性を検討した本イベントの様子をお伝えします。

目次

「問いのデザイン 第7章」ノミネート作品・受賞作品一覧
ダイアローグ:『問いのデザイン』によって世界はどう変わるのか?
おまけ:「安斎賞」と「塩瀬賞」受賞作品発表


「問いのデザイン 第7章」ノミネート作品・受賞作品一覧

ワークショップは、事前課題として参加者から提出された合計30作品の第7章のオリジナル・プロットを一人ひとり発表するところからスタートしました。各プロットはGoogleスライドで共有され、2回の投票を通じて、第7章に載ってほしいと思える作品を選定していきます。

<第1回の投票>

最初の投票では、次のような基準にもと、一人につき赤・青2票ずつ、投票を行ないました。

※今回の投票では、システム・アーティストの安斎利洋さんが考案した「多様決」という方法を用いています。この方法では、「欠点のない、誰しもが賛同するアイデアがイノベーティブとは限らない」という考えのもと、「良い・面白い・いいね」を表す赤票と、「もやもやする・惜しい・ヤバい」を表す青票の掛け算によって得票数を決定します。

<第2回の投票>

続く二回目の投票では、対象を一回目の投票の上位10作品に絞り、さらに次の基準による投票を実施しました。その結果から、「安斎・塩瀬に聞いてみたい!」賞と、「みんなで考えたい!社会に問いたい!」賞が一作品ずつ選出されました。

以下に、ノミネートされた上位10作品を一つずつ紹介します。

1.「ビジョンをデザインする」作・妹﨑淑恵さん

2.「連続的な問いのデザイン」作・加来賢一さん

3.「組織で実践する環境をつくる」作・栄前田勝太郎さん

4.「ワークショップの成果を測る」作・太田光洋さん

5.「問いの歴史」作・井上和興さん

6.「病を気づく『問いのデザイン』」作・青山優里さん

7.「遊び心(プレイフルマインド)を引き出すデザイン」作・後藤直美さん

8.「問いのデザインのダークサイド」作・鳥海裕乃さん

9.「問わずして問う技術」作・鳥海裕乃さん

10.「問いのデザインは世界をどのように変えるのか?」作・豊留珠実さん

■「安斎・塩瀬に聞いてみたい!」賞

「問わずして問う技術」作・鳥海裕乃さん

「安斎・塩瀬に聞いてみたい!」賞は、鳥海裕乃さんが考案した「問わずして問う技術」が受賞しました。コメントとして塩瀬さんは、自身が以前組織における暗黙知の研究に取り組んでいたことに触れながら、「『黙して語らず』な熟練技の伝承を研究していたことを踏まえ、何かしらの形で執筆できるのではないか」と、このテーマの探究に意欲的な様子で語っていました。

※こちらの「安斎・塩瀬に聞いてみたい!」賞を受賞した「問わずして問う技術」をテーマに、後日「CULTIBASE Lab」にてインタビューを実施しました。その内容も別途記事として公開する予定です。どうぞお楽しみに!

■「みんなで考えたい!社会に問いたい!」賞

「問いのデザインは世界をどのように変えるのか?」作・豊留珠実さん

「みんなで考えたい!社会に問いたい!」賞は、豊留珠実さんによる「問いのデザインは世界をどのように変えるのか?」が受賞しました。この発表に対して塩瀬さんは、「問いのデザインは世界を変える可能性を秘めている」という前提を示しながらも、だからこそ、その取扱いの仕方には注意が必要だと語ります。

塩瀬 豊留さんも「どう変わるのか」という視点で発案してくださっていますが、その意図に関わらず、問いのデザインによって世界が変わってしまう、第三者によって変えられてしまう怖さ・強さについては、意識的に取り扱っていきたいと思っています。問いによって答えが導き出されることも大切でですが、あえて答えを出さないことの大切さについても、読んでいる人には同じくらい考えてもらいたいですね。

ダイアローグ:『問いのデザイン』によって世界はどう変わるのか?

最後に、この「問いのデザインは世界をどのように変えるのか」というテーマについて、5人1組のグループで対話するワークが設けられました。以下に、その内容を一部ピックアップしてご紹介します。

“今日のワークショップに来ている人も、何かのきっかけがあってここにいることを考えると、ある意味では「その人の世界が変わっている」とも言える。こうした個人レベルでの変化が様々に起きている中で、その積み重ねとして世界が変わるまでにはどのようなプロセスを経ていくのだろうか。個人レベルを超える次の一歩の例としては「自身の職場がどう変わるか」というところがありそうだと思う。”

“問いのデザインは、ファシリテーターや誰か特定の人物だけではなく、誰しもに必要なスキルだと感じている。得た経験を自分だけのものにせず、若い世代にも機会を与えて、一緒に成長していきながら、集団の中で問いをデザインする力を育てるような環境をつくることができれば、より良い世界になっていくのかもしれない”

“書籍の中で、問いによって固定化された認識や関係性に揺さぶりをかけることの重要性が書かれていたが、「問いによって世界が変わるとしたら」というテーマと関連して、「そもそも固定化されていると気付くにはどうすればよいのか」という点について話していた。そして、その一つの仮説として、個人の内側にある衝動が問いによって引き出され、それぞれに異なる個人の衝動が、異なるままに許容される文化があれば、認識の固定化が起こりにくく、また起こっても気づきやすくなるのではないか、と考えている”

最後の意見に対しては、安斎も次のようなコメントで応じていました。

安斎 ワークショップの理論的基盤を築き上げた教育哲学者のジョン・デューイは、「衝動とは古い慣習からの逸脱である」と語っています。彼は衝動を、認識の固定化によって、なぜそれをやっているのかも問われなくなってしまったようなルーティーンを逸脱するための手段として考えているんですね。

組織や自分自身の認識の固定化に気づけていない状態は、当人にとっては何も考えなくてもいい、ある意味楽な状態でもあり、逸脱する衝動をどうくすぐるのか、といった点についても引き続き考えていきたいと思っています。先程の7章の作品の中にあった「遊び心」もその鍵になりうるかもしれないし、あるいは「許容」された圧がない環境の構築や、それこそ「問い」によって探究心をくすぐることも効果的かもしれません。

おまけ:「安斎賞」と「塩瀬賞」受賞作品発表

最後に「おまけ」として、これまで“差し置かれる人”としてイベントを見守っていた著者の二人から、事前課題で提出された30作品全てを対象とした、特別賞の発表がありました。

■安斎賞

「組織で実践する環境をつくる」 作・栄前田勝太郎さん

「問い続けることができる組織デザイン」 作・一藤英恵さん

安斎賞を受賞したのは、栄前田勝太郎さんによる「組織で実践する環境をつくる」と、一藤英恵さんの「問い続けることができる組織デザイン」。選出の理由として安斎からは、組織での実践は自分自身としても重要なポイントとして考えていたことが語られたほか、「一藤さんが作品内で記述していた、『大きい組織の内部にいる”私”という一個人はこの組織を変えられないのだろうか?』という葛藤が個人的に刺さった。内部からシステムを変える問いはどうできるのか、考えていきたい」などのコメントが述べられました。また、第7章の代わりとして、このテーマで一本新たな記事が安斎によって執筆・公開することが発表されました。

■塩瀬賞

「問いの歴史」作・井上和興さん

続いて塩瀬賞の発表へ。この賞に選ばれた作品は、今後も研修やワークショップで継続的にテーマとして扱っていくことが明言されていました。選出されたのは、井上和興さんの「問いの歴史」。塩瀬さんはその理由として、執筆時にもこのテーマを扱おうか迷ったものの、結局どこを起点にすべきかわからずに断念したという経緯を明かしながら、「ぜひ『一緒に調べる賞』として、井上さんや皆さんと一緒に「問いの歴史」を作り上げていきたい」と今後の意気込みを語っていました。


会員制オンラインプログラム「CULTIBASE Lab」は、様々なテーマに基づくワークショップや講座、研究会の実施を予定しています。動画やメールマガジンによる豊富なコンテンツの配信を行なう一方で、それらの情報をただ受動的に受け取るだけでなく、会員自身が主体的に思考し、新たな知識を生み出し、アウトプットしていけるような学習環境の構築を目指していきます。興味のある方は、まずは下記バナーより詳細をご確認ください。

CULTIBASE | CULTIBASE Labの紹介

CULTIBASE Labの3つの特徴 CULTIBASE Labは3つの特徴を通じて、 “組織ファシリテーション”の技を磨 いていきます。 01 ここでしか学べない、厳選された最新知見が掴める CULTIBASE …

ライター:田口 友紀子
フリーランスのライター・編集者。東京都在住。FICCにてプランナー・ディレクターとしてプロモーション企画やコンテンツ制作に従事。やがて自身の文章への執着心に気づき、PR会社勤務を経てライター・編集者として独立。人の動機や感情に焦点を当てながら、伝わる言葉を紡ぐことを目指している。

関連記事はこちら

ファシリテーターが問わずとも、問いが浮かび上がる身体や組織になるために──「問わずして問う」ための技法を、塩瀬隆之と安斎勇樹が考える

関連するおすすめ

気になるコンテンツからチェックしてみてください

パッケージ

テーマごとにコンテンツを厳選してまとめました。

もっと見る